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ベトナムビジネス特集Vol138
新型コロナ禍の採用 企業と人はどう動いたか

昨年の新型コロナ発生以降、多くの企業は事業や活動を制限され、採用も滞っている。というのが一般的な見方だろうが、実情は異なる。感染初期から現在、そしてこの先へ、企業と求職者の動向を探った。

Navigos Group Vietnam
代表取締役 CEO 越前谷学氏

昨年は新型コロナ前と同水準
今年はITや金融で求人増

 国内最大級の求人サイト「VietnamWorks」と人材紹介「Navigos search」を運営するナビゴスグループ。主に前者はホワイトカラーのスタッフやアシスタント、後者はマネジャークラスや管理職などを対象としている。

 VietnamWorksには波はあっても常時1万件ほどの求人件数があり、毎年テト明けがピークになるという。昨年も同様に伸びたものの、社会的隔離のあった4月に一気に下がった。

「ベトナム全体の求人数が半減したと思います。多くの企業が採用を取りやめたからです」

 しかし5月になると徐々に求人数は回復し始め、横ばいが続いた。そして今年2月のテト明けには再び上昇して新型コロナ前、2019年の水準に追い付くが、4月末からの第4波以降は再び急落。昨年の4月ほど悪くはないものの、以降は下降線が続いているそうだ。

「ロックダウンでオフィスが閉鎖されており、どこも採用を一旦見合わせています。リプレースの求人はあっても、新規採用は止まっていますね」

 その中でも採用意欲の高い業界はあり、筆頭はITだ。2019年との比較でも求人件数は13%上昇しており、人材不足が続いている。また、金融業界は2019年比36%の上昇で、銀行は営業職、保険は営業や販売ブローカー、証券は口座開設担当などの求人が多い。保険業界は新型コロナで加入者が増加しており、証券会社は株式投資が活況と、背景には市場拡大がある。

 逆に回復が遅れているのが観光、宿泊、旅行業。求人件数はで2019年比で73%のダウン。同じ比較で教育業が45%減。オフラインの教室は閉鎖を余儀なくされ、オンラインへの移行も簡単ではなく、採用を控えているようだ。

 製造業の求人は去年から横ばいが続いて、2019年比で20%減だが、今年1~6月の求人件数はかなり多かった。目立った業界としては家具、段ボール、プラスチック関連のメーカーやサプライヤー。巣ごもり需要からの家具、配送用の梱包材や容器類の発注が増加したようだ。

 それが7月から南部で始まった「3つの現場」などの操業規制で、一気に止まってしまう。

「操業規制のなかった北部は堅調でしたが、8月から落ちてきました。製造業は昨年から新規投資が落ち込んだため、そもそも従来のようには伸びていません」

ベトナム大手が採用意欲
外資系は日系以外が堅調

 応募者側の動向を見てみよう。昨年は求人数が減る一方で、社会的隔離の後は転職意欲が高まって、応募者数が大幅に増えた。求人1件当たりの応募者数は増加して、一気に買い手市場になった。しかし現在(取材時)は、求人数が減ると同時に、応募者数も昨年から3割程度減っている。

「ロックダウンで多くのベトナム人が転職に慎重になっているのでしょう。業種や職種によって、買い手市場と売り手市場は大きく分かれています」

 圧倒的に売り手市場なのはIT業界で、ここだけが違った動きを見せているという。未経験者からの応募も多く、職種変更希望が一番多い業界であることも特徴だ。

「転職のためにプログラミングのスクールに通う人も多くいます。月謝が500USDの学校も珍しくないので、親が援助することもあるようです」

 ベトナム企業と外資系企業を分ければ、まずベトナム企業の採用では明暗がはっきり分かれた。100億円単位の投資を続ける大規模な企業は高給での採用を続けており、中小企業は採用をほぼストップ。大手企業の給与額は日系企業より3割程度多いケースもあり、新型コロナ禍をチャンスととらえて人材を引き抜いていく。

