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ベトナムビジネス情報Vol108|
キャッシュレス急伸の理由と未来

現金主義のベトナムで今、電子財布(E-Wallet)などを使った電子決済が広がる。参入企業は増加し、プロモーションが連発され、登録ユーザーは急増中だ。なぜこれほど加熱するのか、その先には何があるのか?

電子決済アプリ「MoMo」

 世界銀行によるとベトナムの非現金決済比率は4.9%であり、何と95%が現金決済だ。キャッシュレス大国になった中国の非現金決済比率が26.1%、隣国のタイでも59.7%だから極めて低い。また、中央銀行であるベトナム国家銀行によれば、人口の59%しか正式な銀行口座を持っておらず、現金社会の大きな原因となっている。
 しかし、状況は急激に変化している。ベトナム国家銀行は2018年1~9月に電子決済が急増したと発表。決済件数ではオンライン支払が33%、モバイルアプリが30%、電子財布が28%増加し、決済総額では同じく18.3%、126%、161%と増加している。また、市場調査会社Statistaによると、ベトナムの電子決済取引の総額は2017年に前年比22%増の61.4億USDとなり、2022年までに2倍の123億3000万USDになると予想している。
 では、ベトナム人は何を使って電子決済をしているのか。その代表的なサービスが、JSCモバイルオンラインサービス(M_Service)社が運営する、スマホアプリの「MoMo」だ。支払の対象は電気・水道・携帯電話などの公共料金、航空券や列車のチケット、各種請求、タクシーや映画館、現金の送金や金融機関のローンも利用できる。また、15の主要銀行と直接提携し、ベトナム国内の決済機構NAPASを通じて30の銀行ともつながっている(内容はすべて原稿執筆時、以下同)。
 日系IT企業Vitalify Asia Co.,Ltd.のDirectorであり、同社のブログ「アプリ開発ラボマガジン」で最新のベトナム事情を追う石黒健太郎氏が語る。
「MoMoで支払いができるパートナー企業は約1万社、ベトナム全土には提携店が2万以上あります。登録ユーザー数は2018年10月時点で1000万人と発表しています」
 提携店とはコンビニやショップなどの店舗で、MoMoでの買物だけでなく、MoMoへのチャージ(入金)もできる。提携した銀行口座とのリンクが可能で、政府もそれを推奨しているが、上記のように銀行口座の保有率が低い。そもそも山村などには銀行がないため、現金によるチャージで銀行口座の代用となっているのだ。
 MoMoでの決済は2018年6月末時点で、年間の決済(取引)件数が2億件で、総額は12億USD。単純計算で1回当たりの取引額は6USDとなる(送金なども含まれるため支払いの平均値とは限らない)。

キャンペーンで囲込み戦略

 MoMoは海外からも注目された。2013年に米ゴールドマン・サックス証券が575万USDを、2018年には英スタンダードチャータード銀行とゴールドマン・サックス証券が2800万USDをM_Serviceに出資。今年1月には、世界有数のファンド管理会社米ウォーバーグ・ピンカスが5000万~1億USDを出資した可能性があると報道された。
 しかし、莫大な資金を調達しながらもMoMoは大赤字だ。2017年は売上1兆7340億VND(約7456万USD)で損益は2430億VND(約1045万USD)の赤字。2017年末までの累積赤字は5660億VND(約2400万USD)という。
「MoMoの赤字は毎年増えており、2018年の赤字も大きくなりそうです。赤字額はECサイトではTikiと同等で、Shopeeよりは若干少ない規模です」
 赤字の大きな理由は、ユーザー獲得や利用促進のためのプロモーション。つまり、現在は投資フェーズなのだ。例えば今年の1月21日~2月24日に行われた「Shakexi – Golden Pig Shake」は、賞金総額1000億VNDのキャンペーンだ。新規登録者や銀行口座とリンクしていないユーザーの活性化も狙っており、スマホをシェイクする(振る)とアイテムが出て、プレゼントが貰えるなどの特典が付く。
 1月21日には100万人がログインし、金融系アプリでは同時ユーザーログイン数の最大記録となり、1日平均50万~100万人がSNS上でこのキャンペーンに言及したという。また、有名なコメディアンのChi Tai氏が出演したPR動画は、1月20日に公開されて1ヶ月で1400万回再生された。この規模ではないにせよ、MoMoや同業他社はこうしたキャンペーンを頻繁に行う。
「MoMoはある意味独立系の電子財布で、大手企業のような資金的なバックグランドがあるわけではない。そのため外部から資金を調達する必要があり、ユーザーを獲得して急成長を打ち出すためにキャンペーンを続けていると考えられます」
 大手・有名企業も続々と電子財布事業に参入している。人気国産SNSのZaloを運営するVNGは「ZaloPay」、通信事業大手のViettelは「ViettelPay」、ECサイトのShopeeは「AirPay」、IT企業大手FPTグループのFPT Telecomは「AutoPay」、配車アプリ大手のGrabは「GrabPay」、韓国の携帯電話大手Samsungは「Samsung Pay」を作り、あのVingroupも決済サービスのための子会社「VinID」を設立した。
 大手銀行も軒並み参入し、SacomBankは「Sacombank pay」、Vietcombankは「VCBPAY」、BIDVは「BIDV Pay +」、TPBankは「Savy」、VPBankは「YOLO」といった具合だ。これらは金融機関の危機感の表れではないかという。
「これまでの貸出しによる収益や各種支払いによる手数料が、電子財布会社に取られてしまうことへの対策だと思います」
 また、支払いを行う電子財布には、ライフスタイルに関する個人データが大量に蓄積される。銀行口座が各種支払いに使われなくなるとデータが貯まらないので、金融サービスの開発にも影響が出てしまう。
 2018年10月末時点で、24の電子財布に営業ライセンスが提供されており、今後も新規の電子財布が増えることは間違いない。その中でMoMoは、2019年にユーザー数を1600万人に増やすと強気の姿勢を崩さない。

