ベトナムでは、外国企業からの投資を呼び込むだけでなく、FDI企業との連携を通じて国内企業の技術力や競争力を高め、グローバル・サプライチェーンにおける存在感を高めようとする動きが強まっている。
2026年に入り、ベトナム企業を取り巻く環境は厳しさを増している。年初から7月までの7カ月間で、市場から撤退した企業は約15万5,300社に上り、前年同期比7.6%増加した。一方、新設または事業を再開した企業は約18万7,200社で、7.5%増加した。
単純計算すると、ベトナムでは毎月約2万2,200社が市場から退出していることになる。特に、企業全体の98%を占める小規模・零細企業は、資金調達、生産拠点、技術、市場へのアクセスなどで厳しい状況に直面している。
こうした状況を踏まえ、専門家からは、国内企業を「存続させる」だけではなく、大企業と中小企業、国内企業と外国企業をつなぎ、企業が成長できる産業エコシステムを構築する必要があるとの指摘が出ている。
「生き残る企業」から「バリューチェーンを担う企業」へ
国際市場で存在感を高めるベトナム企業が増える一方、国内企業の多くは依然としてグローバルなバリューチェーンへの参加が限定的である。
国民経済大学のグエン・トゥオン・ラン准教授は、ベトナム企業は単純な加工・組立を担う「一つの歯車」にとどまるのではなく、将来的にはバリューチェーンの管理にも関わる戦略的パートナーへと成長する必要があると指摘する。
ベトナムは20年以上にわたる国際経済への統合を経て、重要な生産拠点へと成長した。しかし、グローバル・サプライチェーンにおける国内サプライヤーの存在感は、依然として十分とはいえない。
一方、世界的にはサプライチェーンの再構築が進んでいる。これはベトナム企業にとって、自らの立ち位置を高める機会でもある。
ラン准教授によれば、現在のサプライチェーンは単純な企業間の売買関係ではなく、複数の企業が結び付く複雑な「エコシステム」へと変化している。
そのため、単に価格が安いだけでは取引先から選ばれ続けることは難しい。品質の安定性、信頼性、環境への対応力、長期的な協力体制など、総合的な競争力が求められている。
大企業を「国内サプライヤー育成の核」に
こうしたエコシステムを構築する上で重要になるのが、国内の大企業である。
大企業が産業の中核となり、その周囲に複数階層の国内サプライヤーを形成することで、原材料、部品、物流、技術、サービスなどの分野に数百、数千の企業が参入する余地が生まれる。
重要なのは、大企業が中小企業を単なる低コストの加工業者として利用するのではなく、より高付加価値な工程へ引き上げることである。
品質基準の向上、技術移転、市場情報の共有、共同開発などを通じて、中小企業を低位のサプライヤーから高位のサプライヤーへと育成することが求められている。
FDI企業との連携も成長の鍵
専門家は、ベトナム企業の競争力を高めるためには、国内企業同士だけでなく、FDI(外国直接投資)企業との連携も不可欠だと指摘する。
国会経済・財政委員会の常任委員を務めるファン・ドゥック・ヒエウ氏は、ベトナム経済が目指すべき最終的な姿は、外国企業のサプライヤーになることだけではないと指摘する。
国内企業が、低位サプライヤー → 高位サプライヤー → 高付加価値製品の製造 → 自社ブランド・市場の確立
という形で、バリューチェーンを上っていくことが重要だという。
これは、ベトナムのFDI政策そのものの考え方にも変化をもたらしている。
従来は「どれだけ外国資本を呼び込めるか」が重視されてきた。しかし今後は、FDIを通じてベトナム国内企業の能力をどれだけ高められるかが重要な評価軸となる。
「FDI誘致」から「FDIを活用した産業育成」へ
ホーチミン市国家大学の政策開発研究所長、ドー・フー・チャン・ティン准教授は、FDI政策における重要な変化として、「資本を呼び込む」ことから「経済の能力を高めるために投資を呼び込む」ことへの転換を挙げる。
今後は、単純に行政区単位で投資を誘致するのではなく、産業クラスター、バリューチェーン、イノベーション・エコシステムを軸に投資を呼び込むことが求められる。
また、技術移転、国産化率、国内企業との連携、ベトナム国内で生み出される付加価値なども、FDIプロジェクトを評価する重要な指標となる。
これまでのベトナム経済には、いわば「二つの経済が並走している」状態があった。
一方ではFDI企業がグローバルなサプライチェーンに深く組み込まれている一方、国内の中小企業の多くはその外側に位置している。
そのため、今後のFDI政策の成功は、投資額や投資案件数だけでなく、FDI企業とともに成長するベトナム企業をどれだけ生み出せるかによって評価されるべきだという。
