経済成長の指標となる株式市場。まだ若いベトナムの株式はどんな影響を受け、どのように動いているのか。専門家に2019年を振り返り、2020年を予測してもらった。ベトナムで株を始める方法も聞いたので、よければぜひ。
ベトナム株式市場の基礎知識
まずはベトナム株式市場の特徴から。お聞きしたのはJAPAN SECURITIES INCORPORATED(ジャパン証券)でベトナム株式調査を行っているアナリストの津上翔二氏だ。同社は2009年にベトナムでサクラ証券として設立後、2010年にジャパン証券に社名変更、2018年には藍澤證券の子会社となった。証券仲買、証券保管、投資助言、ディーリングなどの業務を行っている。
ベトナム株式市場には大型株が上場するホーチミン証券取引所、中小型株のハノイ証券取引所、未上場株を扱うUPCoM市場、市場ではないが取引形態としてはOTC (店頭取引)がある。
知るべきはまだ歴史が浅く、諸外国に比べて規模も小さいこと。ホーチミン証券取引所が設立されたのが2000年、ハノイ証券取引所は2005年だ。また、ホーチミン証券取引所のVN指数(上場銘柄から構成される時価総額の加重平均指数)のポイントの動きが、ベトナム株式市場の指標となっている。
若い市場なので市場参加者は個人投資家が中心であり、銘柄によっては値動きが激しいこともある。逆に流動性が低くて、売買が成立しない銘柄も多くあるので、リスクの高い市場とも言える。また、先進国に比べると市場の規制緩和や企業の情報開示、制度運用などの面で課題もある(後述)。
「日本の1960~1970年代の高度成長期に投資していれば、現在何十倍にもなっている日本株の銘柄もあります。ベトナムもまさに高度成長期なので、投資をするなら日々の値動きを追うよりも、長期のスタンスで考えたほうが良いでしょう」
2019年の株式市況
2019年は年初来からETF(上場投資信託)を中心として外国人投資家の買いが集まって上昇し、3月半ばにはVN指数が1000ポイントの大台を超えた。外国人がEFTを選ぶ理由には、ベトナムでは個別の銘柄には外国人投資比率の制限などがあり、必ずしも自由に投資できないこともある。
上昇の要因はベトナム株式市場のMSCI分類で、「フロンティア市場」から「新興国」への格上げが期待されたから。しかし、これが見送られたこともあって、その後は950~1000ポイントのレンジで上下を繰り返した。
「続いていた外国人の買い越しが止まったのが8月です。VN指数が1000ポイントを超えられずに横ばいを続けたので、投資信託などのファンドの解約などを中心に売りが増加していきました」
ただ、10月の第3四半期決算の発表後には、大企業の好業績と自社株買いのニュースなどを受けて再び1000ポイントを超え、11月には1028ポイントの高値を付けた。しかし買いは続かず、再び指数が1000ポイントを割ったことで売りが集中し、950ポイント付近へと下落した。
「2019年は2018年と違って大企業の新規上場、政府からの売出し案件があまりありませんでした。これが相場が盛り上がりに欠けた要因だと思います」
そのため、政府の売出しが進んだり、市場で噂されている大手企業の上場などがあれば、株式市場への注目度は上がると見ている。また、ベトナムの大手企業を集めたVN指数では全体として利益は34%、売上が17%と伸びた。特に銀行は、4大国営商業銀行を中心として大幅な増益となっている。
注目するのは銀行と小売り
2020年の株式市場はどう動くか。津上氏は引き続き格上げへの期待感が材料の一つとなり、ベトナム企業は好業績を続けると予想する。理由はベトナム経済の成長で、2019年も米中貿易戦争の影響が騒がれる中で好決算、好景気を続けていたことは、ベトナムの潜在的な成長率が非常に高いことを示しているという。
また、ベトナムの1人当たりGDPは12月13日に統計総局が2010~17年の再集計を発表し、約3000USDになったが、まだ東南アジアでも低い水準にある。そのため今後は、その他のアジア諸国に追いつく勢いで伸びると考えている。
「外国人投資家の買いが相場に戻ってくれば、VN指数は1100ポイントまで上昇すると予想します。そのためには外国人への規制緩和、またはそれに準ずる政策がカギとなるでしょう」
