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ベトナムビジネス特集Vol122|
新型コロナウイルス、ベトナムの想いと動き

新型コロナウイルスが世界中で拡大を続ける中、その感染を抑え込んでいる数少ない国の一つがベトナムだ。政府の主導が奏効する一方で、ベトナム人は事態をどのように受け止め、どんな行動をしてきたのか。各種の調査でその実際を明らかにする。

アウトブレイク前後の調査 ベトナム人はどう変わったか

 B&Company Vietnam

(左)

General Director

太田薫正氏

(右)

ハノイオフィス事業開発部

鉦打康平氏

SARSより怖い新型コロナ 媒体の信頼度に大きな差

調査会社のB&Companyは、新型コロナウイルスの感染フェーズを3つに分けた。17番目の感染者が見つかった3月6日までを「初期」、感染が再度広がった3月6日から社会的隔離終了の4月22日が「深刻期」、それ以降の「安定期」だ。

この初期と深刻期を比較するため、2月上旬と4月下旬にアンケートを実施した。「新型コロナウイルス(COVID-19)感染症に対するベトナム人の反応」(対象者全国計1回目181人、2回目424人、16歳以上)だ。

ベトナム人は新型コロナウイルスをどれくらい危険と考えているのか。SARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザ、新型インフルエンザと比べて聞いたところ、どれも新型コロナウイルスのほうが脅威となった。最も危険度が近いのが「SARS」だが、それでも新型コロナが「より危険」と「はるかに危険」を合わせた数字は2月調査で26%。危機意識が伝わる。

「感染が広がり、これはまずいと思った人が多かったのでしょう。4月調査では44%に上がりました」

情報収集では、「新型コロナウイルスの最新情報を常に得るようにしている」に対して、「とても当てはまる」と「当てはまる」の合計が2月は93%、4月は94%とかなり積極的だ。その情報源は2月も4月も1位は「テレビ」、2位は「SNS」、3位は「オンライン新聞」で、4位は2月が「口コミ」、4月は上昇した「政府系のサイト・SNS」に代わった。

ただ、その信頼度は媒体により大きく異なる(表1)。媒体を「常に信頼する」の1位が「政府」(2月と4月共に92%)、2位「テレビ」(89%、90%)、3位「病院のWebサイト」(88%、85%)、4位「ラジオ」(86%、83%)。一方で信頼度が低いのは、「SNS」で2月が11%、4月は7%にダウン。同様に「ブログ・フォーラム」は15%から10%、「口コミ」は17%から7%に下がった。

「主な要因はフェイクニュースだと思います。フェイクニュースを見聞きした人は2月調査で81%でしたが、4月には88%に増加しています。この2ヶ月間で特にコロナ発生源に関するデマが増えました。SNSや口コミを鵜吞みにしない傾向が強まったと思います」

収入、メンタル…2ヶ月の変化 落ち着いた食糧備蓄

日常生活への影響はどう変わったか。「少し悪影響」が2月時点で60%が4月は65%に、「非常に悪影響」はどちらも20%で、具体的な内容も変化した。日常生活への影響(表2)で「収入減」が9%から44%へ、「失業・仕事の不安定化」が1%から24%へと急増。生活基盤への悪影響が顕在化した。

その一方で、「メンタルへの影響」は23%から3%に低下。フリーアンサーからの判断なので誤差はあるかもしれないと太田氏は語るが、自宅待機の環境に慣れてきた様子と、明るい国民性が伺える。

「経済が右肩上がりでしたから、新型コロナが終息すればまた生活が良くなるという見通しもあるのでしょう。こうした耐性は日本人より強いかもしれませんね」

自己防衛の方法(表3)の上位には「衛生の保持」、「公共の場所に行かない」、「マスクの着用」、       「栄養のある飲食」があり、2ヶ月の間にどれも増えているが、顕著なのは「エクスサイズ・スポーツをする」で、48%から67%に増加。免疫力の向上や運動不足の解消に体を動かしているようだ。

また、当初は「買いだめ」のニュースも流れたが、それも変化した(表4)。2月の食料品の備蓄は「1~2週間」と「2~4週間が」多く、4月では「1週間以内」と「備蓄なし」が増えている。

