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ベトナムビジネス特集Vol104|
ベトナム製造業 自動化の夜明け

安価な労働力が魅力のベトナム製造業で今、工場の自動化が進みつつある。上昇する人件費の抑制、生産の効率化、品質管理などが理由で、設備投資を行う企業も増えている。その実際を関連企業への取材で明らかにする。

豊岡エンジニアリング株式会社
取締役・執行役員. 梅田拓哉氏

ここ10年の自動化事情
今年6月にVJTCが開設

 愛知県にあるFA・産業用ロボットメーカーの豊岡エンジニアリング。主に自動車向け金属切削加工の自動化ラインに使われる装置、切削後のバリ取り、金属加工の取出し、搬送用などのロボットシステムを開発・生産している。使用するロボットの可搬重量は約4~500kgと幅広く、顧客は車両組立てや部品生産、食品、木工、樹脂関係など合計で10業種程度に及ぶ。
「最近はラインの増設が多く、月に6~7台のロボットが出ています。弊社は独立系なので多くの商社さんとのお付き合いもあります」

アルミ溶湯供給ロボット


 ベトナムで自動化のニーズを探り始めたのは2007年から。しかし、現地でのヒアリングは散々だった。「人件費の安さから進出したので、経費がかさむ設備は不要」が一般的であり、自動化の話をすると、「あなたは何を考えているのか」と30秒で席を立った日系企業の社長もいたとか。そんな中、2011年4月にビンズン省の金属加工メーカーから、技術訓練に使いたいという発注があった。
 納期の関係で受注はできなかったのだが、トレーニング用としてのロボット導入を思いつく。これをきっかけに2012年に名古屋のJICAに相談し、案件が採択されて、2013年7月から「サイゴンハイテクパークトレーニングセンターを拠点としたロボット生産システムの普及・実証事業」が始まった。
 そして今年6月、ホーチミン市9区のサイゴンハイテクパーク(SHTP)内に、「日越トレーニング・技術移転センター」(VJTC)がオープン。工場の自動化や産業用ロボットの活用など、高度な技術を持つ人材の育成や技術移転のための施設である。
「SHTPの日系企業からの要望もあり、ここではFAの3つの構成要素である機械装置、電気制御、ロボット技術を教えています。初級および応用をそれぞれ3日程度のコースで設けています」
 今後の主流となるのは、企業の希望に沿ったオーダーメイド研修。VJTCで社員を教育するスタイルで、既にFA教育の前段階である、専門性の高い3D-CADのトレーニングを行っている。自動化のためのローカルスタッフ育成の必要性はますます高まるはずだ。

SHTPの職員をマスタートレーナーとして訓練

サムスン電子が技術移転
成長するローカル企業

 このように10年以上ベトナムの自動化を見てきた梅田氏は、「この2年で潮目が変わった」と語る。当初は日系メーカーが優先して産業用ロボットを導入していると思っていたが、ベトナムに大生産工場を持つサムソン電子が火を着け、その技術移転で育ったローカルメーカーを日系大手が使い始めたと感じている。
 サムソン電子の工場には、スマートフォンなどを製造する産業用ロボットが千台単位で設置されているという。これらは基本的に韓国本国で調整されるが、さすがに全ては無理なので、現地のエンジニアリング会社が必要となる。そのニーズが急速に立ち上がり、ローカルのエンジニアリング会社が増えて、技術移転が進んでいるというのだ。
「サムソンで鍛えられたローカル企業は、スマホや半導体関連なら十分なマンパワーと消化能力を持っているようです。日本での自動化ニーズは人手不足などで納期が厳しいので、今後は生産システムをハノイで作って日本に輸出することもありえます」
 梅田氏も当初はそこまで考えていなかった。だが、自動車産業のような重厚長大型でなく、短いサイクルでg単位やmg単位を動かす機械であれば可能性を感じたという。ただ、スマートフォンメーカーのような装置産業ではFAや産業用ロボットは「付いて回るもの」だが、豊岡エンジニアリングのような自動車産業の自動化はこれからで、1次や2次サプライヤーから導入が進むだろうと見ている。
「ビンファーストで一部生産始まっていると聞きますが、実際、ベトナムのFAメーカーが弊社の工場に研修に来て、熱心に製品のことを尋ねていました」
 日本とヨーロッパの産業用ロボットを比較すると、日本は自動車中心の金属系製造業用、ヨーロッパはの「3品」と呼ばれる化粧品、医薬品、食品など消費財製造用だそうだ。ひょっとしたらベトナムはヨーロッパ型から入り、国産自動車メーカーが起爆剤となって日本型に進む可能性もあると考えている。