注目するセクターは銀行と小売り。ベトナム経済拡大の恩恵を数十年規模で、安定して享受できるからだという。
銀行においては、経済が大きく発展しているベトナムでは、資金調達による投資で企業規模が拡大しており、資金調達の手段である銀行の役割は非常に大きくなった。企業も個人も借り入れを増やしており、それを政府が規制でコントロールしている状況。18歳以上の銀行口座保有率は60%程度であり、こちらの拡大余地も大きい。銀行の存在感は今後も高まりそうだ。
また、ベトナム人の給与は年々上昇しているため、将来のための貯蓄よりも目先の消費にお金を回そうとする。インフレ率がうまくコントロールされているため、物価上昇と消費の増加の恩恵を享受できる小売りは、安定して成長できるセクターだと考える。
「1人当たりのGDPが3000USDを超えると、一般的に自動車の購入など消費が爆発すると言われていますが、ベトナムは爆発前夜だと思います」
反面、2018年ごろから建設セクターを懸念している。銀行からの融資規制、メトロや不動産プロジェクトの開発の遅れなどがあり、株価は大きく値下がりした。いつ景況が回復し、株価が反発してくるかに注目している。
株式市場の課題と対策
ベトナムの株式市場は他国と比べて大きな違いはないが、先進国市場よりも制度運用に問題があるという。そのため、政府が証券市場の改革を進めており、取引所の統合や国家証券委員会(SSC)の財務省からの独立などが検討されている。
市場を強化するためには以下のような内容が挙げられる。不公正取引に対する市場監視体制、上場基準と上場管理、証券市場の国際的評価などで、経営者の投資家に対する意識改革も必要。企業により差はあるが、一部の大手企業を除いては、概して投資家(株主)に対する社会的責任の認識がやや低いようだ。
「企業の情報公開や配当を通した株主への還元などの認識です。企業が長期安定株主を求めるという意識や、法律的には株主が企業の所有者であるという概念が乏しいのではと感じます」
また、証券業界団体の役割強化による、各社の自主規制強化も大切。日本には日本証券業協会という代表的な業界団体があり、これは全ての証券会社や一部金融機関により設立されている自主規制機関だ。有価証券取引の公正かつ円滑化、証券市場の健全な発展や投資家保護を主たる目的としている。
しかし、アジア諸国ではラオス、ミャンマー、カンボジアなどはそもそも証券の業界団体がなく、ベトナムにはSSCという規制監督や政策立案を行う機関が業界団体としてある。しかし、財務省の下部組織であるために、上述のように独立が検討されている。
ベトナムで株を始めるには?
ここまで読むと、ベトナムで株取引を始めたくなった読者もいるのではないか。ベトナム株を売買するには、ベトナム株を扱っている証券会社に口座を開設することから始める。
「ベトナムで現在営業している証券会社は約70社ありますが、日本人の口座開設を受け入れているのは弊社を含めて数社と思われます。日本の証券会社でも、藍澤証券など一部の証券会社がベトナム株を扱っています」
日本の証券会社での口座開設は、日本株を買うのと同様の手続きだそうだ。しかし、ジャパン証券を含めたベトナムの証券会社では自社の口座開設だけに終わらず、外国人には少々ハードルが高い。
ベトナムでは外国人の証券投資に規制があるので、当地の銀行に間接投資口座を開設する必要がある。また、株式はVSD(Vietnam Securities Depository)という証券保管機構で保管されるので、ここにも口座を開設して、証券取引コードを取得する。つまり、証券会社、銀行、VSDの3社で口座を開設して、初めて株取引ができるのだ。
「提出書類は口座開設書類に加え、本人確認書類として公証済みのパスポートなどが必要となり、費用と手間がかかると言えます。銀行と証券会社は共に、口座開設者本人が窓口に行く必要があります」
また、先進国の市場は受渡日(日本であれば約定日の翌々日)までに決済するが、ベトナムは前受制なので、間接投資口座のある銀行に資金がないと株式の購入はできない。投資規制で外国人枠の上限に達している銘柄は購入できないこと、日本語や英語で入手できる情報は限られるなどもマイナス要因と言える。
最初は日々の経済ニュースとVN指数のチェックから始めたほうが良いかもしれない。