「ベトナム人の友人に話を聞くと、当初はやみくもに食料を買い込んだものの、今は残っても困らないものを買っているそうです。この調査でも最も一般的な備蓄品として、米は17%から46%、即席めんは32%から55%、魚・肉は27%から38%に増えています」

政府の行動を高く評価 98%が常に規則を守る

政府への評価は元々高かったが、2ヶ月でさらにアップした。政府による感染対策の効果に対して、「効果的」が58%から28%に下がる一方、「非常に効果的」が28%から69%に急上昇したのだ(表5)。

調査では項目別に、「よくなされている」と「改善が必要」の両意見を聞いている。例えば、「感染患者の隔離」は前者が84%から91%に上がり、後者は40%から27%に下がった。同様に、「メディア・情報公開」は前者が79%から86%に上昇し、後者は36%から23%に落ちた。

「ただ、『改善が必要』の中心は、隔離をより徹底してほしい、フェイクニュースを抑えてほしいなどの声です。つまり、政府の行動を後押ししているのです」

学校や職場での感染予防では、マスクの着用や毎日の検温など「強制的なルールを作る」が第1位。2月の77%から4月は84%に上昇している。そして、このルールを守っている人は「常に」が2月の94%から4月は98%となった。

「強制的なルールを98%の人が常に守っており、従わない人はほとんどいない。驚異的な数字です。ベトナム政府への高評価が大きな理由だと思います」

制限された生活の中での不満はあっても、「仕方ないじゃないか」という共同意識があるのだろう。国難に際して助け合うなど生活維持のバッファが日本よりあり、それが団結力を生んでいると太田氏は語る。

ロックダウン中のベトナム人 自宅待機の意識と行動

INTAGE VIETNAM LLC.

Director

根岸正実氏

「1ヶ月後に改善」が8割 子ども、掃除が第1位

ベトナム全国規模で4月1日~15日、ハノイやホーチミン市などの高リスク都市は22日まで、首相指示第16号による「社会的隔離」が実施された。食料や薬品等の調達以外は、基本的に自宅での待機となった。

完全なロックダウンではないが、かなり不自由な生活となったベトナムの人たちは、どんな行動をしていたのか。INTAGE VIETNAMでは4月下旬にアンケート調査、「ロックダウン中の消費者調査」(ホーチミン市とハノイ計200名、18~50歳)を実施した。

調査からまず見えてくるのは終息への希望だ。1ヶ月後の状況について聞くと(表1)、「やや改善」と「完全に改善」を合わせた「改善する」が約80%。同社は3月上旬にも同じ調査をしており、その時より10%以上もアップしている。

「3月の時点で、政府(保健省)の予防・検疫対策に『信頼できる』と答えた人が79%でした。政府への信頼の強さと危機意識の高さが、新型コロナの封じ込めがうまくできた出発点だと思います。だから、『改善する』と言えるのでしょう。つまり、期待が確信に変わった」

自宅待機の最中は何をしていたのか(表2)。多くの時間を使った事柄を尋ねると、「子どもと過ごす」と「掃除」が1位で76%、3位が「オンラインビデオ・映画」(72%)、4位が「SNS」(68%)と続く。外出規制の日本人と似た過ごし方に思える。

「『テレビ』が『オンラインビデオ・映画』よりもかなり低いのは、娯楽としてのテレビ離れが進んでいるのでしょう。『仕事』が低いのは回答者がリモートワークのできる方ばかりでないのと、少しさぼってるのかもしれませんね(笑)」

自宅待機中に特に多く購入したものは、「食料品(スーパーマーケット、市場、コンビニなど)」が72%とやはり多く、「食べ物・飲み物(持帰り・デリバリー)」が26%、ローションなどの「パーソナルケア製品」と洗剤などの「ホームケア製品」が共に15%。

男女別で見ると、男性はデリバリーでの飲食、女性はパーソナルケア製品とホームケア製品の購入が多い。自分の欲求に忠実な男性と、世帯全体を考える女性の差か。また、「服・アクセサリー」がわずか5%なのは、外出できないことが大きいのだろう。

