世界でベトナムで「MATCHA」ブームが沸騰! 需要は供給を超え、原料の争奪戦も始まっている。老舗の抹茶メーカー、抹茶カフェチェーン、抹茶事業を始めたベトナム食材メーカーは、この空前の市場をどう攻めるのか。
MATCHAの旗手が語る世界事情
抹茶を気軽な「第3の選択肢」へ

世界が抹茶を奪い合う時代
老舗メーカーが直面する危機
愛知県に本社を置く株式会社あいやは、1888年(明治21年)創業の、日本トップクラスのシェアを誇る抹茶メーカーである。同社のビジネスにおいて特筆すべきは事業構造の劇的な変化だ。かつては茶道用が中心であったが、現在は食品加工用抹茶が売上全体の95%を占めている。
「今年は大変特異な年です。オーダーが生産能力を大きく上回っており、既存のお客様への供給を優先するため、新規のお客様は基本的にお断りしています」

昨年から続く世界的な抹茶ブームで、各国の需要が急増。抹茶を含む緑茶の日本の輸出額は2025年に721億円と過去最高を記録し、中でも抹茶をはじめとする粉末茶は全体の約8割を占めた。最大の輸出先は米国で全体の3割以上、台湾、ドイツなどアジアや欧州も主要顧客だ。
現在の抹茶事情をあいやの事業を追いながら見てみたい。
同社は日本国内の需要減や少子化などから「海外市場に成長あり」と定め、1983年に北米への輸出を開始。2001年に米ニューヨークに現地法人を設立すると、ドイツ、オーストリア、中国、タイへと拠点を広げてきた。
その結果、2020年には海外売上が国内売上を初めて上回った。現在、輸出先のメインは米国で、次いで欧州、東南アジアという構成だ。
世界中で通じる「MATCHA」という言葉の普及には、同社の貢献が大きい。2000年代当時は米国で「Powdered green tea」などと呼ばれていたが、ネイティブが正しく発音できるスペルとして「MATCHA」を定め、広めていった。
事業の大きな転換点となったのは約15年前の大手カフェチェーンとの取引開始。これにより「抹茶ラテ」が世界中にインパクトを持って流行した。
「以前は食品メーカー向けのバルク(原料)販売が主でしたが、現在はカフェやレストランなどのフードサービスが世界の需要を支えています」

抹茶を世界の定番飲料へ
日中連携で挑む安定供給
中国においては事業が多少異なり、大規模な生産体制を敷いている。2005年に浙江省に精製・製造工場を設立(現在は上海)、現地で栽培した茶葉を加工し、中国国内の市場で販売している。他国が日本からの輸出なのに対して、中国国内で完結したビジネスとなっている。
「抹茶の年間生産量はおよそ日本で2000t、中国では300t。中国は今秋に工場を増設して500tに増える見込みです」
従来の中国産抹茶は品質や安全性を心配する声も聞かれたが、業界関係者は近年は品質が向上したと口を揃える。あいやでも今後は日本や欧米への本格輸出を進める計画で、世界需要に対応していく。
加えて、日本、中国、韓国が協力して抹茶を作らないと、この需要は支えきれないと危惧する。
「供給が不安定になり、お客様に『物がない』、消費者が『高くて買えない』となれば、抹茶は一過性のブームで終わってしまいます」
コーヒーを飲む時に産地を気にする人が少ないように、杉田氏は抹茶をコーヒーと紅茶に続く「第3の選択肢」として世界に定着させようとしている。抹茶を日常の習慣とするためには、自社のブランドを守りつつ、リーズナブルで持続可能な供給体制の維持が必要となる。

実際、あいやは自社で抹茶を製造しているが、茶葉は愛知県、鹿児島県、京都府、静岡県、三重県などの契約農家から購入している。一部の農家で農地面積は多少増えているものの、戸数自体は増加しておらず、日本の供給には限りがある。
ここで抹茶ができるまでを簡単に説明する。茶の新芽が出始めると、茶園全体に日光を遮る黒い覆いをかけて育て、渋み成分を抑えた茶葉にする。
そして摘採(てきさい)後、加工工場で高温で蒸した後で乾燥させる。これが「荒茶」で、その茎や葉脈を取り除くと「碾茶」(てんちゃ)になる。碾茶を粉砕して数ミクロンの粉末としたのが抹茶だ。
同社の生産現場で圧巻なのは、碾茶を抹茶へ加工する1000台以上の茶臼(石臼)だ。24時間稼働している、伝統的な茶臼挽き製法でつくられた抹茶は、茶道用を始めとしたハイグレードな商品に使われる。

