ホーチミン市の行政手続きが大きく変わりつつある。ベトナム内務省が公表した2025年の行政改革指標で、ホーチミン市は全国上位10位に返り咲いた。行政サービスセンターでは施設の近代化だけでなく、オンライン申請やAIキオスクの導入も進み、住民が短時間で手続きを完了できる環境が整いつつある。
一方で、変化しているのは行政側だけではない。住民自身も、紙の書類を窓口に提出する従来型の手続きから、VNeIDやオンライン申請を使って自ら手続きを進める方式への対応を求められている。
行政窓口が「銀行の窓口」のように変化
8月上旬の朝、ホーチミン市ベンタイン街区の行政サービスセンターには、十数人の住民が手続きのため訪れていた。
センターに入ると、まず整理券を取り、土地・建設、司法・戸籍、写し・証明、文化・社会の4分野から必要な手続きを選択する。施設の広さは30平方メートル余りだが、内装は銀行の窓口を思わせるつくりで、空調も完備されている。
同センターを訪れた男性は、学校への提出書類として学位証明書などの証明手続き受けた。申請から結果の受け取りまでにかかった時間は約20分。手数料は1万6,000VNDで、銀行のQRコードを使ってオンラインで支払ったという。
自宅から近いことに加え、民間の公証サービスより費用が安いことも、地区の行政サービスセンターを利用する理由になっている。
同センターでは2026年の年初から、7,821件の申請を受け付けた。このうち3,730件はホーチミン市の行政手続きシステム、4,091件は中央省庁のシステムを通じた申請である。
さらに、写しの発行や証明については7,600件を超える手続きを受け付け、その多くを当日中に処理している。
99.9%が期限内、オンライン申請が中心に
行政サービスのデジタル化は、都市部だけの動きではない。
ベンタイン地区から約19キロ離れたタンビンロック社の行政サービスセンターも、近代的な設備を備え、多くの住民を受け入れている。
2026年初めからの受付件数は1万9,500件を超え、そのうち約1万7,000件がオンライン申請である。期限内または期限前に処理された申請の割合は99.9%に達する。
センターにはパソコンやスキャナー、身分証明書のQRコード読み取り機などを設置。住民はキオスク端末から必要な行政手続きを検索できるほか、パソコン操作に慣れていない人には職員がサポートする。
さらに注目されるのが、AIを搭載した2台のキオスク端末である。住民は職員の窓口を介さず、自分でオンライン申請を行うことができる。
AIが住民の「オンライン申請」を支援
例えば、履歴書の署名証明を受ける場合、まず証明窓口で整理券を取り、職員が申請書の内容を確認する。
その後、住民はAIキオスクへ移動する。申請書をスキャンし、レベル2のVNeIDアカウントで行政サービスのポータルにログイン。証明を受ける内容を確認したうえで申請を送信する。
一連の操作はAIが案内するため、正しく操作すれば約2分で完了するという。
申請後は、司法省の行政手続き処理システム上で職員が内容を確認し、証明文を印刷して責任者の署名を受ける。さらに文書管理部門で押印した後、住民に結果を返却する。
職員による処理を含めても、全体の所要時間は約5~8分。手数料もオンラインで支払うことができる。
同社では今後、AIキオスクで処理できる行政手続きをさらに増やす方針だ。また、人口の多い地域や集落の事務所などにもAIキオスクを設置するため、社会化による資金調達も進めている。
「ロボット受付」まで登場
行政サービスセンターのデジタル化は、さらに進んでいる。
ブンタウ街区の行政サービスセンターでは、パソコン、プリンター、スキャナー、整理券発行機などに加え、入口に受付ロボットを配置している。
ロボットは住民に行政手続きの進め方を案内し、オンライン申請についても説明する。施設内には行政手続きや建築許可に関する情報を検索できるタッチパネルも設置され、職員もオンライン申請をサポートする。
2層制地方行政の運用開始後、初めて地区の行政サービスセンターを訪れたという住民は、「以前は書類を持って行っても誰に聞けばよいのか分からなかったが、今はすべてが変わった」と話す。
単に窓口の設備を新しくしただけではなく、「住民が迷わず手続きを進められること」そのものを行政サービスの一部として捉え始めている。
職員が「待っている住民」に声をかける
ジーアン街区の行政サービスセンターでは、さらに人によるサポートにも力を入れている。
ある男性が午後3時ごろ、観光ガイド証の取得に必要な履歴書の証明を申請した。周囲には別の手続きをする住民が数百人いたため、本人は結果を待つ間に外へコーヒーを飲みに行こうと考えていたという。
ところが、その場にいた職員が声をかけ、必要な手続きを確認した。15分ほど待てば結果を受け取れると説明したため、男性はその場で待つことにした。
同センターの責任者は、窓口業務を管理するだけでなく、施設内を定期的に回り、住民がどのような問題に直面しているのか、手続きに満足しているのかを直接確認しているという。
デジタル化が進む一方で、行政サービスの質を決めるのは、最終的にはこうした人的な対応でもある。
行政だけでなく住民側にも変化を求める
今回の行政改革で興味深いのは、設備や職員の働き方だけが変わっているわけではない点である。
住民自身にも、行政手続きの進め方を変えることが求められている。
これまでの行政手続きでは、「窓口に書類を持って行き、職員に処理してもらう」という方式が一般的だった。しかし、AIキオスクを導入した行政サービスセンターでは、住民が自ら書類をスキャンし、VNeIDでログインし、オンラインで申請する。
つまり、行政サービスセンターは単なる「申請書を提出する場所」ではなく、住民がデジタル行政を利用するためのサポート拠点へと役割を変えつつある。
ホーチミン市では、行政手続きのオンライン化を進めながら、デジタル機器を使いこなせない住民には職員がサポートするという二段構えも取っている。
すべてをオンラインに移行して住民を突き放すのではなく、「窓口に来てもデジタル手続きを利用できる」環境を整えることで、デジタル化への移行を進めているのである。
「便利な行政」は設備だけでは完成しない
ホーチミン市が行政改革指標で全国上位10位に復帰した背景には、こうした行政サービスセンターの変化がある。
AIキオスク、VNeID、QRコード、オンライン決済、受付ロボットなど、行政窓口にはこれまでとは異なる設備が次々と導入されている。
しかし、本当の変化は機械が増えたことではない。
申請をオンライン化し、処理時間を短縮し、住民がどこで困っているのかを職員が把握する。そして住民側もデジタル手続きに慣れていく。
行政と住民の双方が変わることで、行政手続きそのものを「早く、分かりやすく、迷わず利用できるサービス」に変えていく。ホーチミン市では、そんな行政改革が始まっている。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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