ベトナムビジネス特集Vol111|
アパレル飛躍!未来の行方

繊維・アパレル製品の輸出で世界3位に浮上した縫製業。外資系ブランドが続々参入する国内ファッション市場。ベトナムでは今、アパレル業界が大いに注目されている。その最新事情と今後の行方を取材した。


好景気に沸く縫製業の理由 求められる課題は何か

My Lang Consultant

Vice President

秋利美記雄氏

 

縫製品輸出で世界3位に 背景には米中貿易戦争

海外からの受注で多くのアパレル製品を縫製してきたベトナムに今、強い追い風が吹いている。ベトナム繊維協会(VITAS)によれば、2018年の繊維・アパレルの輸出額は前年比16%増の360億USD。中国、インドに続く世界第3位の繊維・アパレル製品輸出国となり、今年の輸出目標額は400億USDだ。労働集約型である縫製業界は数多くの雇用を生み出し、ベトナム経済全体に及ぼす影響も大きい。

ベトナムでアパレル事業に20年以上携わり、現在は日本にアパレル商社、ベトナムにコンサルティング会社を設立して日本企業の仕入れ支援やコンサルティングを行う、秋利美記雄氏はこう語る。

「昨年、今年の輸出の好調は、米中貿易戦争の結果です。多くの外資系企業が発注先を中国からシフトするとき、まず考えたのがベトナムということ。中国企業すらベトナムに来ています」

アメリカの関税が高くなって中国からの輸出が滞ったことで、縫製の依頼がベトナムに集中。他国ではなくベトナムが選ばれている理由の一つを秋利氏は、「縫製スキル」と語る。ベトナム人は手先が器用と言われるが、縫製輸出大国の中国、あるいはタイやカンボジアなどと比べてもスキルが高く、特に丁寧さが求められる「服」が今後もベトナムの強みになるという。

一般的にアパレル製品は、ニット製品(編物)より布帛製品(織物)のほうが加工の手間がかかる。後者は縫う箇所が多いからで、ベトナムにはスーツ、ジャケット、ポケットの多い作業服、スキーウェアやアウトドアウェアなどの布帛製品が多く発注されている。

「これらを図面通りにきっちり組み立てていく作業が、ベトナム人は非常に得意です。中国からも下請けの注文が来るほどで、ある大手スポーツメーカーではインドネシアをニット製品、ベトナムを布帛製品の調達先としています」

縫う箇所が少ないTシャツなどは逆に生地の比重が高いので、生地の生産国で縫製まで行っているそうだ。こうすれば輸出入の手間が省けてコストダウンにもなる。

もう一つの選ばれる理由は「安定」だ。カンボジアやミャンマーが縫製業の対抗馬として注目されているが、カンボジアは縫製スタッフの給与が激増した時期があり、ミャンマーは政情に不安が残る。ベトナムは政治的に安定しており、給与は上がっても安定的なので、生産コストの上昇を予め計算できるという。

「実際に見ましたが、縫製の仕上がりはベトナムが優っていますし、縫製スタッフをまとめるリーダーやマネジャーがなかなかいないのもこの2国の厳しいところです」

縫製産業の今後の課題 消費市場としても拡大中

それではベトナム縫製業の課題とは何か。一つは生地や糸などの原材料を輸入に頼り、特に中国一辺倒になっていること。リスクが大きいと言われ続けても、自国を含めて代わりの調達先が見つけられないそうだ。

なぜなら原材料の品質もそうだが、中国企業は小ロットでの対応や在庫が豊富などのメリットが多いから。ベトナムでも原材料を生産しているものの、こうした対応は限られているという。また、作業服など年間計画で作れるアイテムは一度の発注量が多いので、ベトナム産の生地も可能だが、レディース・カジュアルウェアのように回転が早い製品は少量のため、ベトナム産では合わせるのが難しい。中国依存はしばらく続きそうだ

