「IT求人ならITViec」の仕事
AI時代の新規事業と採用潮流
IT系求人サイトで高い知名度とユーザー数を誇るITViec。2019年にマイナビが海外M&A第1号として買収し、その担当者だった飯嶋尚人氏がCEOに就任した。ベトナムのIT業界を含めた事業戦略を語る。

始まりは初の海外M&A
―― ベトナム進出の経緯をお聞かせください。
飯嶋 マイナビはそれまでも米国、中国、韓国に拠点はありましたが、本格的に海外事業を始めたのは2015年にアジア事業準備室が立ち上がってからです。2016年4月に私がその室長となるのですが、最初に言われたのが「ASEAN地域で新規に事業を立ち上げてほしい」でした。
ASEAN各国での事業の調査を続ける中で、現地で一から始めるよりも、マイナビの事業の方向性とマッチした、一定のポジションを持つ企業を買収する方向を考えるようになりました。一方で、マイナビにとって海外のM&Aは初めての経験でしたので、投資金額も事業規模もスモールスタートで行きたいという気持ちもありました。
2017年からは対象となる企業を探すようになり、ご縁があって2013年に設立されたTIViecを2019年1月に買収しました。ITViecはITViec.comというITに特化した求人サイトを運営しており、経験者採用に強いとサイトとして当時から圧倒的な知名度を誇っていました。
マイナビの海外事業はその後広がりまして、現在はフィリピン、インドネシア、インドにも駐在員事務所や現地法人があります。メインはベトナムとインドです。

―― サイトはどのような方が利用しているのですか?
飯嶋 応募者や登録者で最も多いのは、ミドルからシニアレベルのITエンジニアです。経験年数でジュニアが1~2年、ミドルが3~5年、6年以降がシニアという感覚です。コロナ後のIT投資の抑制により、ほとんどすべてのIT人材募集が2022年比較で半減しましたが、最近はAI&Data関連人材の求人が伸びています。
求人件数はサイトのトップに掲載していて、現在(取材時)は930ですが、ハイシーズンは1200~1300件程度まで膨らみます。
サイトの訪問者数は1ヶ月に平均30万前後で、低い時は25万、高い時は45万などと振れ幅はあります。アクティブ(サイトを訪問している)で、かつCV(職務経歴書)がアップロードされているユーザー数は、自社調査で競合他社より2~2.5倍あります。
求人企業は売上ベースでおよそベトナム企業が60%、日系企業が10%、米国、シンガポール、韓国と続きます。1位と2位は以前から変わらず、日系企業が2位なのはベトナムでのIT企業数が多いためだと思います。
「IT求人ならITViec」というポジションを維持するための活動も続けています。Company Reviewの投稿を元にした「Vietnam Best IT Companies」の発表、YouTubeを通じたAI&Data関連インタビュー動画の配信、SNSでのエンジニアだからこそくすっと笑えるコンテンツの投稿などです。最近はユーザー投稿型のコミュニティサイトを始めました。
「Story Hub」という名称で、ユーザーが自身のIT関連ストーリーやTipsを投稿できるサービスです。今後は「Story Hub」内で、コードチャレンジのようなチャレンジ企画も提案し、ベトナムにおけるIT業界の活性化に寄与したいです。

―― ITの方々が喜びそうな内容です。
飯嶋 一方で、ITと一口で言ってもその職種はとても幅広く、テックに詳しい我々だからこそできることにフォーカスしています。例えば、ITをセグメントに分解することで、より深掘ったコンテンツや求人を見やすく提供することが可能です。
第1弾として、「AI & Data」セグメントのランディングページ上で、当該セグメントの求人や関連するキャリアコンテンツの提供を始めました。総合求人サイトは全方位ですので、ITをさらに深掘ったセグメント分解まではなかなか難しいと思います。
「AI & Data」セグメントでは、私と弊社社員がZoomやオフラインでインタビューした業界関係者の動画などをアップしています。閲覧数を稼ぐというよりAIとデータに関わる人材に見ていただければ成功と思っており、彼らが興味を持つ話題を提供できるのは弊社の強みです。
ただ、求人サイトでは、かなりニッチな職種やディレクターなどのハイポジション人材の獲得が難しいんですね。そのため、今年の12月から人材紹介事業をスタートする予定です(取材時)。責任者は既に採用しており、具体的な事業内容、ポリシー、ターゲット層などを話し合っているところです。

AIで変わったこと、変わること
―― IT業界おけるAIの影響を教えてください。
飯嶋 ベトナムIT業界の求人は2022年にピークになって、その後2019年頃の水準に下がり、そこから2025年まで横ばいが続いています。
理由はコロナ禍での大量採用、AIによる効率化、VC投資の停滞に伴うスタートアップの減少だと見立てております。コロナ禍で採用しすぎた調整が始まったら、AIによる生産性向上が起こった。単純計算で30%の効率化ができれば、3割の人材は必要なくなります。
ただ、私はそろそろ上向きに変わると感じています。AIでソフトやアプリの開発コストが劇的に下がったら、一般的には需要が膨らむからです。
一方、AIは新しいWebサイトやアプリのモックアップを作るうえでは圧倒的に人間より早いものの、既にあるシステムの継ぎ足しやスケールアップへの対応等にはまだまだ対応しきれておりません。
IT業界にはオープンソースという文化があり、ベストプラクティスが多数公開されています。AIが学習しやすい環境ではあるものの、企業単位などでクローズドな部分が多くあり、これを加味した開発がAIにとって難しい。
つまり、AIを使って誰もがモックアップは作れるようになっても、世に出せるプロダクトに仕上げたり、スケールに足るアーキテクチャを構築するという需要は今後も伸びるだろうと思います。ただし、AIの活用は大前提になります。

―― これから考えている事業はありますか?
飯嶋 AIやデータなどのセグメントから出発して、将来的にはタレント(人材)のプラットフォームを作りたいです。現在もそう呼べるかもしれませんが、フルタイムの仕事のマッチングなんですね。
今後AIが浸透していけば業務はもっと細分化され、この人材が足りないとなっても自社採用やアアウトソーシング以外に、エキスパートのフリーランスやアドバイザリーといったプロジェクトベースで参加する方が増えると思います。
テックのコミュニティやキャリア開発などと連携させながら、多くのタレントをプールして、正社員に限らず、フリーランスやサイドジョブを望む方々にも働く場をグローバルに提供したいですね。





















取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。