世界需要の次を見据えて
東南アジア市場を深耕する
東南アジア市場への本格進出は、2017年のタイ法人設立から始まる。ここをハブとして周辺国へ供給しており、その量はインドネシア、マレーシア、ベトナムの順に多い。
東南アジアでもカフェやレストランの需要が中心であり、日系菓子メーカーの現地生産用原料としての引き合いも強い。ただ、東南アジアにおいても新たな取引には中々応えられず、「来年の話」となることが多いそうだ。
各国や各地域によって価格が異なるのは、単に輸送費や人件費などが理由ではない。例えば欧州では残留農薬などの規制が厳しいのでどうしても品質が上がり、価格も高くなる。東南アジアは高単価では一般的に難しく、価格に合わせたグレードにするなどだ。
「タイでは輸入量が一定量を超えると約90%という高額な関税が課されるなど、特殊な事情もあります」

取引量が多い大手企業などの場合はカスタム対応となっている。最終製品でどのような色や風味を出したいか、レシピを組み合わせてサンプルを作っていく。ただ、農産物なので毎年同じ原料が確保できるとは限らない。
そこで全国の契約農家から集まる原料を使い分け、組み合わせなどを変えながら、出来上がりの品質を常に一定に保っている。
「昨年から今年で抹茶への世界の常識が劇的に変わりました。急増した需要、原料茶葉の高騰、中国産の台頭……。新しい事業よりも今の需要をいかに定着させるか、安定供給できるかが課題になっています」
抹茶カフェが切り開く新市場
海外57店舗への成長戦略

日本の茶業を盛り上げたい
副業から始まった抹茶ブランド
世界的な抹茶市場が急拡大を続けている。市場分析データによれば、世界の抹茶市場は2025年に約41億7000万USDに達し、2034年には63億5000万USD規模まで成長すると予測。ベトナムの抹茶市場も2025年は3億4000万USD、2030年までに5億~7億8000万USDまで拡大するとの予測だ。
この巨大市場で、日本発の有機抹茶専門ブランドとして存在感を高めているのが、抹茶カフェチェーンの「THE MATCHA TOKYO」だ。
同社の設立は2018年、創業者の長田昌宏氏が会社員の傍ら副業としてスタートした。そのきっかけは静岡県の茶農家を訪れた際のことだった。現場で耳にした「後継者不足」や「投資ができない」という切実な声に、単なる同情ではなくビジネスとしてのポテンシャルを見出した。
「苦労されているお茶農家さんと一緒に現状を変え、共に発展していきたいという思いが、弊社の原点にあります」
差別化の柱としたのが「100%オーガニック」。現在、日本国内で生産される抹茶のうち、有機栽培のものはわずか1~2%だそうだ。そのため有機農家を探して1軒ずつ開拓していった。隣の畑で化学肥料が使われていれば有機認証が受けられないケースなどもあり、厳格な基準をクリアした農家と契約を結んでいる。
事業は当初からカフェ運営を考えており、「本物の抹茶体験」を掲げて2018年11月に表参道に1号店をオープン。当時は「タピオカブーム」の最中で、抹茶ラテや抹茶ソフトクリームは販売していても、専業の抹茶カフェは少なかったという。

運営は順調だったが新型コロナが来て、顧客は極端に減少した。ただ、その中に「自分の国でやってみたい」と希望する外国人がおり、彼らがコロナ明けのパートナーとなっていった。
「当初は国内展開を考えていましたが、海外の方から出店を望む声が多く、行けるかなと始めました」
現在では世界中から毎月100件近いアプローチがあるが、実際に契約に至るのはその一握りだ。
成長を支えるフランチャイズ
品質を守る教育・研修制度
THE MATCHA TOKYOの店舗数は日本6店舗に対し、海外は10ヶ国57店舗と、圧倒的に海外が主導している(取材時:以下同)。海外展開はフランチャイズ方式で、一国一社を基本としている。
「候補の中から絞り込んで、現地へ行ってパートナーさんとしっかりコミュニケーションを取り、信頼できる方とだけ組むようにしています」
海外1号店はフィリピン。現在23店舗とトップに育ち、ショッピングモール内など集客力のある立地を選べるようになっている。2番目に多いのが香港で、その他にグアム、バンコク、上海、ドバイ、アブダビ、ジャカルタ、トロントなどがある。

