シンガポール企業によるベトナムへの投資が、従来の工業団地や不動産開発から、AI、データセンター、金融、物流、半導体などの高付加価値分野へ広がっている。
シンガポールは人口や市場規模ではベトナムを大きく上回る国ではない。しかし現在、ベトナムにとってASEAN域内で最大の投資国であり、投資額では韓国に次ぐ規模となっている。
その背景には、シンガポールが持つ金融・物流・技術・経営ノウハウと、ベトナムの市場、労働力、生産能力を組み合わせる両国経済の高い補完性がある。
VSIPから始まったシンガポール資本の存在感
ベトナムにおけるシンガポール投資を象徴する存在が、シンガポールとベトナムの合弁による工業団地「VSIP」である。
7月にはダナン市が約250ヘクタールのVSIPダナン工業団地について投資方針を承認した。総投資額は約3兆7300億VND(約1億3800万USD)、運営期間は50年である。
また5月には、VSIPハイフォンII、VSIPハナム、VSIPゲアンIV、VSIPビンズオンIVの4工業団地への追加投資が決定。年初にはVSIPフエも承認されている。
これにより、ベトナム国内のVSIPは26カ所、総面積は1万4300ヘクタールを超え、現在では国内最大規模の工業団地ネットワークとなっている。
VSIPの特徴は、単に工業団地を造成するだけではない。工業団地の計画・運営、物流、環境基準などに関するシンガポール側のノウハウを導入し、海外企業を呼び込むための産業基盤として機能している。
一つの工業団地への投資が、さらに別の外国企業を呼び込む「呼び水」となっているのである。
不動産投資からAI・データセンターへ
シンガポール資本は、ベトナムの不動産市場でも長年存在感を示してきた。
ホーチミン市中心部のサイゴンセンターは、シンガポールのKeppel Landなどが関わる大型開発案件として知られる。さらにCapitaLand、Sembcorp Development、Frasers Propertyなども、ベトナムで長年にわたって事業を展開している。
しかし近年、その投資先には明らかな変化が見られる。
象徴的なのがデジタル分野である。
今年3月には、SembcorpがBB Holdingとの合弁を通じ、ホーチミン市ハイテクパークでAI対応の大規模データセンターへの投資を承認された。
敷地面積は約4.5ヘクタールで、計算能力は最大90MWまで拡張可能となる計画である。Sembcorpがベトナムで公表した初のデータセンター案件でもある。
シンガポール企業の投資先はこのほか、科学技術、イノベーション、デジタルトランスフォーメーション、物流、国際金融センターなどにも広がっている。
UOB Plaza、SembcorpによるAI対応データセンター、シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)とベカメックスによる先端製造研究センターなどは、従来よりも技術集約度の高い投資が増えていることを示す事例である。
シンガポールはASEAN最大の投資国
シンガポールは現在、ベトナムにとってASEAN域内で最大の投資国となっている。
ベトナム側のデータによると、シンガポールからの投資は、累計で約4500件、登録投資総額は約970億USDに達する。国・地域別では韓国に次ぐ2位で、日本を上回る規模である。
注目されるのは、投資額だけではない。投資分野そのものが多様化している点である。
これまでシンガポール資本といえば、工業団地や不動産開発をイメージしやすかった。しかし現在では、データセンター、AI、半導体、クリーンエネルギー、物流、金融など、ベトナムが今後の産業高度化を目指す分野へ進出している。
貿易も急拡大
投資に加えて、両国間の貿易も拡大している。
シンガポール企業庁のデータをベースとしたベトナム側の統計によると、2026年1~7月の両国の貿易総額は約330億シンガポールドル(約260億USD)となり、前年同期比で43%以上増加した。
ベトナムからシンガポールへの輸出は151億シンガポールドルで、前年同期比約127%増となっている。
投資と貿易の双方が拡大することで、両国の経済関係はさらに密接になっている。
なぜシンガポール企業はベトナムに強いのか
専門家は、シンガポール企業のベトナム進出を支える要因として、両国経済の高い補完性を挙げている。
シンガポールは金融、物流、投資、経営、テクノロジー、インフラ開発などに強みを持つ。一方、ベトナムには大きな市場、労働力、生産能力、アジアのサプライチェーンにおける地理的優位性がある。
つまり、
シンガポール=資金・技術・経営・国際ネットワーク
ベトナム=市場・人材・生産拠点・サプライチェーン
という関係が成立しやすい。
この補完関係が、シンガポール企業の投資を製造業だけでなく、AIやデータセンターなどの新分野へ広げる要因となっている。
シンガポールは「国際資本への窓口」にも
もう一つ重要なのが、シンガポールの金融ハブとしての役割である。
シンガポールには多くの投資ファンドや多国籍企業が集まっている。そのため、ベトナムへの「シンガポールからの投資」には、シンガポール企業自身の資金だけでなく、同国を経由して管理・投資される国際資本も含まれる。
つまり、シンガポールの強みは自国企業の資金力だけではない。
世界の資金をベトナムにつなぐことができる「窓口」としての機能も大きな意味を持つ。
地理的な近さも企業活動を後押し
両国の距離が近いことも、企業活動にとって大きなメリットである。
シンガポールからホーチミン市までは航空便で約2時間。企業関係者が頻繁に往来し、市場調査や商談、事業展開を進めやすい環境にある。
また、ベトナムでは教育、医療、物流、観光、金融、海運など、今後さらなる成長が期待される分野が多い。
これらはシンガポール企業が資金だけでなく、技術、管理能力、事業運営の経験を持つ分野でもある。
さらに、近年はシンガポールの中小企業やスタートアップによるベトナム進出も増えている。
「資金」から「技術とネットワーク」へ
ベトナムとシンガポールは2025年、両国関係を包括的な戦略的パートナーシップへ格上げした。
30年以上にわたって積み重ねてきた経済関係に加え、両国の経済的な補完性は今後さらに強まる可能性がある。
これまでシンガポール投資の象徴だったVSIPの工業団地に加え、今後はAI、データセンター、半導体、金融、物流、クリーンエネルギーなどへの投資が増えることが予想される。
ベトナムにとってシンガポールは、単に「資金を提供する外国投資国」ではない。
資金、技術、経営ノウハウ、そして世界の企業や資本をつなぐネットワークを持ち込むパートナーへと、その役割を変えつつある。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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