ベトナムで、高速道路や空港、港湾、発電所などの大型インフラ整備が進んでいる。政府が目指すのは、公共投資によって建設需要を生み出すだけでなく、周辺地域への民間投資や新産業の集積を促し、経済全体の成長力を高めることである。
2026年の年初から8カ月間における国家予算による投資実行額は約546兆8,000億VNDとなり、前年同期比18.5%増加した。大型プロジェクトの進展を背景に、公共投資の評価軸も、予算をどれだけ執行したかという観点から、どれだけ新たな経済活動や付加価値を生み出したかという観点へ広がりつつある。
大型インフラが新たな経済圏を形成
南部では、ロンタイン国際空港を軸とする交通・物流ネットワークの形成が進められている。空港単体の整備にとどまらず、ホーチミン市―ロンタイン―ザウザイ高速道路、ベンルック―ロンタイン高速道路、ビエンホア―ブンタウ高速道路、タンバン―ニョンチャック道路、ホーチミン市環状4号線などとの接続によって、空港、工業団地、物流拠点を結ぶ広域的な経済圏の形成が期待されている。
ホーチミン市環状3号線や環状4号線も、工業団地や物流施設、周辺都市との接続が進めば、製造業やサービス業の立地先を都市中心部から周辺地域へ広げる役割を担う。
北部では、ラオカイ―ハノイ―ハイフォン鉄道が、中国の鉄道網とハイフォン港を結ぶ物流・貿易回廊として期待されている。生産拠点から港湾までの輸送をつなぐことで、国内の産業集積と国際市場との連携を強化する狙いがある。
ハイフォンのラックフェン深海港についても、港湾機能だけでなく、物流、工業、自由貿易区などとの連携が重要になる。港湾を起点に物流施設や製造拠点、商業・サービス業、都市機能が集積すれば、単なる貨物の積み下ろし拠点を超えた経済活動の基盤となる。
電力インフラも産業立地を左右
産業の拡大を支える電力供給も、重要な課題である。ベトナムでは電力需要の増加を背景に、大規模な電源開発が急がれている。
南西部では、ガス田開発から発電までをつなぐ「ブロックB―オーモン」ガス・電力プロジェクト群が進められている。発電能力の確保に加え、ガスを利用する産業や加工製造業などを支えるエネルギー拠点の形成につながる可能性がある。
南東部では、ニョンチャック3・4 LNG火力発電所が商業運転に入った。今後は発電能力を生かすため、LNGの輸入・貯蔵・供給設備や送電網を含む関連インフラの整備が重要になる。
経済専門家のボー・チー・タイン氏は、企業が投資先を決める際、用地や交通アクセスだけでなく、安定した電力供給、送電網の容量、今後10~20年の需要拡大に対応できる電源確保も重視すると指摘する。
つまり、公共投資の目的は施設を建設すること自体ではない。企業が生産活動を始め、事業を拡大し、新たな投資を行える条件を整えることにある。
公共投資の効果は民間資金をどれだけ呼び込めるか
2026年1~8月の国家予算による投資実行額は約546兆8,000億VNDで、前年同期比18.5%増となった。年間計画に対する進捗率は50.5%である。公共投資の資金執行額は約510兆VNDで、年間計画の49.8%に達した。
公共投資はこれまで、建設需要や雇用を生み出し、経済全体の需要を下支えする役割を担ってきた。そのため、予算の執行率や事業の完成時期が主要な評価指標とされてきた。
しかし、投資規模が拡大し、より高い経済成長が求められるなかでは、資金をどれだけ使ったかだけでは十分に評価できない。公共投資1VNDが、どれだけの民間投資を誘発し、新たな生産能力や付加価値を生み出したかが問われる。
ボー・チー・タイン氏は、現在のベトナムでは、公共投資が民間投資を呼び込む「クラウディングイン効果」が重要になっていると説明する。
例えば、高速道路や大型橋梁が完成すれば、交通の利便性が向上するだけでなく、周辺地域で工業団地や都市開発、サービス業への投資が進む可能性がある。地下鉄も単なる輸送手段として捉えるのではなく、駅周辺に商業施設、オフィス、住宅などの開発を誘導する都市づくりの軸として考えることで、経済効果を広げられる。
公共投資によって民間企業が事業を展開できる環境を整え、その後の投資や経済活動を市場の力で拡大させる。これが、公共投資に求められる役割の変化である。
「公共投資1VNDで民間投資3~5VND」は目標になり得るか
ホーチミン市建設・建材協会会長で、ホーチミン市企業連盟(HUBA)の副会長も務めるディン・ホン・キー氏は、公共投資の評価方法そのものを見直す必要があると指摘する。
同氏は、プロジェクトの予算執行額や完成時期だけでなく、公共投資がどれだけの民間資金を呼び込み、どの程度の経済価値を新たに生み出すかを評価すべきだと主張する。
空港や港湾、地下鉄などの大型プロジェクトでは、事業を決定する段階から、インフラ整備と一体で土地利用、周辺の経済活動、民間資金の活用方法を検討することが重要になる。
