今年8月にChatGPT-5がリリースされ、利用が一気に加速している生成AIの世界。では、ベトナム人は生成AIをどう活用しているのか。年齢層、人気のツール、利用目的、AIへの意識、国際比較などを調査結果から分析した。
Users 若者とホワイトカラーがAIを牽引
ベトナムの生成AI(AI)は都市部の若年層が主要ユーザーのようだ。世界40ヶ国の約3万4500サンプルを調査したWorldwide Independent Network of Market Research(WIN)の「World AI Index 2025」では、ベトナムを2024年12月~2025年1月にハノイ、ホーチミン市、ダナン、カントーの4都市で900人を調べた。
その結果、回答者の約60%がAIを利用した経験があると答えたが、日常的に活用しているのはわずか3%。ただ、ハノイとホーチミン市では18~34歳の利用者が多く、中でも18~24歳では利用経験率がハノイで89%、ホーチミン市で87%と非常に高かった。
最新調査(2025年7月下旬)を読むと利用率の急増がわかる。600人が対象のDecision Lab「The State of Consumer AI in Vietnam 2025」によれば、過去3ヶ月で78%の人が少なくとも1つのAIを使用し、33%が日常的に利用。特に18~24歳では利用率が86%、日常利用が40%と双方でトップだった。
その利用者とは「学生」が92%と最多で、2位が「オフィスワーカー・経営者」(78%)、3位が「公務員・専門家」(73%)だ。
ビジネス利用が多いのは、Microsoftが31ヶ国3万1000人の労働者を対象にした2024年2~3月の調査「AI at work is here. Now comes the hard part」でも明らかだ。
ベトナムのホワイトカラーの88%が業務でAIを活用しており、世界平均の75%を大きく上回った(日本は32%とダントツの最下位!)。また、全世代のユーザーの約70%が個人向けAIツールを業務で利用していた。
ベトナムでは若年層とホワイトカラーを中心に利用者が増加している。

AI Tools ChatGPTが1位、国産AIは満足度2位
ベトナムではどんなAIツールが人気なのか。Decision Labの上記調査によれば、ベトナムのユーザーは平均2つのAIを使い、最も多いのがOpenAIのChatGPTで81%、2位がGoogleのGeminiで51%、3位がMeta社のMeta AIで36%だった。
満足度では異変が起こる。1位はChatGPT(51%)だが、2位はベトナム国産のAI Hayでトップと僅差の47%。Gemini(36%)とMeta AI(27%)を引き離した。ちなみにAI Hayの利用率は9%で順位は6位、同じく国産AIのKikiは3%で9位だった。
また、ChatGPTはオールラウンド、Geminiは学習向け、Copilotは情報検索、Metaは日常会話、AI Hayは学習とトレンド検索など、目的によって使い分ける傾向が見られた。
利用ツールについて少し前のデータと比較したい。アウンコンサルティングの「世界18か国・地域における主要生成AIの検索ボリューム」で、検索ボリュームとは特定のキーワードにおける検索エンジンでの検索回数を示す。
調査対象のほとんどの国ではChatGPTが1位を占める中、ベトナムだけはGeminiが1位だった。2位はChatGPT、3位はBard(現Gemini)、4位はMicrosoftのCopilotと、他国とは異なる構図となった。
GeminiはGoogle検索と深く統合されており、Google検索のシェアが高いベトナム、タイ、マレーシアでの検索ボリュームが目立った。ベトナム語を含めた多言語対応も特徴で、8ヶ国でGeminiが2位となっている。
ただ、この順位は2024年10月時点でのランキングであり、現在は冒頭のようにChatGPTがダントツトップなのだろう。