豊岡エンジニアリングの工場内


 それ以外の分野も考えられるそうだ。例えばレンガを製造する装置のメーカーが、自社装置に関連する搬送用ロボットを開発していた。機械でレンガを練って形にした後、生乾きのレンガは人が運搬する。しかし重労働なので人手不足が全国的に起こっており、それを自動化するロボットだ。技術的な要素は他国のコピーがあるかもしれないが、「自分たちのう努力」はしていたという。
「残念ながら、こうしたニーズはあっても件数自体は少ないでしょう。ただ、数人で運んでいる工場内での重量物運搬を搬送機に替えるなどはあると思います。現時点では割高でも、賃金上昇後の5年後を考えれば入れざるを得ないという判断です」
 ベトナム市場の有望性は1都市集中型でないこと。ハノイとホーチミン市の2大都市があり、ダナン、ハナム省、カントーなども成長している。加えて産業育成に熱心な省が全国に分散している。
「自動化はこれから進む。紆余曲折はあっても進むしかないでしょう」

Mitsubishi Electric Vietnam Co., Ltd.
General Manager Factory Automation Division
中山 崇氏
Manager, Factory Automation Center Section
Industrial ProductsDepartment, Factory Automation Dividion
丸山泰明氏

進む産業用ロボットの導入
市場は2.0から3.0への移行期

 冷蔵庫やエアコンなど一般消費者向けの事業から始まり、2013年に新たにFA事業をスタートさせた三菱電機ベトナム。各種装置の制御・自動化のためのPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)や表示器等のコントローラ機器、産業用モーター、ACサーボなどのFA機器の他、セル生産分野での産業用ロボットまで幅広く取り扱う。

「FA機器と産業用ロボットに加えてブレーカーなどの電気設備で業績が良く、最近では産業用ロボットの引き合いが多いです。昨今言われるインダストリー4.0の前、大量生産、自動化が進み始めた2.0から3.0への移行期が今のベトナム市場だと思います」(中山氏)

日越トレーニング・技術移転センター

 同社の顧客は二輪、四輪、電気電子、食品、繊維、縫製、プリンター、サニタリーなど広範囲で、日系企業が約6割、残りがローカル企業と韓国系などの外資系企業だ。自動化の案件は割合としては日系がやや多く、省人化にプラスして品質の安定化や生産の効率化が目的。ただ、賃金が上昇しているとはいえベトナムの人件費は他国と比べて安いほうなので、生産工程ごとに労働集約型か自動化かを、費用対効果を確認しながら進めているようだ。

「設備や装置単位の『見える化』から始めることが多いですね。稼働時間、生産実績、エラーの内容などのデータをスマホやタブレットでリアルタイム監視できる、『GOT Mobile』というシステムが人気です。こうしたことから徐々に自動化が広がるのではないでしょうか」(中山氏)

 見える化によって生産設備を監視して生産性向上を図り、これをモデルケースとしてライン単位、工場単位、拠点単位と拡張させていくケースが多いという。縫製工場の導入事例では、生産情報を送信する機能を持つ同社のミシン、PLC、上記のGOT Mobileをネットワーク化した。これによりミシンの稼働時間、アイドル時間、エラー情報、糸切り回数、給油回数、消費電力などが把握でき、作業や生産ラインの効率化、予防保全、人材の管理などが可能に。顧客の評判は上々で、「こんなデータが見たかった」などの声が多い。

