ベトナムでは、企業の設立手続きが大幅に簡素化されている。オンラインで数回操作するか、2~3営業日手続きすれば新たな企業を設立できる一方、事業を終了する際には、税務手続きや税コードの抹消などに数カ月、場合によっては数年を要するケースがある。
実際には事業を停止しているにもかかわらず、法的には企業が存続し続ける「休眠状態」の企業も少なくない。企業の新陳代謝を促すうえで、市場から退出するための手続きをいかに簡素化するかが課題となっている。
実際には廃業してもシステム上は存続
企業が事業を終了する際、特に大きな負担となっているのが、税務申告の整理と税コードの抹消である。
ホーチミン市で貿易・サービス会社を経営していた男性は、コロナ禍後の経営難から2022年に事業を停止した。会社には銀行債務や従業員への未払い給与はなかったものの、税コードを抹消する手続きは1年以上経過しても完了しなかったという。
過去の請求書や証憑について税務当局から説明や追加資料を求められたためである。
事業活動や売上がない状態でも、税務申告を継続しなければならないため、男性は会計サービスを利用し続けた。その結果、会社を維持するだけで年間数千万VND規模の費用が発生したという。
つまり、事業としてはすでに「終了している」ものの、法的・税務上は「継続している」状態が続くことになる。
廃業から10年後に約5,300万VNDを請求されたケースも
別のケースでは、2020年に設立された企業が約2年間営業した後に事業を停止したものの、税コードを正式に終了する手続きを行っていなかった。
2026年になって税コードを抹消しようとしたところ、事業税や延滞金、税務申告の遅延に伴う罰金などとして約3,000万VNDの支払いが必要になったという。
また、2014年に設立した企業を2016年に事実上廃業したケースでは、現在になって解散手続きを行おうとしたところ、10年間分の事業税や延滞利息などを含め、約5,300万VNDの負担が発生する可能性があるという。
いずれも、現在はほとんど、あるいは全く事業活動を行っていない企業である。
実質廃業企業は約110万社
ベトナム財務省の公表データによると、税務上、納税を停止したり事業を休止したりしているケースは累計で約110万社に達している。
税務当局が進める「税コードのクリーンアップ」では、約61万7,000社の企業が調査対象となった。
その内訳を見ると、
- 約29万2,000社:事業を停止しているが、解散手続きが完了していない
- 約32万5,500社:登録住所で営業しておらず、税金の滞納がある
とされる。
この数字からも、実際には市場から退出しているものの、法的・税務上の整理が終わっていない企業が非常に多いことが分かる。
弁護士のグエン・クオック・トアン氏は、企業の解散を長引かせる要因として、仕入れ請求書、従業員関連費用、紛失した証憑、銀行口座を通じた取引などを挙げる。
税額そのものは少額でも、未提出の申告書や延滞金、紛失した書類など一つの問題が、企業の税コード抹消を阻む大きな障害になる可能性がある。
「企業の義務」と「退出手続きの負担」は分けて考える必要
もっとも、解散時に企業が税務上の義務を果たすこと自体は当然である。
税金、請求書、会計帳簿、債務などを整理し、過去の法令違反があれば責任を負う必要もある。
問題となるのは、長年にわたって実際の営業活動がなく、売上や資産もほとんど存在しない企業まで、通常の企業と同じような負担をかけて廃業手続きをさせることが適切なのかという点である。
ホーチミン市の弁護士ホアン・ハー氏は、実際には事業を停止している企業が、過去の書類を再構築したり、累積した行政違反を処理したりするために数千万、場合によっては数億VNDを支払わなければならないケースを問題視する。
廃業した企業にとって「会社を閉じるための費用」が負担能力を超えてしまえば、経営者は正式な解散を諦め、企業をそのまま放置する可能性が高くなる。
リスクに応じた簡素な解散制度を
こうした問題への対応として、専門家からは企業のリスクに応じて解散手続きを分ける制度が提案されている。
例えば、
- 長期間にわたって実際の営業活動がない
- 資産や従業員が残っていない
- 税金の滞納がない
- 訴訟や紛争がない
- 不正の兆候がない
といった企業については、過去の資料をすべて復元させるのではなく、行政が保有するデータを利用して簡易的に解散できる仕組みを設けるという考え方である。
一方、請求書の不正、売上隠し、資産移転、税金滞納などのリスクが確認された企業については、従来どおり詳細な調査を行う。
つまり、すべての企業を一律に調査するのではなく、リスクの高い企業に行政の人的・時間的リソースを集中させるという発想である。
オンラインで「会社を閉じる」仕組みも必要
専門家は、事業を停止した企業が自ら行政システムに戻り、必要な手続きを完了できるような仕組みも提案している。
例えば、企業自身がオンラインで税務上の義務を確認し、必要な支払いを済ませたうえで、システム上で税コード終了の確認を受けられるようにする方法である。
特に小規模企業や零細企業では、税務・法務部門を社内に持っていないケースが多い。大企業であれば専門家に依頼して対応できる問題でも、小規模企業にとっては解散手続きそのものが大きな負担となる。
ハノイ中小企業協会のマック・クオック・アイン副会長兼事務総長も、企業には税務上の義務を果たす責任がある一方、意図的な脱税や義務逃れと、実際には事業を停止しているものの法的手続きが完了していない企業を区別する必要があると指摘している。
企業設立を容易にするだけでなく、失敗した企業が適切に市場から退出できる仕組みを整えることも、健全なビジネス環境には欠かせない。
ベトナムでは企業設立のデジタル化が進む一方、今後は「起業しやすい国」だけでなく「廃業・再挑戦もしやすい国」へ制度を進化させられるかが、企業環境を評価するうえで重要なポイントになりそうだ。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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