ブランドの質の担保が生命線のため、海外出店前には現地のメンバーを日本に招き、1~2週間をかけて店舗運営や日本文化などを学んでもらう。さらに、オープン前には日本のトレーナーを現地へ派遣して、1~2週間泊まり込みでスタッフを研修する。
海外店でのメニューやレシピは基本的に日本と同じだが、オリジナルメニューを作りたいとなれば、事前の了解を得て数品が販売される。
「新しいレシピや、現地のフルーツを使ったカラフルな商品などが生まれています。原材料の抹茶は日本から輸出しています」

抹茶ブームの次をつかむ
ベトナムで証明された価値
THE MATCHA TOKYOがアジア4ヶ国目の進出先として選んだのがベトナムだ。ホアンキエム湖から徒歩3分という一等地に「間違いないと即決」して、2026年1月にハノイ旧市街にオープンした。4階建ての大型店舗は、オープン直後から連日長蛇の列ができるほどの反響を呼んだ。

確かにベトナムは抹茶ブームで抹茶カフェも増加中だが、なぜこれほどまでに受け入れられたのか。萬氏は「若者の活気」と「物価感の受容」を挙げる。
来店する多くは若い世代で、それはSNSでの告知への反応の良さからもわかる。彼らはある程度抹茶ラテなどを飲み慣れており、「本物の抹茶」に対する要望が強くあった。
また、同社では出店予定の現地に何度か足を運び、パートナー企業と一緒に競合店なども調査する。各店舗のドリンクを飲み、調査の結果に基づいて、ベトナム人の志向に合わせた商品を発売した。
もう一つは物価感だ。ハノイ店では定番の「抹茶ラテ」が12万VNDと、一般的なカフェより高めの設定だが、それでも本物が飲みたいというニーズがあるととらえていた。日本産の有機抹茶、茶道のパフォーマンスといった体験も、彼らの志向を満足させたようだ。

この成功を受けてベトナムでの出店を拡大する。2026年7月にはハノイの旧市街に2号店、8月にはホーチミン市に3号店、さらにはハノイで4号店のオープンを予定しており、年内にベトナム国内で合計4店舗体制とする計画だ。
全世界においては2030年までに海外100店舗を目指す。そのためには原材料の安定供給が欠かせないが、世界的に碾茶の不足と価格高騰が続いている。
「今年いっぱいの供給分は確保できていますが、2年後、3年後を見すえるとさらなる契約農家の拡大が不可欠です。オーガニックは一朝一夕には作れませんから」
また、今後の展望を「カフェスタイルからライフスタイルへ」と表現する。カフェだけでなく自宅や職場で楽しんでもらえるような商品開発を推進していく。日本の店舗で抹茶ラテに感動した外国人観光客に、母国に帰ってECで抹茶のドリンクやパウダーを注文してもらうなども狙う。

「そのためEC関連を整備していきます。今後も海外が事業の柱になるでしょう」
ベトナム産×静岡技術の融合
ネクスト抹茶を世界に売り出す

故郷の味から始まった挑戦
次なる舞台はベトナム茶業
2015年設立の株式会社フードフォースは、主に在日ベトナム人向けに高品質のベトナム食材を届けている。社長の森氏の妻で現在は専務を務めるダン・マイ・ニー氏がかつて抱いた「故郷の味を日本でも」という思いがきっかけだ。
主力ブランドは「VIETNAMDELI」(ベトナムデリ)。日本品質にこだわったベトナムハムやバインミー、ベトナム冷凍食品を、日本全国のベトナム食材店やレストランなどに卸してきた。
「日本で働くベトナム人の増加に合わせて、ベトナム食材店なども増えてきました。お客様は延べ約2000店舗になります」
そんな同社が新事業として選んだのが「お茶」。その端緒は約3年前、抹茶ブームの前に遡る。ベトナム大使館のビジネス協会を通じて、ベトナム中部のコングロマリット、ドイゼップ(DOI DEP)グループとの縁が生まれた。
同グループはラムドン省バオロク(Bao Loc)に1500ha(東京ドーム約320個分)という広大な茶園を有するが、市場の低迷により茶業の継続に苦慮していた。日本の窓口としての協力を依頼され、2024年4月に覚書を結ぶ。