 また、日系企業を中心に自動化案件で多いのが検査機器。目視などで行っている検査工程に産業用ロボットを導入するのだが、それだけに終わらない。検査機器にカメラやセンサーを付けて1つ1つの製品をチェックし、トレーサビリティを進めたいとする企業が増えたそうだ。

「人によるミスを防ぐとともに、エンドユーザーが求めているトレーサビリティを付加したいとのご要望です。産業用ロボットのニーズはこの数年が顕著で、ものづくりの生産設備というより検査機器や搬送機のような後工程の作業が中心です」(丸山氏)

GOT Mobileのイメージ図

省人化だけでない総合力
将来はスマート工場にも

 同社では自動化の導入をソリューション型で進めており、最初に希望する内容をヒアリングして、産業用ロボットであればロボットの重量(持てる重さ)と手の長さ(動かす範囲)を基本に、大まかなロボットの仕様を考える。この2つが重要な要素だそうだ。そしておよそのアイデアから、シミュレーションツールで自動化後のイメージを作り、デモ提案やベトナムのシステムインテグレーターとの連携提案の流れになる。その中には導入による効果試算なども含まれる。

「実際に稼働しないとわからない部分もあるので、あくまでイメージで、打合せから生産体制に入るまでは半年ほどかかります。産業用ロボットの問合せは月に10件程度です」(丸山氏)

 自動化によるメリットを考えれば、導入企業の工場はある程度の規模になり、大手メーカーやそこに部品などを納品しているサプライヤーが多いという。また、自動化に積極的な企業は単に人手を減らすことが目的でなく、品質向上、予防保全、生産履歴、就業管理、人材育成にまでつながる機器やシステムを検討するケースが多いそうだ。

三菱“e-F@ctory”ラボの産業用ロボット

 自動化への相談や問合せは昨年の倍近く増えているものの、数百台を導入するような大規模な事例はまだ稀で、部分的にセル単位や工程単位で進んでいると感じている。今後は対コスト、対競合を意識する段階に進むので、自動化はますます増えると見ている。

 同社はホーチミン市のサイゴンハイテクパーク(SHTP)内に設置された、「日越トレーニング・技術移転センター」(VJTC)において、「三菱“e-F@ctory”ラボ」を開設した。e-F@ctoryは2003年から三菱電機が推進している、スマート工場実現のためにFAとITを融合させたソリューションのこと。同ラボではロボットによる自動化やPLC制御などを展示しており、「実際に見て、触ってほしい」としている。

VJTC内の三菱“e-F@ctory”ラボ

「自動化や省人化のニーズ増の中でも、エンジニアの育成は特に課題だと考えています。求められている現地スタッフへのトレーニングや教育のために、同センターで活用いただいています」(丸山氏)

「ベトナムの加工・製造業分野は年率10%強で成長しており、自由貿易協定や中国などからの生産拠点シフトも影響を与えるでしょう。自動化への投資は拡大して近い将来、IoTを活用したスマート工場へのニーズも急速に増加すると思います」(中山氏)

Vietnam KLEC Co., Ltd.
General Director 川瀬輝彦氏

日系企業が自動化を推進
省人化は喫緊の課題

 FAシステムエンジニアリングを主事業として、計装制御や機械設備のエンジニアリングなどを幅広く行うベトナムKLEC。顧客の要望に合わせて自動化のための機械や設備を作るほか、日本や各国からの自動化装置も取り扱い、コンベアなど自動化装置間の設備も製作する。

 設立は2013年。海外発拠点でベトナムを選んだ理由は、日本でベトナム人スタッフが育っていたこと、FAをメインで仕事をしていた顧客がハノイに進出すること、社長の視察やヒアリングでベトナム事業の拡大性を感じたことなど。日系製造業は多いが、中小企業向けの日系エンジニアリング会社がほとんどないことにも勝機を感じていた。

