2018年に設立されたエプソンベトナムは、オフラインとオンラインで知名度を高めつつ業績は右肩上がり。モノクロプリンター全盛の当地にはカラープリンターの商機があるという。中田一平社長がその詳細を語る。
ベトナムの現在と戦略
―― 2018年設立と比較的近年の進出です。
中田 まだまだ新しい会社です。ベトナムは以前は代理店販売で、エプソンタイランドの管轄でした。しかし、ベトナム市場はかなりポテンシャルが高く、経済も成長していますから、販社としての現地法人を立ち上げました。販売と同時にサービスやサポートも強化している最中です。
当初のスタッフは5人程度でしたが、今はハノイ支社を含めて約40人になりました。商品ラインナップはプリンター、プロジェクター、スキャナー、産業用ロボットなどがあり、主に工場のあるフィリピンとインドネシアから輸入しています。
プリンターは個人用やオフィス用、各種産業用などに分かれますが、ベトナムでは特に個人のお客様やSOHOなど中小企業様向けに、インクジェットカラープリンターを販売したいと思っています。
基本は家電量販店などを介した代理店販売ですが、日本と違うところは大手の販売店以外に個人経営や中小規模の代理店が数多く、地方を含めると数十社になります。また、ベトナム全体で売上が伸びているShopeeやLazadaなどのオンライン販売も進めています。..

―― ベトナムのプリンター市場を教えてください。
中田 ベトナムでは個人やオフィスで白黒印刷が浸透していて、使われるのはモノクロのレーザープリンターが主流です。カラープリンターは馴染みがなくて認知度も低いのですが、他の東南アジア諸国ではどこもカラー印刷が一般的で、しかもインクジェット方式に進んでいます。ベトナムはかなり特殊な市場と言えます。
インクジェットプリンター(インクタンク)というセグメントに限れば、エプソンは東南アジアではシェア50%以上で1位、ベトナムもシェア率は低いものの1位という調査結果があります。つまり、ベトナムで販路を広げる伸びしろが大きいわけです。
私はこれまで中国、フランス、米国に駐在してきました。これらの国とベトナムを比べると、欧米以上にプリンター市場の成長を感じますし、約20年前に赴任していた中国の胎動期に似ています。他社とパイを取り合うのではなく、市場全体の拡大が見込めると思っています。
主なターゲットは個人なら大学生、SOHOならクリエイティブデザイナーなどのクリエイターをメインに考えています。大学生はレポートやプレゼン資料をカラーで出力することが多く、クリエイターは仕事で使うからです。
そのため、オフラインでは年末年始やバックトゥースクールの時期に家電量販店や代理店と一緒にプロモーションをしたり、オンラインではKOLや有名なデザイナーと組んでWebサイトや動画を配信してます。

―― エプソンのプリンターの特徴とは何でしょうか。
中田 1番の特徴としてはインクジェットのヘッド部分が独自技術で開発されており、高速で高画質な印刷ができることです。また、インクを従来のカートリッジから大容量の「エコタンク」に変えたので、インク代を削減でき、交換の手間が少なくなり、環境対策にもなっています。
加えて、機種によって異なるものの、モノクロプリンターと同じ価格帯でご提供できます。価格は300~400万VND程度が中心で、ベトナムの物価からはやや高めかもしれませんが、大学生の方にも多く買っていただいています。価格競争力もあると思います。
若い世代は情報がスマホやパソコンで完結するので、わざわざ紙に出力しない傾向があります。つまり、ベトナムではプリンターのカラー化と社会のデジタル化が同時に進んでいて、プリンター市場はかつての欧米や日本とは異なる伸び方をしています。
その中でカラー印刷のニーズは一定以上あり、例えば写真を印刷するプリントショップは高額ですが、自宅のプリンター出力なら安くて手軽にできます。お子さんの教材はカラフルな方が喜ばれますし、オフィスの資料も色付きの方が伝わりやすいです。
販売先はハノイとホーチミン市で約8割と大都市が多いのですが、サービスやサポートも含めて地方もしっかりとカバーしていきます。

カギは代理店とオンライン
―― 他の商品について聞かせてください。
中田 販売している商品の20%程度はプロジェクターです。オフィスの会議室などの他、パソコンの内容を投影するといった学校での使用も多くあります。こちらも直販はしていないので、代理店経由で届けています。
昨年発売した家庭用プロジェクターはNetflixやYouTubeが内蔵されており、部屋の壁などに高画質で投影できます。大きな壁なら100インチサイズなど映画館で楽しむメージで、米国ではかなり売れています。
エプソンのプロジェクターは多くの人たちに使われており、例えばエプソンが日本で協賛しているチームラボさんなら、ミュージアムの作品にプロジェクター約500台などを使っていただきました。
あまり知られていませんが、エプソンはスカラ(水平多関節)ロボットを開発しています。腕時計の組み立て用に自社開発したのが始まりで、小型エレクトロニクス製品の精密組立てなどに使われています。
ロボットは北部の工業団地で使用されることも多いので、ハノイ支店にも専用のスタッフを揃えています。
他にもTシャツなど布地に印刷するテキスタイルプリンター、大型のポスターなどを印刷するサイネージプリンター、各種サイズのラベルプリンターなどあり、企業規模から全ての商品は扱っていませんが、東南アジアの各支店と遜色ないラインナップがあります。
―― 事業拡大のために注力していることは何ですか?
中田 我々が現地に入ったことで、販売代理店さんともその先のエンドユーザーさんとも直接コミュニケーションできるようになり、連携しながらお客様をサポートしていく体制ができました。この代理店さんにモチベーションを高く持っていただく仕組み作りが大切であり、製品の良さを伝えたり、一緒にプロモーションを開催していますが、改善の余地はまだあると思っています。
ベトナムで面白いと感じるのはオンラインで、今まで経験した米国やヨーロッパよりデジタル化が全然進んでいます。今後の可能性も十分にあると、ライブストリーミングでの販売もしています。主力がプリンターですからライブで買っていただけるか心配でしたが、ある程度の方がいるので少々驚きました。
赴任して約1年ですが、特別新しいことを始めるよりも、まずは現在の販売とサービスサポートの体制をしっかり整備することが大切だと思っています。

プロフィール
中田一平 Ippei Nakata
大学卒業後にセイコーエプソン入社。海外営業部にて主にプロジェクター事業に携わる。中国・北京に約1年、フランス・パリに6年弱、米国・ロサンゼルスに約3年駐在。2024年4月にベトナムに赴任して現職。
取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。
過去のリーダーたちの構想
リーダーたちの構想 第81回|AAB VIETNAM
リーダーたちの構想 第80回|AGRIEX
リーダーたちの構想 第79回|ベトナムくん