 外資系企業は欧米、東南アジア、中華系などは求人数が一時期落ちたものの、今年の1~5月は復活していた。ただ、日系企業が落ち込んでいる。

 理由の一つは多くの外国企業の年度が1月から始まるのに対して、日本企業は4月からであること。年度の終盤は採用が少なくなり、逆に年初は多くなるのが一般的だ。もうひとつは日本本社の意向。感染蔓延が落ち着くまでは、固定費となる正社員の採用を保留しているようだという。

「日系以外の外資系企業は、今採用すれば将来の先手が打てると考えているのでしょう。国ごとの考え方の差もありますが、新型コロナで多くの外資系企業が社員を解雇する中、日系企業は雇い続けたという背景もあります」

製造業の求人は確実に上昇
医薬、医療機器、ITも増加

 ロックダウン後の企業の採用について越前谷氏は、「製造業が伸びる」と語る。新型コロナ前から顕著だった中国からの工場移転が復活すれば新規求人が必要になるし、操業規制で減少した生産量を元に戻すための採用もありそうだ。

「製造業の求人は確実に戻ります。10月からオフィス系の求人が再開して、その次の段階、来年から本格的になると思います」

 加えて、医薬や医療機器などの業界も求人が増えそうだ。今後は内需が高まりそうだし、以前から外資系企業の投資も増えている。市場が拡大するのは確実だ。

 IT業界は堅調に続きそうだが、上流工程の人材採用が増えていくとみている。ベトナムではオフショアと呼ばれる海外からの受託開発が中心で、顧客からのヒアリング、システムの全体設計、要件定義などは上流工程と呼ばれ、本国で行うことが多い。ベトナムではそれに従ってコードを書くプログラミングが主な業務になっている。

「上流から現地に任せたいというニーズは既に出ており、今後も広がると思います。IT業界の採用意欲は当分衰えないでしょう」

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ICONIC
General Manager 蘭 裕雄氏

一時帰国と日本人削減の影響
マネジャーがローカライズへ

 2008年にベトナムで創業したICONIC。様々な日系企業を顧客に持つ同社に、新型コロナ禍の日系企業の採用を尋ねた。

 昨年の日系企業の求人件数は、社会的隔離のあった4月は落ち込んだものの、月単位でも年単位でも2019年とほぼ同じ水準。これはベトナム人求人も日本人求人も同様だ。

「もう少し詳しく言えば、昨年上半期の求人件数は2019年より減りましたが、下半期は逆に増えました」

 昨年で一番伸びたのは、ベトナム人も日本人もIT企業の求人。2019年から加速度的に増えており、2019年の1.5倍程度となった。オフショア企業も独自の開発企業も同様で、職種は開発職だけでなく、デザイン、ホームページ制作など幅広い。ベトナム人であればプログラマや通訳を兼ねるブリッジSE、日本人はプロジェクトマネジャーなどの管理職が多い。

 大手企業を中心に求人が堅調だったのが製造業、商社、建設など。製造業の職種はベトナム人なら品質管理、生産管理、購買担当などで、日本人は工場長などの管理職。また、取引先や調達先をベトナム企業や外資系企業に拡大する企業が多くなり、中国語・韓国語話者のベトナム人を求めるなどの案件も増えた。

 建設業界は昨年前から求人のボリュームが大きく、ベトナム人は積算、品質保証、バックオフィスなど、日本人は建築施工管理や電気設備工事などの即戦力が多い。

「小売業界も求人が増えて、ベトナム人のフロアマネジャーやスーパーバイザーなどを求める企業が多くありました。一方、求人が減少したのは観光、宿泊、サービス業などで、日本語講師も減りました」

 昨年は日系企業のベトナム人の募集で、特徴的な動きがあったという。上半期の第1波後に一時帰国する駐在員が増えたこと、本社側で日本人削減の意向が強まったことから、人事系を中心にマネジャーをベトナム人に変える企業が増えたそうだ。

