ベトナム南部で、雨季にもかかわらず降雨量が少なく、暑さが続く異例の天候となっている。気象当局は、2026年の雨季が平年より10~20日早く終了する可能性があると予測している。
背景には、今後さらに勢力を強めるとみられる強いエルニーニョ現象がある。2026年末から2027年にかけては、渇水や水不足に加え、メコンデルタでの塩水侵入が深刻化する可能性も指摘されている。
雨季なのに雨が少ない異例の天候
ベトナム南部では通常、5月中旬ごろから雨季が始まる。しかし2026年は6月に入っても降雨が少なく、「いつ雨季に入るのか」と住民同士が話すほど、晴天と暑さが続いた。
この傾向は6月、7月も続いた。
気象専門家のレ・ティ・スアン・ラン氏によると、8月中旬までに南部では雨季の途中で降雨が減少し、暑さが強まる少雨期が3回発生した。
通常、この現象は8月に見られることが多い。しかし2026年は6月と7月にも発生しており、9月にも再び発生する可能性があるという。
エルニーニョで気温上昇、降雨量は減少
南部気象台によると、過去2カ月間、エルニーニョの影響で南部の平均気温が上昇し、雨季としては珍しい厳しい暑さの日も確認された。
6月の平均気温は平年を0.9~1.7℃上回り、タンソンホアでは最高気温37℃を記録した。7月も平均気温が平年を0.6~1.3℃上回り、ドンナイ省ビエンホアでは月間最高気温36.3℃を記録した。
一方、月間降水量は平年並みから平年を下回る地域が多く、地域による降雨量の偏りも目立っている。
ホーチミン市周辺でも降雨不足が顕著で、6月にはコンダオで平年を196.6ミリ下回ったほか、7月にはベンカットで約105ミリの不足が生じた。
その一方、バリアでは7月の降水量が257.2ミリに達し、平年を79.4ミリ上回るなど、地域によって降雨状況には大きな差が出ている。
雨季は平年より10~20日早く終了する可能性
南部気象台の季節予報では、エルニーニョは今後さらに強まり、2026年11月ごろにピークを迎える可能性があるとされる。
今回のエルニーニョは、2015~2016年に発生した過去の強いエルニーニョを上回る可能性も指摘されている。
今後3カ月間の総降水量は、平年を30~100ミリ、約10%下回る見通しである。
10月末ごろから南西モンスーンが北東モンスーンへ徐々に移行し、南部の雨季は11月第1週から第2週ごろに終了すると予測されている。これは平年より10~20日早い。
9月は雨の日が16~23日程度となる見込みだが、10月には14~21日に減少し、11月には10~17日程度まで減ると予測されている。
雨季の後に深刻な渇水と塩水侵入の懸念
問題は、雨季の降雨量が少ないことだけではない。
エルニーニョは2027年初頭まで続き、場合によっては2027年半ばまで影響が残る可能性がある。その場合、雨季が早く終わることで河川や貯水池、土壌などに蓄えられる水量が不足し、2026~2027年の乾季が例年以上に厳しく、長期化する可能性がある。
さらに2027年の雨季も遅れる可能性があり、南部と中部高原では2つの雨季の間に長期間の水不足に見舞われる懸念がある。
特に影響が大きいとみられるのが、ベトナム有数の農業生産地域であるメコンデルタである。同地域ではコメ、エビ、魚、果物などに加え、コーヒーやコショウなど、輸出額が数百億USD規模に上る農産物が生産されている。
中部高原では主に水不足による干ばつが懸念される一方、メコンデルタでは干ばつと塩水侵入が同時に進む可能性がある。
メコン川上流からの水量も大幅に減少
メコンデルタにとってさらに懸念されるのが、メコン川上流から流れ込む水量の減少である。
南部水利計画研究所(SIWRP)によると、2026年6月1日から8月13日までのメコン川上流域では、カンボジア・クラティエ地点の総水量が約884億5,000万立方メートルとなった。
これは1961~2025年の平年値を約174億6,000万立方メートル、率にして16%下回る。
さらにトンレサップ湖の水量は約106億立方メートルにとどまり、1996~2025年の同時期の平均である205億9,000万立方メートルの約半分となっている。
トンレサップ湖はメコン川下流域に水を供給する重要な自然の貯水池であり、その水量減少は今後の水資源に大きな影響を及ぼす可能性がある。
2027年には塩水が河川上流まで侵入か
メコンデルタ上流部では、8月12日時点のタンチャウ観測所の水位が2.41メートルで、平年を0.32メートル下回った。ハウ川のチャウドック観測所でも2.25メートルと、平年より0.06メートル低い。