原材料と言えば、アメリカを除く11ヶ国が加盟するCPTPPが始まった。ここには原産地規則があり、加盟国でない中国から原材料を輸入しては、関税撤廃の恩恵が受けられない。しかし秋利氏はさほど問題ないという、

まず日本向け輸出だが、日本とベトナムはこれ以前の日越経済連携協定がカバーしているのでインパクト小さい。また、ベトナムにおけるTPPの最大のメリットはアメリカ向け輸出だったので、同国が抜けたために原産地規則の不利益も小さくなった。

「当初の予定通りなら今頃はアメリカ向け輸出が激増して、ベトナムの輸出額は今の比でなかったはずです。そうなると日本向けは後回しになるので、アメリカの離脱は日本には朗報だったかもしれません」

ただ、下請け仕事では価格のメリットが常に問われる。人件費が上昇しているため、今は良くてもベトナムの優位性が続くとは限らない。また、経済成長と職業の幅が広がったことで、縫製業のなり手不足も懸念される。

「まだ始まったばかりですが、ベトナムの繊維・アパレル業界は生産国から消費国に変わりつつあります。今後の一番注目される点です」

アパレルファッション大手のZARAが2016年、H&Mが2017年に出店して店舗数を増やし、売上を大きく伸ばしている。日本勢も今年はユニクロ、来年には無印良品が出店予定だ。海外ブランドの進出が本格化する一方で、国内のアパレルメーカーも元気。ベトナム人は「舶来品」が好きだが、自国の縫製品の質の高さは知っているので、国産ブランドにも勝機はある。

国内市場の拡大とともに求められてくるのがオリジナリティで、これが今後の課題になりそうだ。下請けとして長い間、設計図通りに縫う作業をしてきたため、自ら企画を作るクリエイティビティは国内向け商品であっても弱い。今後はファッションデザイナー、パタンナー、原材料の調達者などの担い手を育てる必要がある。

「ベトナムの繊維産業は産業構造の変化などではなく、外的要因により大きく変わりつつあります。基幹産業である縫製業も変わっていかかざるを得ません」


細かな差で選ばれる縫製工場 日本向け輸出に逆風も

 

SUMITEX VIETNAM

General Director

村井寛典氏

工場で仕上がりに差 品質管理や提案力

住友商事の子会社であるスミテックス・インターナショナルのベトナム子会社、スミテックスベトナム。自社工場の他、多くの縫製工場と契約しており、メインの工場はSGS(Summit Garment Saigon)と呼ばれる自社専用縫製ラインだ。約1300人が働く。

ここでは主に百貨店やセレクトショップ向けの中高級品を縫製しており、コート、ジャケット、シャツ、パンツ、ダウン、ワンピース、スカートなどの紳士・婦人服で、カジュアルウェアが多い。他には大小10程度の工場に発注(オーダー)している。各工場は複数社の仕事を請けて、数ラインずつに分けて生産をするのが一般的という。

「弊社の生産キャパシティはSGSが年に約100万枚、すべての工場を合わせて年間で200万枚が目標です。輸出先は9割以上が日本です」

顧客は主に日本のアパレルメーカーで、自社で製品を生産している企業も含まれるが、すべての商品を作りきれないため、同社のような商社や縫製会社に依頼する。発注先はアイテム、コスト、納期、技術などで細かく変わる。例えば、店頭での商品の動きからすぐに発注したい場合は日本で作り、大量の商品を安く作る時はミャンマーに発注するなどだ。

同社の場合、生産ロット数はブランドにより様々だが、少なくて1型200~300枚もあれば、多いと数万枚もあると村井氏。基本的に縫製仕様書といわれる設計図があり、サンプルを作って何度か顧客とすり合わせる。

「同じ仕様書でも工場により仕上がりに差が出ます。セーターなど全自動化できる製品もありますが、特に布帛製品は全工程の機械化は難しく、ミシンで手縫いするために個々の差が出るのです。そのため、お客様が発注する工場を指定することもあります」

