世界で激化するEV充電インフラ整備競争
カーボン排出削減への取り組みが世界的に強まる中、各国は電気自動車(EV)向け充電インフラの整備を加速させている。公共充電ステーションは今や、グリーン交通革命を支える重要な社会基盤として位置付けられている。
EV普及における最大の障壁は、バッテリー技術や車両価格ではなく、利用者が抱く「充電切れへの不安」である。この課題を解消するため、欧州からアジアまで各国が大規模な投資を進めている。
ドイツ、20万カ所超の公共充電ポイントを整備
欧州では、ドイツがEVインフラ整備をけん引している。
ドイツ連邦ネットワーク庁の最新データによると、同国の公共充電ポイント数は2026年初めに20万カ所を突破した。
ドイツ政府は単なる数の拡大にとどまらず、EUの代替燃料インフラ規則(AFIR)に基づき、主要高速道路網(TEN-T)沿線に最低400kW級の急速充電設備の設置を進めている。
首都ベルリンでは、主要幹線道路で約60kmごとに急速充電設備を配置する計画を掲げており、EV充電を従来の給油と同程度に利便性の高いものにすることを目指している。
東欧では国際金融機関が支援
東欧地域でも整備が進む。
欧州復興開発銀行(EBRD)は、ポーランド、スロバキア、クロアチアの3カ国で2,700基以上の急速充電設備設置を支援する大型融資を承認した。
EBRDは、東西欧州間のインフラ格差解消が欧州共通EV市場の維持に不可欠であると指摘している。今回の投資では、高出力DC急速充電設備を中心に整備し、国境を越える旅客輸送や物流輸送の利便性向上を図る。
東南アジアではカンボジアが積極投資
アジアでも各国が独自の戦略でEV充電網を拡大している。
中でも注目されるのがカンボジアである。
カンボジア政府は、鉱業・エネルギー省、国営電力会社EDC、世界銀行の協力により、総額1,000万USD規模の予算を承認した。全国規模で充電インフラを拡充する計画である。
プノンペンやカンダール州など主要都市に加え、主要国道沿線の配電網を強化し、急速充電設備の導入に備える。これは2050年までに自動車の40%をEV化するという長期カーボンニュートラル戦略(LTS4CN)の実現に向けた基盤整備となる。
マレーシアは1万カ所体制を目指す
隣国マレーシアも積極的な整備を進めている。
同国は国家産業マスタープラン(NIMP 2030)の下で、公共充電ステーション1万カ所の整備を目標としている。
数年前には数百カ所規模だった充電設備は現在数千カ所へと拡大し、西マレーシア・東マレーシア全域への展開が進んでいる。
国営石油会社Petronasや電力会社Tenaga Nasional Berhad(TNB)には、戦略拠点へのDC急速充電設備設置目標が課されており、EV需要の拡大を後押ししている。
インドは鉄道網と連携した独自モデルを構築
南アジアでは、インドが既存の公共交通インフラを活用する独自戦略を採用している。
インド鉄道(Indian Railways)は全国の主要駅で大規模EV充電施設の整備を開始した。
広大な駅用地と大容量電力設備を活用することで、都市部の用地不足問題を解決するとともに、複合交通システムの構築を目指している。
利用者はEVで駅まで移動し、充電したまま高速鉄道で通勤し、帰宅時には満充電となった車両を利用できる仕組みである。
EV普及の主導権は充電網が握る
先進国から新興国まで一斉に充電インフラ整備を進めていることは、EV市場の競争において重要な原則を示している。
それは、「充電インフラを制する国が、グリーンモビリティ普及のスピードを制する」という点である。
ベトナムも充電インフラ競争に参戦
ベトナムもこの流れの例外ではない。
ベトナムは東南アジアでは珍しく、国内企業であるビンファスト(VinFast)が主導して全国規模の充電ネットワークを構築している。
現在、全国の都市部や国道、高速道路沿線には、自動車と電動二輪車向けを合わせて15万口以上の充電ポートが設置されている。
さらにビンファストは、一度に最大100台のEVへ充電可能な99カ所の超急速充電ステーションの整備を進めているほか、全国で15万基のバッテリー交換設備の導入も計画している。初期段階ではハノイとホーチミン市を重点地域としている。
また、EV ONE、EBOOST、Charge+など第三者系充電事業者や海外ブランドの参入も進み、充電インフラ市場は徐々に多様化している。
国家戦略の欠如が課題
一方で専門家は、ベトナムの充電インフラ整備が依然として民間企業主導に依存していると指摘する。
国家レベルの総合計画や、政府による直接的な財政支援制度は十分に整備されていない。
政府は2022年政令第10号によりEVの登録税免除や特別消費税の軽減措置を導入したものの、充電インフラ事業者向けの具体的な優遇策は限定的である。
また、HSBCグローバル・リサーチ部門の試算では、ベトナムが2024年から2040年にかけて必要なEV充電設備と再生可能エネルギー発電能力を整備するためには、約123億USDの投資が必要とされている。
充電インフラの全国計画策定が急務
ベトナムのファン・トゥー・サイン国会議員は、EV普及の最大の障壁は税制ではなく充電インフラ不足にあると指摘する。
同議員は、充電ステーション投資の社会化促進や地方部への展開拡大、全国的な整備計画の策定が必要であると主張している。
さらに、充電設備の技術基準や防火・防災基準を明確化するとともに、EV充電向け電気料金制度の整備、バッテリー保守・交換サービスの充実、公共交通やタクシー、観光車両向けEV導入支援も求めている。
ドイツやインド、マレーシアの事例が示すように、技術や市場の成長を支えるためには政策が先行する必要がある。
ベトナムにとっても、EV充電ステーションを重要な都市インフラとして位置付け、具体的な財政支援策と全国計画を早急に整備できるかが、世界的なグリーン転換競争での成否を左右することになりそうだ。



