大きな契機となったのは2025年2月。その2年ほど前からバオロクを訪れていた静岡県の茶業関係者の調査により、1500haのうち300ha規模のエリアに、日本の抹茶原料として優秀な品種が植わっているとわかった。
ここから「宝禄製茶」(ほうろくせいちゃ)のプロジェクトが動き出す。
「宝禄はバオロク(保禄)の読みに、宝を意味する漢越語を重ねた縁起の良い名前です」
バオロクと静岡を結ぶ
日越協業の抹茶プロジェクト
この事業の特徴は、産地の強みと加工の技術を分担する「日越協業モデル」にある。
バオロクで栽培された抹茶の原材料となる茶葉を、蒸して乾燥させて「荒碾茶」の状態にする。一次加工された荒碾茶は日本へと運ばれ、静岡の出番となる。静岡県で日本茶の受託加工を行うパートナー企業2社が、仕上げ、選別、ブレンド、粉砕の工程を担って抹茶を作るのだ。

「2025年末に第1弾として4.5tを輸入し、日本の茶業関係者の目利きで約4tを選別しました」
選んだ4t分を均一にブレンドした。お茶は農産物なので収穫日や畑によって旨味などに差が出るためと、食品メーカーやカフェチェーンは一定の味と品質を求めるからだ。
こうして宝禄製茶が完成したのが2026年2月、同年3月には東京ビッグサイトで開催された「FOODEX JAPAN 2026」に出展して初披露された。販路は日本国内、ベトナム輸出、国際市場の3つを考えていたが、まずは日本中心に販売しようと思ったのだ。
しかし、日本市場の反応は想像以上にシビアだった。未知のベトナム産というだけで産地リスクを感じる人もいたし、安価な中国産との価格競争にもさらされた。一方、大手食品メーカーからは「ノンチャイナが魅力的」や「日本仕上げが安心」など前向きな評価もあった。

碾茶にも抹茶にも賞味期限があることから、森氏の動きは早かった。
「別の販路を探すため、日本での商談を進めながら、4tのうちの3.5tをベトナムに輸出しました」
バオロクは年間を通じて温暖なため、冬を必要とする一番茶ができない。しかしその分、ラテや食品に使いやすいグレードが多く収穫できる。抹茶カフェや抹茶スイーツのブームが続くベトナムでのニーズを感じたのだ。
森氏は2025年7月に、ラムドン省の老舗茶企業であるラドティー(LADOTEA)社のCEOに就任している。そこで同社でココナッツミルクを合わせた抹茶ラテや、ベトナムコーヒーと融合させた抹茶カプチーノなどの3-in-1(インスタント)形式の商品を開発。市場に流通させた。
また、ベトナム国内の主要空港にある免税店などでの導入を商談中で、決定すれば宝禄製茶の商品が徐々に並ぶ。
一方、フードフォースのベトナム法人が抹茶カフェ「MIYAEN」を運営しており、評判がとても良い。ベトナムで加工した抹茶を使用したメニューはもちろん、洗練された店内も好評で、ダラットとバオロクに2店舗がある。年内にはホーチミン市への出店も計画されている。

世界で戦える茶の産地へ
教育と交流が育む新世代
バオロクは元々ウーロン茶や紅茶の産地として有名で、抹茶向けは実は始まったばかり。だからこそ様々な改善の余地がある。今後は日本の農園技術者や研究者が現地でサポートする予定になっており、ドイゼップグループが運営する大学の学生を、静岡県へインターンシップ生として派遣する計画もある。
「バオロクは今でも手摘みが主流なので、機械化などの茶園管理手法を入れれば、効率化や低コスト化が進みます。世界で戦える産地になる」
森氏はバオロクの茶農家から、「お茶は儲からない」、「子どもには継がせたくない」などの声を聞いている。上記の近代化や人材交流には、誇りある茶業を次世代へつなぐ目的もある。

今後の展望として、米国Amazonへの進出も視野に入れている。静岡県のパートナー企業がFDA(米国食品医薬品局)の認証を得ている強みを活かし、日本とベトナムから商品を輸出できる。米大手小売店のコストコやウォルマートでの販売も目指している。
オーストラリア、インド、東南アジアからの引合いもあるそうで、今年後半は国際市場に向けて動くようだ。
「宝禄製茶を案内してまだ3ヶ月。市場の反応を見ながら、販路を見極めている段階です。将来が本当に楽しみです」
一般的に、抹茶の旨味成分を示す「全窒素」は、日本の秋の茶で4%に満たないこともあるが、バオロクの品種は4%を超え、最新の分析値では5.5%も出ている。高級抹茶とは用途や価格帯が異なるが、ラテや製菓用では十分な競争力があり、栽培改善でさらに品質を高められる。

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取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。