増えたキャッシュレス 情報源に世代の差

興味深いのが商品などの支払い方法だ(表3)。新型コロナが広がる前の支払い方法と自宅待機中のそれを比較すると、主流は「現金」だが8%減っている。

「毎年同様の調査をしており、現金の使用率は年に数%ずつ落ちています。それが2桁近く一気に下がったのには驚きました。Momo、ZaloPay、MocaなどのEウォレットが急伸していますが、最もよく使われているのはMomo(88%)でした」

東日本大震災の後、震災時に使い勝手の良さやライフラインになることに感じて、高齢者のコンビニ利用が増えたという。根岸氏はこのように、震災やパンデミックなどの大規模な事態は人の行動に拍車を掛け、そこでの成功体験が利用を促進すると語る。

「Eウォレットに興味がなかった人がこの機会に使い始めて、便利さを実感し、新規ユーザーが増えるなどです。リモートワークとフードデリバリーも同様で、新型コロナ終息後も利用が広がると思います」

ベトナムは良い意味で標準化されておらず、最初から完璧を目指さない。そのため、仮にリモートワークでの良し悪しが見えてくれば、ニーズに合わせてすり合わせが起こるだろうという。

また、3月の調査では情報源について聞いている(表4)。39~59歳の「GEN(ジェネレーション)-X」、24~38歳の「GEN-Y」、18~23歳の「GEN-Z」の世代間で大きな差があった。年長のGEN-XとYは保健省、テレビ、ニュースサイトからの取得が多く、若いGEN-ZはSNSやSNSでの口コミを重視している。

「GEN-Zはフェイクニュースや偽情報にアクセスしている可能性は高いのですが、ベトナム政府は公式情報をSMSで配信していて、情報の格差や乖離を極力なくしています。日本のほうが世代によって受け取る情報にばらつきがある気がします」

このGEN-X、Y、Zの差はマーケティングでもよく使われる。例えば、ベトナムでは40代以上は保守的と言われ、企業としては所得の多い40代(GEN-X)よりも、お金は多少なくてもリベラルな20代後半や30代(GEN-Y)をターゲットにする。後者は受容性が高いので、新商品に興味を持ってくれるからだ。もちろん、サブスクリプションや後払いなど価格の工夫は必須である。

男性は自分の欲求 女性は家庭・家族が第一

自宅待機が終わったら何がしたいか(表5)。結果が男女で分かれて面白い。男性の1位は「理髪店・美容院に行く」で61%、女性は31%なので髪を切りたい欲求は2倍だ。一方の女性は約6割の人が「学校・仕事に戻る」。

「男性の髪は1ヶ月でかなり伸びますし、女性は2ヶ月くらい切らなくてもケアできるのでしょう。自宅待機が2ヶ月続いたら、女性のほうが多くなったかもしれません」

女性が勉強や仕事をしたい理由は、目の前の欲求よりも、家族や子どものことを考えてのことだろうと根岸氏。男性は散髪や外食など、自分のためのリフレッシュを求めているようだ。

「国難のような事態の時ほど人々の行動変容が起こるもの。ベトナムはまだ不便な点もあるので、今後は日本より変化が加速すると思います」

ベトナムのリモートワーク その実際と今後の行方

ASIA PLUS INC.

CEO

黒川賢吾氏

 

リモートワークに素直に移行 メッセンジャーは「Zalo」

新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中で自宅待機と外出規制が始まった。そこで推進されたのがITを活用したリモートワークだ。ベトナムでは4月1日~22日の社会的隔離で一気に加速。この動向を4月上旬に調査したのが、Asia Plusの「ベトナム人のリモートワーク現状」(対象者全国計261人、19~63歳)だ。

では、実際にリモートで働いているのか(表1)。回答は「いつも」と「ほとんど」で8割以上と、政府の意向に従っているのがわかる。

「この結果は不思議ではなく、外資系などの人事や福利厚生がしっかりした企業は、3月の時点で自宅勤務としていました。スタッフの意向も大きく影響していると思います」

日本人と比べてベトナム人は、コロナから身を守ろうとする意識がとても強い。彼らの懸念が企業を動かし、リモートワークにせざるを得なかった事情もありそうだ。そしてそのルール(表2)は、半数の会社は日報や週報の義務付け、2位はオンラインミーティングの12%だが、2割は「なし」。