また、同社の顧客には小売業もあり、デザイン部門がない企業に対しては生地や糸のような素材提案だけでなく、デザインなども提案している。これが商社の強みでもあるという。

こうした縫製業の中心は中国だったが、人件費の上昇や環境問題などでアセアンへのシフトが起こり、その一番手がベトナムとなった。技術力の高さ、人件費の安さ、長い縫製の歴史による習熟度の高さ、作業の細やかさ、技術の幅広さなどが選ばれた理由だ。

同社でも受注量や取扱高は右肩上がりだ。日本市場は人口減や嗜好の二極化から縮小していくだろうし、撤退する外資系の大手ファッションアパレルが出始めているのも、市場の飽和が原因かもしれない。しかし、ほぼ日本向けの同社の受注は増えており、それは中高級品の受注の多さとも関係ありそうだ。中国のスミテックスチャイナでは大量生産品の縫製が多く、中高級品ではベトナムのほうが生産数が多いという。

「ベトナムには追い風が吹いていると感じます。住友商事は1990年代の進出で早いほうだと思いますが、今では日本のすべての大手商社、繊維専門商社が出ていると思います」

素材産業が育つ難しさ コストと生産性のバランス

ただ、アメリカ向け輸出が増えているので、日本への輸出品は厳しい状況。世界的に見ると発注量が少なく、品質に厳しい日本製品より、それより基準が緩やかで、10万pcs以上のロットも珍しくないアメリカ製品の仕事を選びたがるからだ。アメリカ向けは発注時期も早く、ここ数年は日本向けのオーダーが入りにくくなったそうだ。

「弊社にはSGSや自社工場があるので何とかやりくりしていますが、アメリカ向け輸出の増加は日本の繊維商社にとっては痛手です」

ベトナムの課題には原材料もあり、自国での生産が少ないために生地などは中国などからの輸入が多い。ただ、同社は中高級品がメインなのでヨーロッパなどから輸入している。また、ベトナム産にはメンズのパンツ用など太い糸でしっかり作る生地が強く、婦人服用などへのバリエーションが少しずつ増えているそうだ。

「縫製産業はミシンと人の労働集約型なので参入コストが低い。一方の素材産業は真逆で膨大なコストがかかる。例えば綿を紡いで撚って糸を作り、織って布にして染色する。工程が多くて、機械が必要で、最終製品の種類も多いからです」

縫製業はやはり人件費がカギ。日本からの発注では韓国、台湾、香港、中国、アセアンへと、地理的には西へ進んでいった。しかし、距離が遠くなるほど輸送のコストと時間がかかる。特にコートなどサイズの大きな商品は船便のコンテナ輸送が普通なので、生産国によっては数週間の差になる。

「原材料を送るコストや時間も考えなくてはいけません。輸出先の国によって距離は異なりますが、人件費が安くなるからとどこでも良いわけではありません」

縫製業の担い手は新興国が多いが、国が発展すれば人件費が上がる。それに対応するのは縫製スピードなどの生産性で、このバランスが同業界の戦略になっているそうだ。

「今後は工場のキャパシティを拡大させたいですし、自社工場も広げたい。人件費を考えた工場の移転も視野に入れるつもりです」


将来の課題は賃金上昇 ベトナムは高付加価値体制へ

PROMINENT (VIETNAM)

General Director

児島茂樹氏

アセアンシフトで好調な縫製業 中国向け輸出は減少傾向

ベトナムにおける伊藤忠商事繊維事業の中核拠点である、プロミネント(ベトナム)。その事業には大きく4つがあり、ひとつは生地など繊維原材料の生産や調達から、縫製、輸出までを行うアパレル製品の一貫生産。顧客は各国のアパレルメーカーで、親会社である伊藤忠商事や欧米の企業などと連携して受注している。