「自動化を進める日系企業はとても増えています。3年前なら『やりたいね』、『いくらかかるの』という感覚でしたが、ここ1年で実際に導入する企業が増加しています」

 大きな理由は人件費の上昇と見る。例えば、従業員の給与が年に7~8%上がり、大きな工場であれば何百、何千人のワーカーが働く。企業は給与の上昇分×人数の総額を、毎年収益として上乗せする必要が出てくるので、人数的なコストダウンを図りたいという目的だ。だだし省人化だけでなく、生産のスピードアップや、人的ミスの削減による品質管理、歩留まり向上なども重要な導入理由であり、一口で言えば「儲かる工場」を目指している。

PLC計装システムの試運転調整

 一方、従業員の給与は毎年上がっているので、その分だけ高額な設備投資が可能となる。月給150USDの時代と300USDの時代では、後者のほうがコストダウン=投資できる金額が大きくなるからだ。ただ、厳しい財務状況であれば設備投資の回収は1年とも言われるので、当然ながらプレッシャーにもなる。

「周囲からは『自動化のためであれば回収2年も可』、『仮に2年で回収できなくても5年後を考えれば今動くべき』などの声も増えています。それだけ喫緊の課題ということでしょう」

 金額によっては日本本社の承認が必要となるが、増減の金額がわかりやすい自動化設備の導入は説明がしやすく、許可が受けられやすいという。

真空バキューム集塵装置

日本版の再来、ベトナムへ
今後はIoTの導入も

 ベトナムKLECの顧客は9割以上が日系企業で、業種は広いものの多いのはバイク、自動車、プリンターなどのサプライヤーだ。

「日本でもそうでしたが、自動化は自動車業界から始まることが多い。また、日本や他の海外拠点で実装が終わったので、次はベトナムへという流れができつつあるように思います」

 自動化の設備は様々だが、小型の産業用ロボットを入れたい企業が多いそうだ。また、手作業の代わりにプラスチック成形機を導入してカスタマイズしたり、目視検査の代わりに検査装置を導入するなど様々。

 同社では顧客からラフな構想を聞き、生産現場を見て、ベトナムに合わせたアドバイスをする。日本の工場が既に自動化しており、それを導入する場合でも、プラスアルファのアイデアを出す。日本製品とは異なる周波数に対応させたり、日本と同じ製品がないのでサポートが受けられる同等の製品を現地調達するなども行う。

 日本では現在、人手不足やコスト削減でIoTなどを用いた高度な自動化が進んでいるが、それ以前にも自動化のブームがあったという。当時はエンジニアリング会社も多かったが、その後淘汰が始まり、熟練エンジニアの技術継承問題や生産工場の海外移転などがあり、限られた大手企業を除けばかなりの数が減ったと川瀬氏は語る。

「当時のブームを私は知らないのですが、ベトナムの自動化の波を日本版の再来と見ている人が多くいます。ただ、弊社はそのニーズを見越した進出ではなく、自動化が大きく進むとは考えていませんでした。本当にこの1年ほどの動きです」

 同社では自動化に関する案件が増えており、またIoTの分野では人気の産業用ソフトウェアの認定販売代理店なので、問合せや打合せが多くなっているそうだ。IoTの案件は1年後くらいから実装されるのではないかと見ている。

 ニュースなどで話題になるIoTは大手企業が導入する大規模なものだが、現場で出来高を数えるシステムも広義のIoTになるという。例えば、ネジを作る作業を人手で行い、できたネジを台秤に乗せて重さを量り、100gになったら袋詰の工程に移すなどだ。これを加工機を入れてネジを作り、IoTとセンサーを使ってネジの数量を自動でカウントする。これも立派なIoTによる自動化だ。

自動生産ライン制御システム

 川瀬氏によると、中国やタイからベトナムへの製造業シフトが進んでおり、それは実際に中国やタイ、他にもインドネシアやマレーシアから自動化装置を持ってくる顧客からも伺えるという。現在は簡単な工程をベトナムに移しているだけだが、今後はより複雑な工程も増えていくと感じている。

「製造業の業種や規模を問わず、ベトナムでの自動化はますます広がると思います。日本で自動化が進んだ時代と今では情報量も環境も違うので、スピードも速くなるでしょう」