「場所は変わっても仕事は変わらない。だからレポートの提出も従来通りなのでしょうが、急な決定に対応が十分にできなかったのでしょう」

新型コロナで使用が増えたツールは、1位が「メッセージング」だった。「かなり増えた」が51%、「少し増えた」が31%であり、メッセージングアプリはダントツ1位が国産の「Zalo」で85%(表3)。

同じツールでも「Web・ビデオ会議」は「かなり増えた」が38%、「少し増えた」が28%で、「電話」や「Eメール」より増え方はわずかに少ない。こうしたリモート会議は以前のベトナム企業ではあまり利用されていなかったようだ。

ZoomやSkypeなどでのWeb・ビデオ会議は欧米でよく使われていた。個人の裁量で動く仕事が多い、アウトプットが重視されるなどの理由から、リアルな会議でなくても済ませられた。しかし、アジアの新興国の多くは異なり、ベトナムでも大人数での会議や対面型の営業が珍しくない。新型コロナで増えたのはSkypeが53%、Zoomが33%、Microsoft Teamsが19%だった。

「ZoomはベトナムでのアプリDL数はベスト10にも入りませんでしたが、新型コロナ拡大後の3月は1位をキープ。しかし、4月にセキュリティの懸念が発表されると、代わりにMicrosoft TeamsのDLが急増しました」

「好悪」と「評価」の関係 パフォーマンスは上がるか

「リモートワークが好きか」との質問(表4)には、半分が「好き」と答えている。ベトナム人に相性が良いのかと思いきや、回答者にスタッフクラスが多いことも影響していると黒川氏。業務全体の進捗などではなく、自分の利益を優先させる傾向が強いからだ。

「回答の理由には『家にいるから快適』、『上司がいなくて気楽』、『通勤しなくていい』などがあり、『嫌い』の人でも『家族に邪魔される』などと答えています。上司やマネジャーが多ければ結果は変わっていたでしょう」

仕事のパフォーマンスはどうか(表5)。「下がった」が一番多くて42%。「上がった」には「快適だから」(40%)、「まだ締切りに間に合う」(34%)、「通勤時間の削減」(14%)と「好き」の理由とほぼ同じだが、「下がった」の理由は「集中しにくい」(45%)、「同僚・顧客とのコミュニケーションが難しい」(22%)、「資材が十分でない」(20%)などだ。

「回答は自己判断ですから、上司から見ると評価はもっと低いでしょう。なぜなら、ベトナム人は指示に従って動く人が多く、タイムリーな指示が与えられない中では効率が下がると思うからです」

リモートワークとパフォーマンスの関係を見ると、「リモートワークは好き、パフォーマンスが上がる」と答えた人はITエンジニアに多い。プログラミングなどの作業は場所を選ばず、自宅のほうが集中できるようだ。

「リモートワークは好き、パフォーマンスは下がる」と答えた人は、会計職や30代以上の年配者に多い。会計職は書類のプリントやサインが必要なので、自宅では効率が上がらないのだろう。年配者は会社で顔を合わせての仕事に慣れており、急な変更に成果が出せないようだ。

「リモートワークは嫌い、パフォーマンスが下がる」と答えたのは営業職や若手社員。営業は顧客とのコミュニケーション方法が制約され、仕事を教えてもらう若手は細かな指示がないと動けないのだろう。

勤務時間は自宅に常駐 仕事の成果は出せるか

ベトナムでリモートワークが進むだろうか。例えば、「メンバー全員が揃った会議でもWebで十分」などと気付いても、それが会社に根付くかどうかは別の問題だという。導入には働き方の仕組み作りが欠かせないからで、仕組みやオペレーションの改善が得意な日本ならともかく、ベトナムでは疑問が残るそうだ。

また、ベトナムの労働の考え方。パフォーマンスやアウトプットより、時間に対してお金を払うという見方が強いため、リモートワークで拘束時間はきっちり家にいても、そこでの集中力や効率化は期待できるかどうか。

「書類仕事のバックオフィス職、顧客と会う営業職、グループで動くマーケティング職などは、リモートワークに向かない気がします。国全体でのリモートワークの推進には時間がかかると思います」