4月5~8日にホーチミン市のSECC展示場で、縫製と素材の大型展示会「SAIGONTEX & SAIGONFABRIC 2023」が開催された。屋内のAとB両ホールに巨大なテントを使ったC~Eホールを追加した、過去最大規模となった。
出展の9割が中華系企業
屋内のAホールから会場に入ると、すぐに目に入るのはと台湾のパビリオンだ。その先は香港や中国のブースが並んでおり、今回の特徴は何と言っても中華系企業の大量出展だ。
21の国と地域から約1700のブース、出展企業は約1300社と発表されているが、展示会HPの出展者リストによると総数は1350社で、そのうち中国系が1034社、台湾系が61社、香港系が27社と中華系企業が全体の83%を占める。
ただ、ベトナム企業122社の中に相当数の現地中華系が含まれているはずで、体感では9割程度が中華系企業。会場からは「本国の景気悪化で海外に活路を求めたのでは」との声も聞こえた。
延反機と自動裁断機
日系企業は10社もなく少々寂しかったが、実は特に少ないわけでもない。何社かを紹介すると、縫製用の大型マシンが多く置かれたAホールに出展していたのは、アパレル関連機器を製造する川上製作所。生地を伸ばしながら裁断用に積み重ねる延反機と、その生地をまとめて裁断する自動裁断機を展示。幅2000mmのロール状の生地を扱えるサイズだ。
顧客企業は中国の大手アパレルメーカーなどの縫製工場で、中国工場からアメリカへの輸出が難しくなったため、ベトナムなどの東南アジア諸国に工場を設立。同社も当地でのパーツ供給やメンテナンスのためにKAWAKAMI CUTTING SYSTEMS VIETNAMを2016年に設立した。
「お客様は現在、日系や韓国系の企業にも広がっています。マシンは日本からの輸入です」
今回の主な出展理由は、現地法人がしっかり対応できることの既存顧客へのアピール。ローカルの縫製工場にも購入してほしいが難しいだろうと考えている。なぜなら、延反機や自動裁断機で裁断された生地がミシンで縫製されるわけだが、企業規模がある程度大きくないとこれら高価なマシンを購入できず、その必要もないからだ。
日本の縫製工場が海外に移転したように、労働集約型の縫製作業は賃金の安い国や地域に移行する傾向が強い。しかし、あまりに後進国だと労働者の技術や材料の調達に苦労する。
「平均賃金は上昇していますが、ベトナムの縫製工場は今後5~10年は優位性を持ち続けると思います」
サンプルテストを望む人も
延反機と自動裁断機を中心に検針機やX線検査機などを幅広く展示していたのがHASHIMA VIETNAMだ。2013年にハナム省に設立され、主にベトナムでは自動裁断機や延反機、日本では検針機やX線検査機を生産している。
マシンを現地生産している強みもあって、展示会でのターゲットとなるのはローカルの縫製工場。出展は5回目となるが、前回に比べて来場者が少ないと感じている。
「テストさせてほしいとサンプルを持ってくるお客さんもいますが、見学はしたいが購入は未定といった方が多いですね。ベトナムの縫製業界はまだ厳しいですから」
最新の機種と技術を展示
BROTHER INTERNATIONAL (VIETNAM)は主力商品のミシンを中心に展示。新規顧客となるローカル縫製工場へのアピールが目的だ。プログラム式電子ミシンの新モデルやジーンズ向けの仕様が追加された最新のオーバーロックミシンなどを展示しており、来場者の興味を誘っていた。
「縫製業界全体が良くないので、前回ほどの来場者はいないと思います。それでも皆さん、やはり新機種には目が行くようです」
展示会の商談で購入が即決することはまずないが、ブースでの接点から引合いが生まれ、デモ機を工場で試してもらって納入に進むという。買い換え用の数台からライン増設などで数十台、工場新設となれば数百台というケースもある。
日本の先端技術を動画で伝えるコーナーも新設した。例えばボンディングマシンで、生地に接着剤を塗布して貼り合わせ、同時に圧着する。糸を使わない無縫製で、立体的なデザインやなめらかな曲線に仕上がる。
「体にフィットしたスポーツウェアなどに使われます。将来はベトナムに導入したいですね」
安全なプラスチックホック
大型マシンのAホールと比べて、Bホールには小ブースと生地系のブースが多かった。日系企業も複数あり、ホーチミン市に支社を持つカジテックは前回に続いての出展だ。