ユーザー側の必要性は?

 事業者側がこれほど加熱する一方で、利用者はどうか。都市部では銀行カードが普及しており、電子財布より便利という見方もできる。また、ベトナムには偽札が少ないので、中国のように偽札への不安が電子決済を後押しするわけではない。各社のプロモーションでアプリをダウンロードする人は多くても、1人で複数のアプリを登録する人や、実際に決済に使った割合は明らかではない。
「電子決済の必要がない人でもまずはプロモーションで囲い込み、その後で利便性に気づいて、使ってもらう。だから今は体力勝負の時期であり、そのため最大手のMoMoでさえ赤字覚悟なのでしょう」
 この状況は奇しくも日本と似ている。偽札の心配がなく、クレジットカードやSuicaなどのICカードが一般化しているので、新たな電子決済は特段必要とされない。しかし、PayPayが100億円還元キャンペーンを実施し、メルカリがメルペイを始めた。やはり使ってもらった後の普及を狙っているのだろう。
 では、電子財布が普及し、生活のプラットフォームになった先に、事業者は何を期待するのか。ZaloPayのデータを見ると、リリース1ヶ月後に130万人以上のユーザーを獲得、2018年10月現在の登録数は200万、電子財布での支払いで16%のシェア、収益は5000~6000億VND(約2150万~2580万USD)、決済手数料は0.4~0.5%だそうだ。

これから始まる収益ビジネス

 最後の決済手数料に注目で、少額での支払が多い電子財布は手数料が安いとわかる。クレジットカードなら利用店舗から数%の手数料が入り、ユーザーへのポイント還元などもできるが、電子財布は薄利多売にならざるを得ないのだ。
「そのため、ユーザー獲得と並行して、各社は新しいサービスを始めるでしょう。例えば、MoMoと韓国のShinhan Bankが提携して、昨年10月から始めた消費者ローンなどです」
 また海外の銀行と提携すれば、海外送金サービスにもつながる。外国で働く人が自国に送金する場合は海外送金を使うが、銀行の手数料は高めだ。また、現地の通貨から自国の通貨に変えるときの為替手数料も1~5%などと大きく、送金者の負担となる。一般的な国際送金より安い手数料にできれば、新しいサービスに切り替える人は増えるだろう。
「特にベトナムは海外からの送金額が約158億USDと過去最高となりました(2018年)。大きなビジネスが生まれる可能性があります」
 先に触れた個人データの利用も考えられる。上記のような消費者ローンの申込みや受取り、そのための与信、あるいは所得増に伴って販売増が期待される各種の保険。そこでは保険(Insurance)とテクノロジーを組み合わせたInsurTech(インシュアテック)を使い、個人データから保険料を決めるような仕組みも使えそうだ。
「移動データが蓄積されるGrabも、保険を含めたFintech分野で新たな事業展開を考えているはずです。無担保ローンや保険などは、電子決済手数料よりも大きな収益を生む可能性があります」
 ゴールドマン・サックス証券などの出資企業も、こうした先を見据えての投資だと石黒氏は見る。数年後には電子財布など電子決済のスタンダードが決まり、これまでにないサービスが始まっているかもしれない。