「投資額」から「経済効果」へ FDI政策を大きく転換
ベトナム政府は、外国直接投資(FDI)政策を大きく転換し、投資額や案件数の拡大を重視する従来型の誘致政策から、技術移転や国内企業との連携、産業競争力の強化を重視する新たな戦略へと舵を切る。
6月に政治局が公布した「第10号決議」を受け、トー・ラム書記長兼国家主席は、「これからは外国資本をいかに増やすかではなく、外国の経営資源をいかに国内の技術力や競争力、自立性の向上につなげるかが問われる」との考えを示した。
FDI企業との連携進まず 国内企業は供給網参入に苦戦
ベトナムでは約40年にわたる対外開放政策の下、累計登録投資額は5,490億USD超、FDIプロジェクト数は4万6,000件を超える。
しかし、多くの専門家は、投資規模の拡大に比べて国内産業への波及効果は限定的だったと指摘する。
実際、あるベトナム企業は、世界的な電子機器メーカーの現地工場へディスプレー用インクを供給するまでに2年以上を要したものの、経営陣の交代後、海外から新たな取引先が導入されたことで、1年足らずでサプライチェーンから外されたという。
同社経営者は、「問題は品質ではなく、一部FDI企業が築く閉鎖的な利益構造にある」と語る。
「国内調達率」でも実態は外国企業が中心
外国投資企業協会(VAFIE)によると、多くのFDI企業は母国からサプライヤー網を持ち込み、独自の供給網を構築しているため、ベトナム企業が参入する余地は限られている。
大手製造業では現地調達率が20~25%に達するケースもあるが、その大半は海外資本の一次サプライヤーによるものである。
純粋なベトナム企業から調達される部品は5~10%程度にとどまり、包装資材や印刷、社員食堂、物流など付加価値の低い分野が中心で、主要部品は依然として海外のサプライチェーンに依存している。
商工省工業局のファム・バン・クアン副局長も、「FDI企業から国内企業への技術や経営ノウハウの波及効果は期待を下回っている」と認めている。
税制優遇から成果連動型支援へ
新たなFDI政策では、税制優遇や土地提供など「投資時の優遇措置」から、成果に応じた支援へと政策の重点が移る。
政府は、
- 先端技術の導入
- 研究開発(R&D)
- グリーントランスフォーメーション
- デジタル化
- ベトナム企業との取引拡大
などを実現した投資案件に対して重点的に支援する方針である。
一方、環境汚染や移転価格税制への違反、事業の遅延などについては厳格に対処する姿勢を打ち出した。
経済専門家からは、「投資したこと自体ではなく、ベトナム経済にもたらした価値に対してインセンティブを与えるべきだ」と評価する声が上がっている。
地方間の誘致競争から国家戦略へ
政府は今後、地方自治体ごとの誘致競争にも見直しを加える。
これまでは各省・市が税制優遇などを競い合い、より多くのFDI案件を獲得することを目指してきた。
しかし今後は、産業クラスターやバリューチェーン、イノベーション・エコシステムを軸とした国家レベルの戦略的な投資誘致へ移行する方針である。
国内サプライヤー育成を政策の柱に
専門家は、新戦略を成功させるためには、ベトナム企業がグローバル企業の一次・二次サプライヤーへ成長できる環境整備が不可欠だと指摘する。
中小企業は設備投資資金を確保できず、サプライチェーンへ参入できなければ融資も受けにくいという悪循環に陥っている。
このため、法制度の整備に加え、技術支援や金融支援を組み合わせた包括的な支援策の構築が求められている。
また、一部の専門家は、FDI企業に対して技術移転や現地サプライヤー育成をより厳格に義務付ける制度の導入も提案している。
「FDI依存」から「内発的成長」へ
商工省は、2026~2035年の裾野産業振興プログラムを通じて、研究開発や中核部品・素材の生産、グリーン製造、デジタル化、スマートファクトリー化を重点的に支援する計画である。
長期的には、「FDIから技術を受け入れる」段階から、「国内企業の競争力そのものを育成する」段階への転換を目指す考えだ。
今回の第10号決議は、単なるFDI誘致策の見直しではなく、外国資本を国内産業の競争力向上につなげることを目的とした、ベトナムの産業政策の大きな転換点となりそうだ。



