南部気象台は、メコンデルタの本格的な洪水期のピークが10月になるものの、タンチャウとチャウドックでは警戒水位1を下回る可能性があると予測している。
上流からの水量が少ない一方、乾季には塩水侵入が早期に始まる可能性がある。2027年2月初めから塩水侵入が始まり、4~5月の大潮期にピークを迎える可能性があるという。
4‰の塩分濃度を示す塩水の侵入範囲は、河川によって最大で90~125キロに達する可能性がある。
農業への影響、コメや果樹にも
水不足と塩水侵入が深刻化すれば、農業への影響は大きい。
メコンデルタでは、年間最大のコメ作である冬春作の時期と乾季が重なる。最悪のシナリオでは、約35万ヘクタールの冬春作の稲作が影響を受ける可能性がある。
果樹では、特にドリアンへの影響が懸念される。ドリアンは塩分に弱く、2024年の強いエルニーニョの際には、メコンデルタや南東部、中部高原で水不足が発生した。
当時、一部の農家では水分の消耗を抑えるため果実や枝を間引き、樹木を次の収穫期まで維持する対応を迫られた。メコンデルタでは塩害によって樹木が枯れたり、その後の収量が低下した農園もあった。
生活用水の確保も重要な課題に
専門家が特に警戒しているのは、農業用水だけではない。
南東部では、雨季にもかかわらず一部の水力発電・灌漑用貯水池の水位が低下し、生活用水の確保が厳しくなる地域も出ている。
今後、エルニーニョがピークを迎えれば、農業や工業だけでなく、住民の生活用水そのものが大きな課題になる可能性がある。
さらに、メコン川の水量減少にはエルニーニョによる暑さや少雨だけでなく、上流の水力発電ダムによる貯水も影響していると指摘されている。
タイの観測データでは、7月の自然流量が通常より36%減少した。専門家は乾季に入れば状況がさらに厳しくなる可能性があると警告している。
対策の準備期間は残り少ない
専門家は、今後の水不足に備える時間は限られていると指摘する。
南部の雨季はまだ2カ月以上続く見込みだが、降雨量が期待できるのは主に9月までで、10月以降は急速に減少する可能性がある。
そのため、今後1カ月余りが水を確保するための重要な準備期間となる。
2015~2016年の強いエルニーニョでは、メコン川上流からメコンデルタへ流れ込む水量が平年より25~30%減少し、塩分濃度4‰の塩水が一部の河川で60~73キロ上流まで侵入した。メコンデルタ13省・市のうち10省・市が干ばつ・塩水侵入による自然災害の状況を宣言した。
こうした過去の経験を踏まえ、住民や自治体には早期の対策が求められている。
水の備蓄と農業の対応を急ぐ
専門家は、対策の最優先事項として住民の生活用水を挙げ、その次に農業などの生産活動に必要な水を確保するよう呼びかけている。
住民には、利用可能な設備や容器を使って生活用水を確保し、節水を心がけることが求められる。
農業では、作付け時期を調整して干ばつや塩水侵入を避けるほか、短期栽培品種や耐乾性・耐塩性の品種を活用することが対策となる。
果樹農家には、池や用水路を浚渫して貯水能力を高めることや、土壌の保水力を高める技術、乾季のピーク時に枝を減らして蒸発による水分損失を抑える対策などが推奨されている。
自治体には、灌漑施設や堰などの点検・修繕、塩水の侵入を防ぎ淡水を確保する施設の整備が求められている。
「雨が少ない」だけではない異常気象に警戒
南部気象台のチャン・バン・フン副所長は、南部では2026年末から乾季に入り、雨の減少と強い日差しが早期に現れることで、水不足や干ばつ、メコンデルタでの塩水侵入のリスクが高まると指摘する。
一方で、降雨量が減少する中でも、短時間に非常に強い雷雨が発生し、竜巻や落雷、突風を伴う可能性がある。
つまり、今後の南部では単純に「雨が少なくなる」だけではなく、降るときには短時間に集中豪雨となる一方、雨季全体では水不足が進むという、より不安定な気象パターンへの警戒が必要となる。
2026年末から2027年にかけて強いエルニーニョの影響が続けば、ベトナム南部は水不足と塩水侵入という二重のリスクに直面する可能性がある。
今後は気象情報を継続的に確認しながら、水資源をどれだけ早期に確保し、限られた水を効率的に利用できるかが重要となる。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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