2つめがアパレル製品のベトナム国内への販売、3つめがベトナムでの投資先の発掘と実行、4つめが日本の繊維系企業の進出サポートだ。

1つめの事業では、ベトナムでは生地など素材の生産が弱いので、主に中国、他には韓国、台湾、タイなどから輸入している。アセアンにはFTAがあるので、原産地規則により加盟国から原材料を輸入すれば関税なしのメリットが受けられる。中国産では関税のメリットがないのだが、品質、量、対応などに安心感があるようだ。

「輸出は日本向けが約7割で、3割は欧米向けです。製品で強いのはワイシャツなどのドレスシャツ、メンズスーツ、ユニフォーム、下着などで、紳士服が多いです。伊藤忠は繊維業界の川上にも大きく投資しており、リサイクル・ポリエステルのように付加価値のある高品質な素材を使えることも強みです」

ベトナムの繊維産業は成長し続けており、それに伴って同社の売上も増え続けている。成長の要因には中国からベトナムへの縫製業のシフトを感じるという。海外のメーカーなどが縫製の発注を中国の企業からベトナムの企業に変えることもあれば、中国の企業がベトナムに進出して受注するなどもある。

一方では、ベトナムで生産した原材料の中国向け輸出が落ち込んでいるそうだ。中国は繊維原材料の輸出国として知られるが、ベトナムからは縫製品の他に綿糸などの原材料も中国に輸出している。それが減少しているのだ。

また、米中貿易戦争の影響もあって受注は増えているが、一方で優良な縫製工場のスペースの取り合いも見られる。

「問題はあってもチャンスはチャンスです。ただ、欧米のアパレルメーカーはアフリカ諸国やエジプトなどへも縫製を移しています。これらの国は素材は輸入に頼っていますが、人件費が安価です。技術レベルはまだまだ低いのですが、価格競争においては将来的にはベトナムも安心できないと思います」

人件費が上がるベトナム 期待される日系企業の協力

2番目の事業である国内販売とは、ベトナムの国産ファッションブランドへの商品の供給などだ。OEMで縫製したアパレル製品をショッピングモールなどに卸しており、海外ブランドのライセンスを取得・管理して、製品化したものを卸すなどもしている。

近年は大手の海外ファッションブランドが続々と開店しているが、国産ブランドを含めて国内消費市場は始まったばかり。給与が上昇して消費は活発になったが、他国と比べるとファッション小売りの市場は規模が小さいという。

「ファッションの感度も現状では未成熟だと思います。ただ、中国でも所得が伸びて多くのアパレル製品が購入され、ファッションセンスが上がっていきました。まさにこれがこれからベトナムで起こるでしょう」

3番目のベトナムでの投資とは、ベトナム最大級の繊維グループであるベトナム国営繊維企業グループ(VINATEX)との資本・業務提携が好例になる。伊藤忠商事が1990年代にVINATEXにアパレルOEM関連を委託してから良好な関係を築いており、昨年4月には同社の株式を追加取得して15%弱を持ち、ベトナム政府に次ぐ民間企業の筆頭株主となった。同年5月にはビジネスパートナーとしてのMOU(覚書)を結んで、業務拡大を続けている。

「VINATEXは繊維業界の川上から川下まで80社以上のグループ企業を持ち、10万人超のグループ従業員がいる現地縫製大手です。弊社は自社工場を持たずにこうした現地の工場に生産を委託していて、今後も安定的な供給が望めます」

このようにベトナムの繊維業界を知る児島氏によれば、ベトナムの今後の競合は中国やアセアン諸国だけでなく、内在する人件費の上昇にあるという。先のアフリカ諸国やエジプトのように技術力は低くても、低いなりに作れる商品は受注できる。ベトナムはフラット化した商品でなく、高級品など高付加価値の製品を作って差別化を図る必要がある。その中で、日系企業は地場企業からかなり期待されていると語る。

「最新設備を入れたり様々なアドバイスをしたり、縫製技術や生産加工などでの協力もでき、ブランド品を持ってくることも可能です。弊社もこうした強みを活かしながら事業を続けたいですし、ベトナムという国にも貢献できると思います」