展示したのはプラスチックホック(ボタン)とそれを生地に取り付けるマシン。プラスチックホックは耐摩耗性や耐疲労性に優れた軽量のポリアセタール製で、ベビー服やスポーツウェアへの使用を提案する。
ベトナムではまだ金属製ホックが多いため、服から外れると生地だけでなく乳幼児の肌を傷つける危険も出てくる。運動のためのスポーツウェアも同様で、今回は両者のホックを並べて展示した。
「ベトナムの大手ベビーブランドの縫製工場と取引があり、それを伝えると一層興味を持っていただけます」
マシンはプラスチックホック打ち専用の半自動機と全自動機。特に全自動機が来場者の目に留まるようで、プラスチックホックとのセット販売となっている。ブースが会場出入口の近くにあり、来場者は寄ってくれるが、その人数にかなりの波があるという。
「売上は上昇しています。前回出展した効果が出ていると感じて今回の出展を決めました」
商談を変える工場の有無
こちらも前回に続けて出展したSHIMADA SHOJI (VIETNAM)。親会社の島田商事はアパレル資材商社で、ベトナムで製造業をスタートした。工場を設立して、アパレル関連の紐、ポケットの裏地、テープ、ストッパーなどの部材を生産している。
「新製品となる樹脂製のストッパーやファスナーの引手などを展示しています。取扱いで多いのはパーカーの紐やパンツのゴム紐などです」
ターゲットはアパレル関連企業全般だが、品質やデザインにこだわる日系、韓国系、欧米系などの企業を中心に考えている。来場者の反応は「ベトナムでこんな商品が作れるのか」と感心され、「ベトナムに工場はあるのか?」と続くケースが多いそうだ。
「ベトナムに工場を持っていると答えることから商談が始まります。ないと答えたらそこで終わっているでしょう」
初出展で多くの情報を収集
MARUSHIN (VIET NAM)&CO.,LTDは2018年の設立で、アパレルやシューズ用の紐を生産している。親会社の丸進はアパレル資材の商社で、ベトナムで製造業を始めた。現在では様々な用途に使われる多種多様な紐のラインナップを持つ。SAIGONTEXへは初出展だ。
「どんな方々がこの展示会に来るのか。初めてなのでその調査から始めるつもりです。ターゲットを絞るなどは考えていません」
現在の取引先は日系企業が多いが、特にこだわらず、アパレル用の紐の現地調達を望む企業に幅広く展開するつもりだ。工場を設立して5年目となり、今後は設備投資を増やしたいと語る。
日本シェアトップの「前かん」
金属プレス加工でアパレル製品や電子精密部品を生産する大石金属工業。そのベトナム現地法人であるOISHI INDUSTRIES (VIET NAM)がアピールしていたのは、スラックスなどパンツのウエスト部分を留めるカギホックと、カギホックの取付け全自動機だ。
「弊社は前かん(カギホック)の製造販売からスタートして、次第に精密部品加工へと事業を広げていきました」
カギホックの市場シェアは日本でトップとのことで、代理店を介したエンドユーザーには日本の大手アパレルメーカーがずらり。現法設立は2011年で、精密部品を中心に生産しているが、カギホックにも対応できるという。
カギホックを扱うのは縫製工場やアパレルメーカーだが、代理店経由での取引が一般的なので、来場者に自社を幅広く知ってもらうつもりだ。
「出展は2回目です。今回は大盛況というわけではありませんが、打ち機を動かしていると注目してくれますね」
Cホールは生地展示会
A、Bの屋内ホールから外に出ると、巨大なテント会場とも呼べるC、D、Eの3ホールが隣接している。
比較的小さなDとEには中国の大手企業が展示する大サイズの高速刺繍機、共同展示ブースでは中国製の工業用シリンダーヘッドミシンなどが置かれていた。一番広いCホールは生地や糸などの小ブースが数えられないほど長く並び、独立した生地展示会のようだった。ここでも中華系企業がほぼ全てを占めていた。
今回は中華系ブースが目立った一方、外資系やローカル企業、一時は大量出展していたインド系の出展も少なく、来場者に外国人も多くなかった。しかし、「過去最大規模」の意味は大きい。
ベトナムの縫製業は主要な輸出産業の一つであり、昨年は世界不況から需要が急減してレイオフなども行われた。現在もまだ回復の途上だが、この展示会が業界を少しでも上向かせるきっかけになってほしい。