ベトナムでは、AI(人工知能)やクラウドサービスの普及を背景に、データセンターへの大型投資が相次いでいる。海外資本の流入も進み、同国はデジタルインフラの新たな投資先として注目を集めている。一方、データセンターは大量の電力を継続的に消費するため、電力料金をどのように設定するかが課題となっている。投資を促進しながら、電力供給への負荷やエネルギー資源の安売りを避ける仕組みづくりが求められている。
ホーチミン市で大型データセンター投資が相次ぐ
2026年10月13日、ベトナムのテクノロジー企業CMCグループと韓国のLOTTE Innovateは、情報技術、デジタルトランスフォーメーション、グリーンインフラ分野での戦略的協力協定を締結した。
両社は、データセンター、電気自動車(EV)の充電インフラ、セキュリティ、オフショア開発、クラウドコンピューティングの5分野を重点的な協力領域に設定した。データセンター分野では、CMCのインフラ整備・運用能力と、LOTTE Innovateが持つ技術や顧客基盤を組み合わせ、ベトナム国内での事業開発を目指す。大規模なハイパースケール型データセンターへの参入も検討する。
ベトナムでは2026年に入り、特にホーチミン市でAI向けデータセンターを中心とする大型投資計画が相次いでいる。
2026年7月には、ホーチミン市クチ地区のタンフーチュン工業団地で「AI Factory」データセンタープロジェクトに投資登録証明書が交付された。登録投資額は21億USDで、IT負荷容量200MW、10万基のGPUを稼働させる能力を備えた、地域有数のAIデータセンター施設を目指す。事業には、キンバック都市開発総公社、Accelerated Infrastructure Capital、ベトインバンク(VietinBank)が参画している。
同年4月末には、ホーチミン市当局が総額約9億9,000万USDに上る2件のデータセンタープロジェクトに投資証明書を交付した。
- Starmasonデータセンター複合施設:投資額4億8,026万USD。シンガポールのSembcorp Developmentが関与し、IT負荷容量60MWの大規模施設を計画する。AIやクラウド向けのインフラ需要に対応する。
- Evolution DC VN HCMC:シンガポールのEvolution、Hathor、Frontierの3社連合による投資。投資額は5億878万USDで、IT負荷容量52MWを計画する。Uptime Tier III+の技術基準を採用し、Tier IVも視野に入れる。
さらに年初には、アラブ首長国連邦(UAE)のG42、FPTグループ、Viet Thaiグループが、10億USD規模の超大規模AIデータセンター計画に関する枠組み合意を提案した。
ホーチミン市には現在、データセンターが20カ所あり、9件のプロジェクトが提案段階にあるという。
市場規模は2031年に約3倍へ拡大する見通し
Cushman & Wakefieldの最新レポートによると、2026年上半期にはベトナムのデジタルインフラに対する国際資本の投資が大幅に増加した。超大規模データセンターの運営事業者やクラウド、AI関連企業からの関心も高まっている。
ベトナムではこれまで、Viettel、VNPT、FPT、VNG、CMCなどの企業がデータセンターを整備してきた。施設は主にハノイとホーチミン市に集中している。
商用データセンターは全国で41カ所に上り、設計上の総容量は221MWと推計される。調査会社Arizton Advisory & Intelligenceによると、ベトナムのデータセンター市場規模は2025年に約10億4,000万USDに達した。2031年には31億9,000万USDに拡大する見込みで、予測期間の年平均成長率は20.47%とされる。
市場拡大の背景には、デジタルサービスの利用拡大、インターネット通信量やデータ量の増加、デジタル経済の成長、政府の関連施策などがある。モバイル端末やソーシャルメディアの利用者増加も、データ処理需要を押し上げている。
データセンターはAI、クラウド、電子商取引、デジタル金融などを支える基盤である。関連投資の拡大は、従来型とは異なる新たな外国直接投資(FDI)の誘致につながり、ベトナムのデジタルインフラ整備や高成長目標を後押しする可能性がある。
ただし、施設の拡大に伴う電力需要の増加は、ベトナムの電力産業にとって大きな課題となる。
生産用か事業用か、電力料金の分類が焦点に
現在、問題となっているのが、データセンターに適用する電力料金の区分である。ViettelやCMCの一部施設について、電力料金を「生産用」と「事業用」のどちらで計算するかを巡り議論が起きている。問題は商工省、ベトナム電力公社(EVN)、ホーチミン市人民委員会にも報告され、対応が検討されている。
ベトナム電力誌の科学評議会に所属するエネルギー専門家グエン・フイ・ホア氏は、データセンターの電力料金を単に生産用か事業用かに分類するだけでは、問題を十分に解決できないと指摘する。
料金は、電力の利用目的や負荷の特性に加え、電力供給システム側が負担するコストを踏まえて設定すべきだという。データセンターだからといって自動的に優遇対象とするべきではない一方、一般的な事業用料金より高い料金を適用する場合にも、明確な根拠が必要である。
特に問題なのは、実際の事業内容や電力利用の特性が似ている施設でも、規定の解釈や運用の違いによって異なる料金が適用される可能性があることだ。ホア氏は、まず全国で分類基準と現行規定の適用方法を統一し、投資家が電力コストを予測できる環境を整える必要があると述べる。