 そのため採用の仕方がローカライズされ、ベトナム人向けの求人案件が変化している。これは今年になっても進んでいるという。

「ベトナム人の求人のうち、企業の日本人担当者と弊社の日本人がやり取りする案件が減り、ベトナム人同士の案件が約半分にまで増えています。今後に注目したいです」

今年6月からは求人が減少
日本人の課題は改正労働法

 今年の上半期は昨年の下半期と近い動きで、求人の総数も、テト明けに一気に採用が増える傾向も変わらなかった。しかし、6月には北部の製造業からの求人が減り、7月は南部でも同じことが起きた。ベトナム人も日本人も同様で、昨年より40%ほど下がったという。

「製造業が最も減っていますが、ほかの業種も同様です。製造業は工場の操業規制の影響が大きいです」

 それでも強いのはIT業界。自宅勤務を可能とする企業や、数は少ないが日本在住の日本人に対し、渡航前から遠隔での就業を一時的に認める企業もあるという。また、一部の商社や製造業では、ベトナム人求人を中心に採用を継続している。

 日本人採用では労働法改正が新たな課題だ。昨年はベトナムで就業したい日本在住者は減っておらず、オンライン面談で内定を得ていた。しかし、渡航制限が影響して半年後や今年に入って入国できた人もいた。そのため、対象をベトナム在住者に切り替える企業が増えたそうだ。

 しかし、今年1月の労働法改正から労働許可証の取得が難しくなり、これは日越のどちらの在住でも変わらない。そのため、取得要件である職務経験や卒業学部を重視する企業が多くなっているという。

「入国を1年近く待っている方や内定を辞退した方もいて、日本人の求人数も徐々に減っています」

 日本人の応募者については、日本在住者は渡航希望時期を来年以降にするなど、今年6月以降はアクティブな求職者がかなり減っているそうだ。逆にベトナム在住者の応募は増加傾向にあり、現職の将来性を不安視する人もいるという。

今後は製造業が求人増へ
ベトナム人はハイクラス採用

 今後はロックダウンの緩和きっかけに、製造業のベトナム人求人が戻ってくるとみている。現在は操業規制で生産規模が制限されており、これを元に戻すためには人が必要となるからだ。一定期間休んでいる人が復職するとは限らないので、その分がプラスされる可能性もあるという。

 また、第4波以降は一時帰国者や本帰国者が今まで以上に増えており、上記のマネジャークラスのローカライズが進む。ただし、うまく機能しない場合もあるので、その場合は現地採用での日本人採用が増えると考えている。

「例えば駐在員3人のうち2人をベトナムに戻して、不足する人材をベトナム人にするなどです。そして、日本人を現地採用する場合には、やはり労働許可証を取得しやすい人が対象となるでしょう。ただし、これは短期的な予想で、中長期的にはベトナム人の求人が増えてくるのではないかと思います」

 マネジャーなどハイクラスの募集では、日本人の現地在住者でも適性が限られる。ベトナム人であればマネジメント経験と共に英語や日本語の語学力が必要で、月給2000USDを超えるような人材となる。採用はシニアマネジャークラスまで広がるという。

「現在も同じ案件はありますが、一層増えると思います。日系企業同士のみならず外資系も競合となるため、給与相場に差が出てしまう可能性がありますが、日本企業の魅力を発揮していただきたいです」

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JAC Recruitment Vietnam
General Director Ms. Le Thuy Dieu Uyen

新型コロナに戸惑い求人減
昨年はM&Aや再生エネが特徴

 ホワイトカラーのマネジャークラスなど、主にハイクラスの人材を紹介するJACリクルートメント。最初に、新型コロナが始まった昨年から現在までの、求人の概要を語ってもらった。

 昨年の上半期は多くの企業で採用をストップした。初めての新型コロナ感染で対処がわからず、先が見えなくなったからだ。その後、第3四半期までは社内の人事編成で人材をやりくりするようになる。試行錯誤を続けるが、経験のない専門分野に戸惑う人も増え、全てが適材適所の配置とはならなかった。

「そこで第4四半期から外部人材の採用に踏み切って、結果として求人数も上昇しました。それは今年に入っても続き、上半期も同様でしたが、4月下旬からの第4波で求人は減少し、7月からのロックダウンでさらに下がりました」