Use Cases 学びと仕事を変えるAI活用術
ベトナムにおけるAIの活用は教育とビジネスの現場で多そうだ。
教育分野では、ホーチミン市国家大学の6つの加盟校を対象とした2024年の調査で、約10.8%の学生が有料版を、約90%が無料版を利用し、言語学習を含む学習サポートに活用しているとわかった。
これは2024年11月の大学でのワークショップで発表された内容で、「教育と学習へのテクノロジーの活用で多くの機会が創出され、学習成果が向上した」と結論付けている。約1年前の数字である。
Decision Labの上記調査では利用を5つのカテゴリーで分けており、最も多いのが「仕事と教育」で84%。「娯楽と社交」(79%)、「⽇々のルーティン」(78%)、「クリエイティブ」(70%)、「健康とウェルネス」(62%)と続く。「仕事と教育」での使い方を聞くと、「新しいスキルの習得」(34%)、「翻訳」(33%)、「専門分野の研究」(25%)が多い。
また、同社の別調査「The State of AI in Marketing in Vietnam」(2023年10月~2024年2月)では、ベトナム企業の89%以上がマーケティング戦略にAIを組み込んでいる。
具体的には「顧客対応のチャットボット導入」が70%、「コンテンツの自動生成」が63%、「個人へのレコメンド機能」が59%と多彩だ。
Microsoftの上記調査でも、「書類の翻訳・要約」や「メールの下書き」といったルーチン業務だけでなく、業務レポートや企画書など創造性を伴う業務への広がりが指摘されている。

Sentiment 歓迎か懸念か、国民感情の実態
ベトナム人のAIに対する姿勢は、世界的に見ても非常にポジティブだ。前掲の「World AI Index 2025」によれば、ベトナムはAIへの信頼度で65.6ポイントを獲得して世界3位、AI受容度では71.6ポイントで5位にランクインした。
AIの快適性や効率性などの評価も世界平均を上回っており、2025年の世界AI指数において100点満点中59.2点を獲得した。これは40ヶ国中第6位であり、日本、韓国、オーストラリアといった先進国を上回っている。特に都市部の住民の間で、新技術へのオープンさと楽観的な見方が強まっているようだ。
前向きな評価が多い一方で、プライバシーや雇用への懸念は根強い。同調査では、52%の回答者が個人情報保護に不安を抱き、48%がAIによる人間の仕事の置き換えを心配している。興味深いのは誤情報に対する警戒心が相対的に低い点で、AIによるフェイク情報に懸念を示す人はわずか36%だった。
Decision Labの調査でも、AI活⽤の課題は1位が「プライバシーと個⼈情報に関する懸念」で44%だった。ただ、2位は「誤った・不正確な回答」(41%)、5位が「偽情報の作成」(29%)で、フェイク情報への危機感は高まっているのかもしれない。
では、ユーザーは何を望んでいるのか。同調査では1位が「ベトナム語のサポート強化(⽂脈や⾃然な⼝調)」(52%)、2位が「個⼈の好みの学習」(49%)、3位が「オフライン版」と「SNSやブラウザなどとの統合」(同率48%)。
今後の利便性は高まるか。

Companies 中小企業もスタートアップもAI
ベトナムのAIの導入は中小企業の投資姿勢にも表れている。CPA Australiaが発表した「Asia-Pacific Small Business Survey 2024-25」では、ベトナムの中小企業の44%が2024年の主要な技術投資先としてAIを挙げており、前年の22%から倍増した。
これは調査対象11ヶ国・地域の中で際立った高さであり、さらに47%以上が意思決定や業務の指針策定にAIを活用しており、この割合も多くの国より上位にある。
同調査は2024年11~12月に実施され、オーストラリア、中国本土、香港、インド、インドネシア、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、台湾、ベトナムの中小企業4236社が回答した。
AIを主要投資とする割合は平均24%であり、ベトナムは約2倍の積極性を見せた。また、ベトナムは40歳未満が70%と若い経営者が多く、2025年は92%が成長を予想しており、楽観度で11市場中トップだった。
一方、スタートアップ環境でもベトナムは躍進している。GenAIファンドが発行した「The ASEAN GenAI Startup Report 2024」によれば、ASEAN地域の生成AI関連スタートアップ数でベトナムは27%を占め、トップのシンガポール(44%)に次ぐ2位となった。
調査対象250社のうち、ベトナム企業は約4分の1以上を占め、3位以下のインドネシア(13%)、タイ(7%)、マレーシア(6%)、フィリピン(3%)を大きく上回る。また、ベトナムの生成AIスタートアップは今後18ヶ月でさらに成長し、シェアは27%から35%へ上昇すると予測されている。
