世界的な食料供給への懸念が強まるなか、ベトナムのコメ価格が低迷している。
フィリピンが2026年のコメ輸入量を過去最高となる500万トンに引き上げる方針を示したことで、輸出拡大への期待が高まった。しかし、実際にはベトナム米の価格はほとんど動かず、むしろ下落傾向にある。
一方、タイ米など競合国のコメ価格は上昇している。背景には、フィリピンが輸入先の多角化を進め、ベトナム以外の供給国にも輸入枠を広げていることがある。
フィリピンの輸入拡大でもベトナム米は動かず
9月初め、フィリピンが2026年のコメ輸入量を500万トンにすると発表した。過去最高水準となる見通しであり、フィリピンを主要市場とするベトナムの農家やコメ輸出企業からは、市況回復への期待が高まった。
しかし、実際の市場ではベトナム米の価格は横ばいが続いている。
これに対してタイ米は上昇している。タイ米輸出業者協会(TREA)によると、標準的な砕米率5%のコメは今週、前週比7USD上昇して1トン当たり490USDとなった。前月と比べると24USDの上昇である。その他の品種も平均で1トン当たり約10USD値上がりした。
なぜ、世界的な需要拡大が見込まれるなかでベトナム米だけが伸び悩んでいるのか。
フィリピンが輸入先を多角化
ドンタップ省のベトフン社のグエン・ビン・チョン社長によると、現時点でベトナム企業にはフィリピンからの新たな注文が入っていない。
アフリカや中国向けの需要も鈍化している。これらの市場では年初から一定量のコメをすでに輸入しており、追加需要が弱まっているためである。
一方、フィリピンはコメの調達先を多角化している。
同国はタイ、カンボジア、ミャンマー、パキスタンに輸入に必要なSPS(衛生植物検疫措置)関連の許可を新たに与えており、これらの国のコメ価格が上昇する一因となっている。
ベトナムからの供給については、まだ十分な需要が現れていない。そのため、ベトナム国内の価格も動かず、すでに安値圏にあるにもかかわらず下落する傾向さえ見られるという。
輸出先が確保できなければ、企業もコメの買い付けを積極化できない。結果として、農家が販売する籾米価格にも下落圧力がかかる。
現在、生産地での生籾価格は1kg当たり約6,000VNDとなっている。
チョン社長は、価格が大きく下がっていることから在庫用に買い入れたいとの考えを示す一方、現在は融資を受けることが難しく、金利も高いため、積極的な買い付けに踏み切れないと説明している。
農家は生産コスト上昇に直面
他のコメ関連企業からも、現在の籾価格では農家が利益を確保することが難しいとの声が上がっている。
ビンロン省のフオックタインIV社のグエン・バン・タイン社長は、現在のコメ価格はすでに底値に近く、これ以上大きく下落する可能性は低いとみる一方、現時点では新規注文が不足しているため、価格が上昇する状況にもないと指摘する。
特に問題となっているのが資金調達と金利である。
タイン氏は、政府や関係省庁がコメ関連企業や農家に対し、低金利での資金供給を行い、農家からの籾の買い入れを支援する政策が必要だと訴えている。
「エルニーニョで需要が増える」は将来の話
米市場専門メディア「SS Rice News」の共同創設者、ファン・マイ・フーン氏は、いわゆる「スーパー・エルニーニョ」によって世界の食料供給が減少し、コメ価格が上昇する可能性を指摘する。
しかし、それはあくまで今後の予測である。
現時点でベトナムが直面しているのは、輸出先の確保という目の前の問題だ。
フィリピンではここ数カ月、ベトナム産米について新たな輸入許可が出ていないという。
フィリピンは世界最大のコメ輸入国であり、自国が有利な立場にあることを十分に理解している。昨年から現在にかけてコメの供給状況が比較的良好であるうえ、各国の供給業者が同市場への参入を競っている。
そのため、輸出国側がフィリピンの買い手に対して価格や条件面で競争を繰り広げている。
フーン氏は、こうした状況ではベトナム側が不利な立場に置かれていると分析。短期的な市場環境と将来的な食料需給の変化を分けて考え、冷静に対応する必要があると指摘している。
「ベトナム米は一人勝ち」ではなくなった
フィリピンが輸入先の多角化を進めることで、ベトナム産米を取り巻く競争環境も変化している。
フーン氏によると、ベトナムはかつて中国市場への依存度が高く、コメ輸出でも苦戦した時期があった。その後、企業の努力によってフィリピン市場への輸出を拡大することに成功した。
しかし現在は、フィリピン市場でもベトナム米だけが選ばれる状況ではなくなっている。
タイ、カンボジア、ミャンマー、パキスタンなど複数の供給国が競争する市場となり、ベトナム側も市場への向き合い方を変える必要がある。
フーン氏は、双方の利益を調整しながら市場を開拓するとともに、ベトナム自身も特定市場への依存を減らす政策が必要だと指摘する。
稲作を続けられる農業政策が必要
ベトナム農業農村開発政策戦略研究所(IPSARD)の元所長、ダン・キム・ソン博士は、世界的に食料やコメの供給が減少する可能性が高まっていると指摘する。
背景には、農業資材などの生産コスト上昇に加え、気候変動による異常気象の深刻化がある。
ベトナムでは人件費も他国より速いペースで上昇しており、農業生産の採算性を圧迫している。さらに、農地やインフラをめぐって他産業との競争も激しくなっている。
地方政府にとっても、コメを中心とする農業への投資は必ずしも魅力的ではない。稲作だけでは地域経済の成長率を高めにくいとの見方があるためだ。
しかし、農家が利益を確保できなければ、農地を手放す動きが広がる可能性がある。
キム・ソン博士は、コメはベトナムにとって戦略的な強みであり、農業を軽視することはできないと指摘。その競争力を維持するには、農業そのものへの継続的な投資が必要だとしている。
コメ輸出だけでなく農業そのものへの投資を
中国、インドネシア、フィリピンなどでは近年、農業や食料安全保障に多額の資源を投入している。
一方、ベトナムでは農業への投資が十分とはいえず、農産物全体、とりわけコメの成長力や競争力を高める原動力が不足しているという。
これまでも、籾やコメの一時的な買い入れを支援するための融資・金利政策は実施されてきた。しかし、こうした政策は一時的な対策にとどまり、農業が抱える構造的な問題の解決には至っていないとの指摘もある。
ベトナムでは現在、高品質・低排出米100万ヘクタール計画など、農業の生産構造や市場を転換する取り組みも進められている。
キム・ソン博士は、スーパー・エルニーニョの影響が過ぎた後には、農業やコメの役割が改めて見直され、より大規模な投資が必要になると指摘する。
世界的な食料供給への懸念が強まるなか、ベトナムにとって重要なのは、単にコメの輸出量を増やすことだけではない。農家が稲作を続け、農地で安定して収益を上げられる環境をつくることが、長期的なコメ輸出競争力を維持する前提となる。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
ベトナム進出支援LAI VIEN





