 一つの例が外資系商社の営業職の求人。現地法人は設立せず、国内の営業、代理店や販社とのやり取りなどを一人で担当するような人材だ。昨年はこの採用がうまくいって、次の段階としてベトナム市場開拓のために駐在員事務所や現地法人を作る予定だったが、感染拡大で元に戻ってしまった。

 昨年の特徴を言えば、M&Aに関連する案件が多かったという。外資系企業がベトナム企業を買収した後に人材を採用するなどで、対象は社長の直轄で動くマネジャー以上のチーフクラス。組織変革のためのキーパーソンなどだ。

「日本を含めた海外からの投資が多いせいか、昨年は再生可能エネルギー関連の求人も増えました。発電施設のプロジェクトマネジャーなどですが、投資の規模が大きいですし、マッチした人は中々いません」

 製造業の動きは鈍く、求人にマネジャークラスが多いためか採用までに時間がかかった。特に日本人は最終的には対面面接を望むので、日本の担当者がベトナムに入国して隔離を終えるまでの期間が長くなり、内定を辞退されることもあったという。

「全体の求人は減りましたが完全に止まるわけではなく、観光、旅行、宿泊、サービス業など以外の、ハイクラスの専門職は募集が続いていました。今後もスペシャリストの需要は変わらないと思います」

 ただ、こうした人材は転職市場に多くなく、失業者の割合も少なかった。新型コロナ禍では転職で給料が上がらないケースも増えているため、積極的な応募者は多くなかったそうだ。

食品加工、医薬、小売で求人増
応募者は安定志向で慎重に

 今年の求人が良いのは食品加工のメーカーなど。社会的隔離が厳しくなって外出の制限が強まる中で、即席めんなどの保存食に強いニーズが生まれているからだ。医薬品メーカー、マスクや手袋を作る医療品メーカーも新型コロナ禍で求人を増やしている業界だ。食品加工と同じく技術職が求められることが多い。

 小売では食料販売の中心となったスーパーやコンビニでの求人が増えて、店舗を拡大する企業も多い。職種は店長クラス、テナント開拓、商品開発などだが、転職市場に人材が少なく、社内の配置換えで対応する企業もあるという。

 新型コロナ前から増加しているのがIT企業。オンラインで就業できることも求人増の理由だ。ただ、昨年は事業を縮小したスタートアップ企業も少なくなかったと語る。

「総じて、求人も応募者もテト明けから増えましたが、第4波以降はどちらも下降しています。応募者は昨年に比べて消極的になっていますね」

 昨年は新型コロナで解雇された人も多く、応募者も増えていた。特に熱心に動いたのが旅行、宿泊、サービス業など感染のダメージを受けた業界だが、転職の選択肢が少なくて苦労していたそうだ。

「それ以外の業界では、現在のポジションで様子を見る人が強かったです。条件がよほど良くないと動かない。この傾向は今年に入っても続いていますが、より安定志向になっていると思います」

 給料や条件が良くなる転職というより、業績が安定している企業を探すようになり、社風や企業文化を重視しているという。そして、無理な転職はしない。

 一方、募集する企業側も変化しつつある。以前は生産性が悪い社員にもチャンスを与えていたが、業績が下がる企業が多くなる中で、生産性の高い人をキープしようとしている。従業員の成果をより見極めるようになったのだ。

今年後半に事業の巻き返し
企業と人の要求は互いに厳しく

 ロックダウンの最中でも、IT、建設、商社、製造などは人を募集しているそうだ。

「移動が緩和される前に種をまいているわけで、そのためにポジションを保留している場合もあります。また、勤務先が事業を縮小しているなどの理由で、転職先を探し始めている人もいます」

 それでは、今年の後半に向かって、主にマネジャークラスの採用はどうなるのか。商品やサービスに左右されるものの、企業には年間の数値目標がある。ロックダウンなどで100%の達成は難しくても、後半には巻き返す必要が出てくる。そこで求められるのが1人1人の生産性で、これは転職者にもコミットされるという。

「応募者は自分を磨かないと良い仕事が見つからない。企業は事業や組織をきちんとしないと希望されない。お互いが選ばれるように、今だからこそ、しっかりやっていく。ストップした時間を補うために、今年の後半はどちらからの要求も厳しくなるでしょう」