2030年までに国内企業1万社をFDIのサプライチェーンへ
ベトナム政府は、国内企業とFDI企業の連携を具体的な数値目標にも落とし込もうとしている。
記事で紹介された専門家によると、政治局決議10号では、2030年までに主要工業分野の平均国産化率を45~50%まで高めるとともに、約1万社の国内企業をFDI企業のバリューチェーン・サプライチェーンに参加させるという目標が掲げられている。
これは、国内企業とFDI企業の連携を単なる「推奨事項」から、測定可能な経済発展目標へと変えるものといえる。
ただし、そのためには「企業同士を紹介する」だけでは不十分である。
たとえばSamsung、Intel、LG、Toyota、Bosch、Foxconnなどの大手企業が必要としている部品、素材、サービス、技術基準などを具体的に把握し、それに対応できる国内企業を選定する。その上で、資金、技術、品質管理、デジタル化、ESG、人材育成などを支援する仕組みが必要となる。
Samsungのサプライヤーは25社から306社へ
その効果を示す例として、Samsungとのサプライヤー育成プログラムが挙げられる。
ベトナム商工省とSamsungが実施してきたプログラムにより、Samsungのサプライチェーンにおけるベトナム企業の一次・二次サプライヤーは、2014年の25社から2023年末には306社まで増加した。
これは、FDI企業が単なる「投資家」にとどまらず、ベトナムの中小企業にとって大規模な「産業人材・技術の学校」となり得ることを示している。
今後は、Samsungのような外国企業との連携だけでなく、ベトナム国内の大企業自身が「サプライヤー育成」の中心となることも重要になる。
大企業が必要とする部品やサービス、品質基準を明確にし、中小企業に対して技術支援、教育、工程移管などを行うことで、国内企業同士のサプライチェーンを形成することが期待される。
「中小企業を支援する」から「中小企業を成長させる」へ
ベトナム企業が抱える大きな課題の一つは、企業数は多いものの、それらが一つの産業エコシステムとして十分につながっていないことである。
中小企業同士の取引はまだ限定的で、大企業が中小企業をサプライチェーンに引き込む役割も十分に果たしているとはいえない。
そのため専門家は、政策の発想を「中小企業を存続させる」から「中小企業を成長させる」へ変える必要があると指摘する。
すべての中小企業が巨大企業になる必要はない。
特定の部品、技術、サービスなど一つの分野に特化し、国際基準を満たすことで、グローバル・サプライチェーンにとって欠かせない企業になることも可能である。
そのためには、FDI企業と国内企業を結び付ける「仲介役」も重要となる。
FDI企業と国内企業をつなぐ仕組みが必要
FDI企業側から見ると、要求する品質や技術水準を満たすベトナム企業を見つけることが難しい。一方、ベトナム企業側も、大手外国企業が何を必要としているのかという情報や、取引開始に必要な信頼を得る機会が不足している。
そこで、企業団体や地方政府に加え、両者を専門的につなぐ機関の設立も一つの選択肢となる。
記事では台湾の「企業シナジー開発センター(CSD)」の事例が紹介されている。同センターは単に企業を紹介するだけでなく、取引開始時の信頼関係の構築や、双方の約束が履行されているかを支援・監督する役割も担っている。
ベトナムでもこうした仕組みを導入することで、FDI企業と国内企業が短期的な取引ではなく、技術や能力をともに高めながら長期的なサプライチェーンを構築することが期待される。
ベトナム経済に求められる「次の成長段階」
ベトナムはこれまで、海外からの投資を受け入れ、生産拠点として成長することで経済規模を拡大してきた。
しかし今後は、それだけでは十分ではない。
重要なのは、外国企業がベトナムに投資することによって、ベトナム企業の技術、経営、品質、人材、ブランドまで成長する仕組みをつくることである。
「外国企業の工場がベトナムにある」という段階から、「外国企業とベトナム企業がともにサプライチェーンを形成する」という段階へ。
さらにその先には、ベトナム企業自身が世界のバリューチェーンを主導する姿がある。
2030年に向けて、FDI誘致政策と国内企業育成政策をどこまで結び付けられるかが、ベトナム経済の次の成長段階を左右することになりそうだ。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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