また、自社の内部業務に電力を使うだけでなく、外部企業にサービスを提供するデータセンターについて、どのように区分するのかも明確化すべきだとしている。
EVNや各電力会社の役割分担も課題である。規定の解釈が分かれた場合、各電力会社が独自に判断するのではなく、政府の所管機関が説明と統一的な運用を主導する必要がある。
電力料金の優遇だけでは投資環境は整わない
国際貿易・経済研究所のグエン・トゥオン・ラン准教授は、データセンターの整備は科学技術、イノベーション、国家のデジタルトランスフォーメーションを推進する重要な方向性の一つだと指摘する。ベトナム共産党中央委員会の決議57号も、科学技術やイノベーションなどの推進を重視している。
しかし、投資を促進するには、企業の成長を支援しながら、市場原則とエネルギー安全保障を両立する透明な政策が必要である。
データセンターは大量の電力を消費するものの、主な収益源はサーバーやインフラの貸し出し、データの保存・処理サービスなどである。電力を大量に使用して技術設備を稼働させているという理由だけで、生産用の電力料金を適用できるとは限らない。現行法令に照らして、事業の実態を踏まえた判断が求められる。
ラン准教授は、商工省が投資家や地方当局、関係者との対話を早急に進め、適切な優遇措置の水準を検討したうえで、正式な指針を示すべきだと述べる。解釈が統一されないままでは、企業が電気料金の支払いを巡って問題を抱え、投資や運営に支障が生じるおそれがあるためだ。
同時に、料金制度だけでなく、データセンターの開発計画と電力供給計画を一体的に進めることも重要である。電力供給に制約があるなか、料金を引き下げることだけに注目しても、必要な電力を安定して確保できなければ投資は成立しない。
長期的には容量料金と電力量料金の組み合わせも選択肢
ホア氏は将来的な制度設計として、データセンターの電力利用の特性に合わせ、契約容量に応じた「容量料金」と、実際の使用量に応じた「電力量料金」を組み合わせる二部料金制の検討を提案する。
制度を設計する際には、電力負荷の規模、利用時間、供給の信頼性に対する要求、需要を調整できる可能性などを考慮する必要がある。また、データセンターの立地や規模を、発電設備や送配電網の整備計画と連動させることも欠かせない。
ただし、データセンター専用の料金表を直ちに新設する必要があるとは限らない。まずは規定を明確にし、全国で一貫した運用を確立するとともに、電力供給コストを適切に反映し、効率的な電力利用を促す仕組みを整えることが重要だという。
AI向けデータセンターは、電力需要が大きいうえに24時間の連続運転を前提とし、高い供給信頼性を必要とする。そのため、料金だけでなく、必要な場所と時間に十分な電力を供給できる能力が、投資を左右する基礎条件となる。
一方、投資家側にも対応が求められる。電力供給能力を踏まえて立地、設備容量、増設時期を選定するほか、自家発電設備や蓄電システムの導入、電力需要の調整なども検討する必要がある。こうした取り組みは、料金制度や電力契約の設計にも反映されるべきだとホア氏は述べている。
事業の種類より電力の使い方に応じた料金制度へ
経済専門家のディン・トゥアン・ミン氏は、電力の利用目的を「自社で使う生産用」と「他社に提供するサービス用」に分ける従来の考え方には、限界があると指摘する。
大型商業施設でも製造企業に匹敵するほど電力を消費する場合があるうえ、製造とサービスを組み合わせた事業モデルも増えている。今後、新しいビジネスモデルが登場するたびに同様の料金問題が生じる可能性もある。
そのため、業種による分類だけでなく、電力の供給・利用条件を基準とする料金制度が望ましいという。具体的には、次のような要素が挙げられる。
- 使用時間帯:需要が集中するピーク時間帯と、それ以外の時間帯を区別する。
- 電力使用量:一定の基準を設け、使用規模に応じた料金を設定する。
- 電圧区分:中圧・低圧など、供給電圧の違いを考慮する。
- 供給コスト:電源からの距離や送配電にかかるコストを料金に反映する。
こうした制度であれば、業種名だけで料金を決めるのではなく、電力供給に伴う実際のコストや利用実態をより反映できる可能性がある。
ラン准教授も、データセンターへの投資を促すのであれば、土地や電力料金などの優遇措置を具体的に設計する必要があるとする。例えば、投資家が電力料金の優遇と土地関連の優遇から選択できる仕組みを設け、一方で複数の優遇措置が過度に重複しないようにする方法も考えられる。これにより、政府と企業の利益の均衡を図りながら、実効性のある投資促進策を目指すことができる。
電源の多様化とデータセンターの立地計画が鍵に
電力供給への負荷を抑えるため、データセンター自身が電源を確保する取り組みも選択肢となる。太陽光、風力、廃棄物発電などの活用に加え、条件が整えば小型原子炉を含む新たな電源モデルの研究も考えられる。供給源を多様化できれば、国全体の電力システムへの負担を軽減し、個々のプロジェクトのエネルギー自立性を高めることにつながる。
ただし、電力供給に制約がある状況で、投資誘致のためだけに低料金を維持することには限界がある。電力料金、投資優遇策、安定供給のための設備計画を組み合わせ、実情に即した段階的な整備を進める必要がある。
ベトナムのデータセンター市場には、AIやクラウド需要の拡大を背景とした成長余地がある。一方で、投資の拡大を持続的な成長につなげるには、料金の安さだけでなく、制度の透明性と予見可能性、そして必要な電力を安定して確保できるインフラが不可欠となる。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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