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ベトナムで活躍する日系企業|リーダーたちの構想 第8回|JICAカントー大学プロジェクト

JICAカントー大学プロジェクトの今井淳一氏

日本の政府開発援助(ODA)を実施するJICAは様々な形でベトナムを支援してきた。そのひとつがカントー大学への技術協力、最前線に立つのが業務調整員だ。多彩な経験を持つ今井淳一氏がその仕事について語る。

日越の産官学連携を後押し

今井 メコンデルタのカントーにあるカントー大学で、JICAの技術協力である「気候変動下のメコンデルタ地域における持続可能な発展に向けた産官学連携強化プロジェクト」の、業務調整員をしています。

 農作物や水産物の豊かな産地であるメコンデルタ地域は気候変動の影響を受けやすく、JICAでは同地の中核大学であるカントー大学の、産官学連携や研究成果の社会実装を支援しています。具体的には農業や水産分野の日本の大学との共同研究と、それら研究成果の実用化で、私は両者をつなぐコーディネーターをしています。

 1966年創立のカントー大学は来年で60周年を迎える名門大学で、1970年に二国間協定を締結するなど日本と関係が深く、日本で博士号を取得した教員も多くいます。ODAには大学自身のレベルアップを目指すプロジェクトもありますが、このプロジェクトではカントー大学強化を通じたメコンデルタの持続的発展が目的です。

 カントー大学では多くの研究が既に実施されており、それぞれの専門分野で日本の大学の協力も進んでいますので、これからはより一層研究の成果が社会に出ていく必要があります。ここを訪れる日本企業は多く、JICAプロジェクトをご存知の方、JETRO等からの紹介、カントー大学への訪問後に当方プロジェクトに立ち寄るなど、きっかけは様々です。

 一方、カントー大学が協力相手の企業を探す場合もあり、それを支援するため、私は広くアンテナを張って、どんな関係者が何をしているかなどの情報を集めています。

 連携促進は日本側企業とのWebミーティングから始まる場合が多く、訪問客と合わせると毎週複数社と打合せがありますね。情報交換に留まる場合もあれば、ベトナムでの進出を決めている企業さんなら数ヶ月でカントー大学との覚書に至る場合もあります。

カントー大学プロジェクトスタッフとの集合写真

今井 メコンデルタ市場を見据えているため、畜産飼料や農業機械、農業資材関連や、食品加工、水産養殖関連設備などが多いです。既出の企業ではなく進出を検討している企業も多く、地域で影響力のあるカントー大学の研究成果、論文やデータを元に事業化して、市場からの信頼を得たい気持ちもあると思います。

 研究の対象となるのは新しい取組みであり、研究とするからには新奇性も求められます。新しい事業を始めたい企業との共同研究は、双方にとってメリットがあり、前に進みやすいと感じます。

カントー大学での共同研究の様子

 カントー大学全体で言えば、日本の人手不足から大学生をリクルートしたい日本企業も来ています。特に工学部やIT学部など理系の学生に対する関心が高いようです。

 私の役割は企業への大学研究室の紹介、紹介後の細かなフォローなどがあり、英語でのコミュニケーションが難しければベトナム語の通訳をすることもあります。

 基本的には最初の覚書ができるまでを目安に支援をしています。私が全てやってしまうとカントー大学と企業との共同研究事業として長続きしないので、どこまで支援すべきかのバランスは常に考えています。

タウナギ養殖と稲の品種改良

今井 このプロジェクトの協力期間は2022年4月~2027年3月です。開始当初に12のテーマを決めて、カントー大学、日本の大学、双方の研究者が各テーマのリーダーとなり、博士、修士課程の研究者たちとチームを作っています。

 JICAが最終的に目指す「社会実装」に近い2例を紹介しますと、ひとつは水産養殖学部による「閉鎖循環システムによるタウナギの養殖」です。メコンデルタの魚種であるタウナギは、ベトナムの重要な水産資源であり、人気の魚料理でもあります。

 ただ、養殖に使った後の排水は環境汚染につながるため、複数の水槽で異なる魚や海藻、微生物による水質浄化を行うことで、水を循環利用する仕組みです。水を浄化しながら育てることで、環境負荷を抑えて稚魚から安定的に生産できます。

 今年3月には在ホーチミン市の日本人を招いて、タウナギの調理と試食会を開催しました。場所はホーチミン市のウナギ専門店で、参加者の評判は上々でした。私も試食しまして、脂質が少ないのでかば焼きとしては淡白なのですが、天ぷらにすると美味しかったです。

 タウナギ養殖に関する研究は長く続いており、環境に配慮した安定した養殖方法の普及に加え、生産したタウナギを市場とつなげるのが目標です。

 今年のジャパンベトナムフェスティバルにもJICAのブースが出展し、水循環システムの模型と生きたタウナギを水槽で公開しました。来場者から多くの質問が寄せられて、興味を持っていただけました。

ジャパンフェスティバルで展示された水循環システムの水槽と養殖タウナギ

今井 もうひとつは農学部による「微生物資材活用による持続可能な稲作」です。穀倉地帯のメコンデルタですから稲作も大きなテーマになります。

 気候変動により乾季になると海水面が上昇し、海水が農耕地を侵食すると塩害が深刻化して、稲の生長に影響が出ます。実際にメコンデルタでは数年前に大規模な塩害被害が発生しており、持続可能な稲作のための耕作方法研究は重要な課題です。

 化学肥料の使用量を削減しながら有機肥料を増やし、かつ微生物資材を投入することで、高塩分に耐え得る耕作方法を開発しています。同時に間断灌漑や不耕起栽培を取り入れて、温室効果ガスの排出を抑える方法も研究しています。

メコンデルタの塩害フィールドワークの様子

 また、情報通信技術学部の協力を得て、農地のリモートセンシングのデータをスマホで受けられるようにするなど、多くの異なる分野の研究者とのコラボで研究が進められています。

 カントー大学はキャンパスがとても広くて、別の建物に行くのに30分以上かかることも珍しくありません。だから学内でも自転車で移動しているんです(笑)。

今井 大学などの先生方、日越の民間企業、NGO法人のスタッフなど多くの人が関係しますので、そのコーディネーターはとてもやりがいがあります。

 2004年からベトナムにいますが、ずっとハノイで働いてきて、昨年4月からこのカントーに移りました。良いところですし、カントー大学は優秀なカウンターパートだと思います。これからも支援を続けたいですね。

カントー大学校舎

JICAカントー大学プロジェクト
今井淳一 Junichi Imai
英国の大学で修士号を取得後、在広州日本総領事館の専門調査員に。国連開発計画(UNDP)ベトナム事務所、国際協力機構(JICA)ハノイ事務所等を経て、2024年4月からカントー大学でJICAのプロジェクト業務調整員。

執筆者紹介

取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。

過去のリーダーたちの構想
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