同氏が提案するのは、公共投資による民間資金の誘発効果を示す「民間資金誘発係数」という考え方である。商業的な価値を大きく生み出す可能性があるプロジェクトについては、総事業費や工期に加え、誘発する民間投資額も管理目標として設定するというものだ。
同氏は、公共投資1VNDに対して民間投資3~5VNDを呼び込むという水準も、こうした目標の一例になり得ると述べる。ただし、すべての事業に一律に適用する固定的な係数ではなく、民間投資を呼び込む余地の大きいプロジェクトで活用する考え方である。
公共部門がすべてを担うのではなく、公共投資で道を開き、実際の事業展開や価値の創出には民間企業の力を取り込む。限られた財政資金をより大きな経済効果につなげることが狙いだ。
成長の基盤は道路や港湾から技術・人材へ
公共投資の役割は、物理的なインフラ整備だけにとどまらない。今後はデジタル技術、データ、人工知能(AI)、研究開発(R&D)、高度人材、イノベーションも、国の生産能力を左右する重要な要素となる。
ベトナムの科学技術・イノベーション・国家デジタル変革に関する決議57号は、2030年までにデジタル経済を国内総生産(GDP)の少なくとも30%に引き上げることや、研究開発費をGDPの2%とし、そのうち60%超を社会部門の資金で賄うことなどを目標に掲げている。また、全要素生産性(TFP)の経済成長への寄与率を55%超とする目標も示している。
これらの目標を実現するには、道路や橋梁、空港、発電所を整備するだけでは不十分である。研究施設、データセンター、大学、技術者・研究者、技術系企業の集積などを通じて、整備したインフラをより高い付加価値の創出につなげる必要がある。
ディン・ホン・キー氏は、大型プロジェクトが生み出す価値を3つの段階に分けて考える。第1は交通や物流などの接続インフラ、第2はその周辺に形成される企業、都市、産業のバリューチェーン、第3は技術、研究開発、データ、人材である。
第1段階のインフラ整備だけで終われば、完成した施設の効果にとどまりやすい。一方、企業や産業の集積が進み、さらに技術や人材の能力向上につながれば、大型プロジェクトは新たな成長エンジンになり得るという考え方である。
同氏は、国家的な大型プロジェクトを、単に設備や技術、サービスを購入する市場としてではなく、ベトナム企業の能力を育成する機会として活用すべきだと訴える。プロジェクトを通じて民間資金をどれだけ呼び込み、新たなバリューチェーンを形成し、国内企業がどのような技術や能力を獲得できるかを問う必要がある。
物理的インフラとデジタル基盤を一体で整備
ボー・チー・タイン氏も、今後の投資は物理的なインフラに偏るべきではなく、デジタル基盤、科学技術、高度人材の育成を並行して進める必要があると指摘する。
これは道路や港湾などの整備を、デジタル技術への投資に置き換えるという意味ではない。両者を組み合わせることで、投資効果を高めるという考え方である。
例えば、物流の効率化には道路や港湾の整備に加え、サプライチェーンを管理するデータ基盤が必要になる。港湾が国際的な物流ネットワークとの連携を深めるうえでも、業務のデジタル化が重要だ。企業が生産性を高め、市場を拡大するためには、データやAIの活用も欠かせなくなっている。
研究施設を整備しても、研究成果を実用化できなければ経済的な価値は限られる。デジタル基盤も、データが連携され、実際に活用されなければ十分な効果を発揮しない。人材育成についても、新しい産業や技術分野の需要と結びつけることが重要である。
投資額から「成長力を生み出す能力」の評価へ
ベトナムの公共投資は、大型インフラの整備を通じて経済成長を支える段階から、そのインフラを起点に民間投資、産業集積、技術開発、人材育成を連動させる段階へと、政策上の重点を広げようとしている。
ただし、大型プロジェクトが完成すれば、自動的に民間投資や新産業が生まれるわけではない。マクロ経済の安定、資金を実際の事業に結びつける能力、制度改革、地域間の連携などが伴わなければ、整備したインフラの効果を十分に引き出せない可能性がある。
公共投資の成否を判断するうえでは、事業の規模や完成時期だけでなく、その後にどのような企業活動が生まれ、国内企業の競争力や技術力がどこまで高まったかを継続的に見る必要がある。ベトナムが目指すのは、公共資金を投入して施設を増やすことだけではなく、公共投資を民間の活力と結びつけ、長期的な成長力へ転換することである。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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