ホーチミン市ビンタン街区に、1食1,000~5,000VND(約6~30円)という超低価格で食事を提供する食堂がある。
「ビンタン思いやり食堂」である。
低所得者や高齢者、障害者、宝くじ販売員などを対象にした食堂だが、完全無料ではない。あえて料金を設定していることに、この食堂の特徴がある。
1,000~5,000VNDに込めた意味
この食堂は2026年7月1日、ビンタン街区人民委員会と同区赤十字の協力によって開設された。
毎週月曜日から金曜日まで営業し、1日約150食を用意している。
料金は1食1,000~5,000VND。一般的な食事の価格と比べればほぼ無料に近い金額である。
しかし、運営側が完全無料にしなかったのには理由がある。
ビンタン街区赤十字のグエン・クイン・トゥ・クエン副会長は、来店者を「支援を受ける人」ではなく、あくまで一人の客として丁寧に接したいと説明する。
料金を支払ってもらうことで、利用者自身が自分の食事を選び、自分で料金を支払っているという感覚を持てるようにする狙いがある。
つまり、1,000~5,000VNDという金額は食事そのものの価値を表しているのではなく、利用者の尊厳を守るための仕組みなのである。
低所得者の暮らしを支える昼食
午前10時ごろになると、食堂には客が集まり始める。
この日も赤十字の会員らが150食の弁当を並べ、来店者を迎えた。
71歳のマイ・バン・トゥさんは、宝くじを販売しながら生活している。古いバイクで食堂を訪れ、昼食を取るのが日課になっているという。
トゥさんは、初めてこの店を訪れた際に肉や魚が十分に入った食事を見て驚いたと話す。
妻と小さな借家で暮らしているが、最近は宝くじの売れ行きが悪く、妻も体調を崩しがちだ。毎月の家賃は約300万VNDに上る。
数千VNDで食事を済ませられることで、毎日の食費を数万VND節約でき、その分を家賃や妻の薬代に充てられるという。
自分と家族の2食を持ち帰る高齢者も
64歳のチュ・ディン・ズーさんも常連客の一人である。
脳卒中の後遺症で足が不自由になり、手にも震えが残っている。それでも毎回、約20分かけて自転車で食堂まで通う。
ズーさんは毎回2食を購入する。
1食は自分で食べ、もう1食は同じく脳卒中を患い、寝たきりになっている75歳の兄のために持ち帰る。
「ここはご飯もしっかり入っていて、お腹いっぱいになる。兄弟2人でこういう食事ができるだけで嬉しい」と話す。
82歳のゴ・ミン・フオックさんも、毎回2食を購入している。
1食は自分で食べ、もう1食は脳卒中の後遺症で歩くことが難しい78歳の妻のために持ち帰る。
孫と一緒に通う男性も
64歳のファム・カック・タオさんは、約半月前から8歳の孫娘を連れて食堂を訪れている。
「量もしっかりしていて、清潔なのに値段も安い。数千VNDで祖父と孫が腹いっぱい食べられるのは嬉しく、心が温かくなる」と話す。
孫娘も食事を気に入っており、煮魚をご飯と一緒に食べるのが一番好きだと話した。
食堂は単に低価格で食事を提供する場所ではなく、生活に余裕のない人たちが安心して食事を取れる地域の拠点となっている。
食堂を支えるボランティア
食堂を運営しているのは、ビンタン街区赤十字の会員やボランティアである。
朝早くから集まり、掃除やテーブルの準備、食事の配膳、飲み物の用意などを行う。
67歳のグエン・ティ・ズーさんも、その中心となって活動している一人だ。
食事を配りながら利用者に声をかけ、「皆さんがおいしく食べて、楽しそうにしているのを見ると、自分も嬉しくなる」と話す。
ズーさんはこの食堂だけでなく、ほかの慈善食堂でも活動している。
「慈善活動をしていると若返ったように感じる。食事を受け取った人に抱きしめてもらうこともあり、その日は一日中嬉しい」と語る。
また、54歳のドアン・クイン・アインさんも、テーブルを拭いたり箸やスプーンを並べたりしながら運営を支えている。
以前は自ら料理を作って困窮者に提供していたが、現在は以前のように料理ができない。それでも、自分にできる形で支援を続けている。
「お金で助ける余裕がなければ、労力を提供すればいい。皆さんがお腹いっぱいになり、心が温かくなれば、それだけで嬉しい」と話す。
支払われた料金も食堂の運営に活用
食堂の運営費は、地域の篤志家からの寄付によって賄われている。
利用者が支払った1,000~5,000VNDも寄付箱に入れられ、食堂の運営費の一部として活用される。
基本的には店内で食事をしてもらう形式だが、高齢者や障害者など、来店が難しい人については持ち帰りにも柔軟に対応している。
対象となるのは、低所得の労働者、障害者、高齢者、宝くじ販売員、経済的に困難な学生などである。
運営側は今後、モデルが順調に定着すれば、ビンタン街区内に同様の食堂をさらに開設することも検討している。
「無料」ではなく「自分で払う」という仕組み
この食堂の特徴は、食事を無料で配るのではなく、あえて1,000~5,000VNDという小さな金額を設定している点にある。
数千ドンの支払いには経済的な意味はほとんどない。しかし、「施しを受ける」のではなく「自分で食事を買う」という感覚を利用者に持ってもらうという意味では、大きな役割を果たしている。
食事を提供する側と利用する側を明確に分けるのではなく、同じ地域で暮らす人同士として支え合う。
「思いやり食堂」という名前が示すように、この食堂は安い食事を提供するだけでなく、食事を通じて人と人とのつながりを作る場所になっている。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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