40年前の日本をベトナムで再現
ソフトクッキーで内需を掘り起こす
不二家と丸紅の合弁会社である不二家ベトナムが2025年11月に生産を開始した。不二家にとってベトナム初進出、丸紅は東南アジアにおける初の菓子製造販売事業としての挑戦だ。その背景と戦略を東上床友輝社長が語る。

試験販売から始めた第一歩
―― ベトナム進出の経緯を聞かせてください。
東上床 不二家は中国に工場があり、現地での生産・販売で成功。主力商品は中国向けにローカライズしたポップキャンディです。その次の進出先として、日本の菓子へのロイヤリティが高く、市場の成長が見込める東南アジアを考えました。
中でも代表ブランドであるカントリーマアムの市場性がある国として、ソフトクッキーという分野が未開拓のベトナムに注目した。ベトナムの状況は約40年前の日本と似ており、カントリーマアムの誕生が1984年でまさに約40年前。日本の再現ができると考えたのです。
丸紅としては、多様な菓子関連ビジネスをしてきた中で、B to Cの菓子製造事業への参入を検討していました。不二家と同じタイミングでベトナムを考えており、戦略も合致して、合弁会社設立となったのです。
私は日本で流通菓子市場をターゲットとする事業投資担当をしていました。菓子業界が長いこともあって自ら2022年2月に丸紅ベトナムに出向し、不二家ベトナムの設立に従事したのです。

―― まずは試験的な輸入販売を始めたとか。
東上床 現地で工場を作っての生産と販売が可能かどうかのテストマーケティングです。コンビニやスーパーのMTチャネルと小さな個人商店のTTチャネルの双方から、1店舗あたりの販売個数や配荷店舗数の獲得速度などのデータを集めて、拡大推計して全国に当てはめて、事業の規模や実現性を調べました。
具体的にはホーチミン市に限定して2022年12月から1年弱のテスト販売を行いました。スーパーマーケット業態で3企業、コンビニ業態で5企業、TTチャネルは高所得者、中所得者、低所得者の層として1区ずつピックアップして、データを収集してきました。
ただ、通常の輸入販売ですと価格は日本の2~3倍になるため、将来的に当地の工場で生産した場合のコストから逆算しつつ、他社商品を考慮した実売価格で値付けをしました。当地で生産すればローカル商品の価格プラス10~20%程度に抑えられますから。
その結果、各チャネルのベンチマークを十分にクリアする数値が出まして、2024年より工場建設プロジェクトを本格化させ、2025年11月からカントリーマアムを生産しています。
MTではコンビニ業態向けが主に4個入り、スーパー業態では主に12個入りと24個入りで、大中小のサイズ。TT向けには主に3個入りと10個入りがあります。価格はおよそ3個入りが1万VND、4個入りが1万5000VND、12個入りで3万VNDです。
我々が1番届けたいお客様は小中学生の子どもたちとその保護者の方たちですので、子どもがお小遣いで買える1万VNDから始めました。ローカル商品と比べて遜色ない価格と思いますし、日本でも子どもから広がって、全世代的な菓子へと成長しました。
―― ベトナム向けにローカライズしたそうですね。
東上床 味覚の一番の特徴は「甘さ控えめ」です。日本のカントリーマアムは「美味しいけれど甘すぎる」というフィードバックがとても多く、ベースとなるレシピや配合は基本的に日本仕様で、甘さを抑えました。また、日本で数多くあるフレーバーの中から調査を通じて、ストロベリー、バニラ、チョコレートを最初の3品と決めました。
外はさくっと、中はしっとりの食感は日本と同じです。「湿気ている」などと言われるかと思いましたが、食感は好意的な意見ばかりでした。クッキーという形ではなくても、スポンジケーキやチョコパイなどで似た食感が根付いているのかもしれません。
パッケージのデザインもマイナーチェンジしまして、カントリーマアムの「MA’AM」を強調して、ロゴ自体を大きく変えました。覚えやすく、お母さんというニュアンスを伝えるためです。
テストマーケティングの期間はプロモーションやマーケティングにもトライしまして、1番重要と考えるようになったのはサンプリング(試食会)です。ソフトクッキーを食べたことがない人が大多数ですので、やはり知ってもらうことが大切です。
また、FacebookやTikTokで面白い投稿や新商品情報などを発信しており、消費者とのタッチポイントを増やしています。ブランディングなどの考え方はどうしても生まれ育った環境に左右されますので、日本人は介在せずに、コンテンツ作りなどはベトナム人スタッフに任せています。

年間5億枚、ナンバーワンへ
―― 流通ルートも自社で開拓されているようです。
東上床 MTでは各企業との直接取引。TTでも全国に20万~30万あると言われるパパママストアに対してディストリビュータに頼まず、自社スタッフが1店舗ずつ販売していく方法が最適と判断しました。
従業員はおよそ営業110~120人(ベトナム南部地域)、バックオフィス20人、工場で30人の合計160人。営業職にいかに効率よく動いてもらうかがベトナム内需への課題とし、AIを使った独自の営業支援システムを導入しました。
過去の様々な販売記録や店舗の立地情報などを収集して、訪問先、営業内容、ルートなどを最適化しています。結果として1人当たりの訪問数が飛躍的に伸び、大手他社様の半分程度の人員で同程度の店舗をカバーできていると感じます。
日本と流通構造が全然違うので苦労はありますが、一方で参入障壁にもなっています。他国から輸出するモデルでは本当の意味でTTに入るのは難しく、自分たちで根を張ると非常に面白い市場が開けると思っています。

―― 今後の予定や計画を教えてください。
東上床 2026年の上期から輸出を順次スタートする予定です。タイ、シンガポール、インドネシアなどの東南アジアと韓国、台湾、香港など東アジアの10ヶ国程度で、各国のパートナーと下準備をしています。
基本的に1ヶ国に1社の販売代理店を考えています。1つの国で複数のパートナーを持つ企業もありますが、決めた相手と販売もマーケティングも二人三脚でやっていくのが中長期的での成功モデルと思います。
また、今はカントリーマアムのみですが、2026年からは「プチワールド」として、NYチーズケーキとバターフィナンシェを発売する予定です。どちらも日本の商品をローカライズしたソフトタイプの焼き菓子です。
ベトナムは菓子のバラエティが拡大する大きなポテンシャルがある一方、相対的に1人が菓子に使える金額は限られるため、2~3年で結果が出る市場ではないと思っています。
それでも、到底先なのですが、将来はカントリーマアムを年間5億枚くらい作りたい。ベトナムナンバーワンのクッキーメーカーになるのが不二家ベトナム設立の大きな目標ですから、やれることは全部やっていきます。




















取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。