ベトナムの貿易が急拡大している。2026年1~8月の輸出入総額は7,700億USDに達し、前年同期比28.7%増となった。現在のペースが続けば、年間貿易総額1兆USDという過去に例のない水準に、9月末から10月ごろにも到達する可能性がある。
一方、貿易規模が拡大する中で、輸入超過の拡大や外国直接投資(FDI)企業への輸出依存、国内企業の利益率低下など、ベトナム経済が抱える構造的な課題も浮き彫りになっている。
8カ月で貿易総額7,700億USD
ベトナム統計局によると、8月の輸出入総額は約1,100億USDとなり、前年同月比31.7%増加した。
1~8月の累計では7,700億USDに達し、前年同期を28.7%上回った。これは8カ月間の貿易総額として過去最高である。
このペースが続けば、年間貿易総額は1.1兆USD前後に達する可能性もある。2025年の年間貿易総額は約9,300億USDであり、2026年はこれを大きく上回る見通しである。
ベトナムは今や、世界有数の貿易国として存在感を高めつつある。
エビ輸出が拡大、受注に生産能力が追いつかない企業も
輸出拡大を支える分野の一つが水産物である。
特にエビ需要が8月末から再び増加しており、加工企業の生産能力に大きな負荷がかかっている。
水産大手ミンフー・シーフード・グループでは、生産能力の拡大と自動化を同時に進めているものの、増加する受注に対応しきれていない。
約1兆5,000億USDを投じて建設したミンフー・カインアン工場は年間3万5,000トンの生産能力を持ち、現在は設計能力の約3分の2で稼働している。9月末にはフル稼働に達する見込みだ。
それでも、グループが保有する3工場をすべてフル稼働させたとしても、現在の需要を完全には満たせない可能性があるという。需要拡大が続けば、新工場への追加投資も検討する方針である。
水産物輸出は8カ月で80億USD
エビの輸出額は1~8月で32億USDとなり、前年同期比12%超の増加となった。水産物輸出品目の中で最大規模である。
ベトナム水産物輸出加工協会(VASEP)によると、8月の水産物輸出額は11億4,000万USDで前年同月比6%増、1~8月累計では80億USDに達し、11.8%増加した。
最大の輸出先となっている中国向けは20億USDを超え、前年同期比33.4%増となった。全体の25.35%を占めており、水産物輸出の重要な牽引役となっている。
VASEPは、9月以降も祝祭シーズンの需要や在庫補充の動きによって輸出が高水準で推移する可能性があるとみている。中国・香港向け需要が現在の水準を維持し、年末の繁忙期に受注が途切れなければ、年間120億USDという水産物輸出目標の達成も可能とみている。
貿易拡大の一方、輸入超過が拡大
ただし、貿易規模の急拡大を手放しで評価することはできない。
大きな懸念材料となっているのが輸入超過である。
前年同期には140億USD超の貿易黒字だったが、2026年1~8月は約200億USDの貿易赤字となった。
輸入額が大きく増加している背景には、電子機器、コンピューター・部品、石油製品、プラスチック、石炭、原油など主要な生産関連品目の輸入増加がある。
ただし、これらの多くは消費財ではなく、生産活動に必要な資本財や原材料である。生産拡大に備えて企業が原材料などを確保している側面もあり、輸入超過の拡大だけで経済の悪化を意味するわけではない。
それでも、国内企業が生産に必要な原材料や部品を海外に依存しているという構造的な問題は残る。
輸出の8割をFDI企業が占める
もう一つの課題は、輸出におけるFDI企業の存在感の大きさである。
1~8月のFDI企業による輸出額は原油を含めて3,000億USDを超え、前年同期比で約27%増加した。ベトナム全体の輸出額の80.1%以上を占めている。
一方、国内企業による輸出額は740億USDで、前年同期比7.4%増にとどまり、全体に占める割合は19.9%まで低下した。
さらに、国内企業は約306億USDの輸入超過となったのに対し、FDI企業は100億USD超の貿易黒字を確保している。
つまり、ベトナムの貿易規模が急速に拡大する一方で、その恩恵を生み出している主体は依然として外国企業に大きく偏っている。
水産業は「量」から「付加価値」へ
水産業界では、こうした構造を変えるため、単純な生産量の拡大から高付加価値化への転換が必要だとの声が出ている。
VASEPのドー・ゴック・タイ会長は、水産業が今後、原材料や一次加工品の輸出から、加工度の高い商品や利便性の高い商品へと移行する必要があると指摘する。
同時に、生産から加工、輸送までサプライチェーン全体への技術導入を進め、循環型経済や持続可能な生産にも取り組む必要がある。
単に輸出数量を増やすのではなく、ベトナム企業自身がより多くの付加価値を獲得することが重要となる。
青果物も「原料輸出」から高付加価値化へ
青果物についても同様の課題が指摘されている。
中国向け青果物輸出は拡大しているものの、今後重要になるのは市場のニーズを把握し、それに合わせた商品を開発することである。
単純な原料輸出ではなく、下処理や加工、利便性の高い商品を開発することで、サプライチェーンの中でより高い付加価値を獲得することが求められている。
そのためには、輸出企業が原材料の生産段階から関与することが重要である。農産物の生産地域、投入資材、栽培工程、トレーサビリティー、品質などを一貫して管理することで、輸出基準を満たすだけでなく、安定した品質と長期的なブランド構築にもつながる。
繊維・衣料品は「受注増でも利益減」
一方、すべての輸出産業が好調なわけではない。
繊維・衣料品では、輸出額の伸びが前年同期比1~2%程度にとどまり、年末に向けても厳しい状況が続くとみられている。
ベトナムの重要市場である米国では、インフレや金利上昇への懸念が消費に影響しており、他の主要市場にも波及している。
企業には受注があるものの、販売価格が低い一方、電力、水道、人件費、各種コンプライアンスコストなどの経費は上昇している。その結果、売上が確保できても利益率が大きく低下する状況となっている。
業界では、自動化やAIなどを導入して生産性を高め、運営コストを可能な限り削減することが必要だとの声が上がっている。
木材産業もコスト高と資金調達が課題
木材産業も輸出額が約120億USDに達し、前年同期比6%増と成長している。
クリスマスや年末向けの受注は確保されているものの、企業を取り巻く環境は依然として厳しい。
中東情勢などの影響により、原材料などの投入コストと物流・販売にかかるコストの双方が上昇している。
業界からは、資金調達環境の改善と金利負担の軽減を求める声が出ている。また、政府による大規模な貿易促進・マーケティング活動、国内外での国際展示会やB2B商談会の拡充、大手流通企業との接続支援なども求められている。
国内企業の競争力強化が次の課題
ベトナム経済にとって、貿易総額1兆USDという規模への到達は大きな節目となる。
しかし、重要なのは単純に輸出入額を増やすことではない。ベトナム企業が輸出によってどれだけ多くの価値を国内に残せるかが、次の課題となる。
専門家からは、加工・組立中心の産業構造から脱却し、より高い付加価値を生み出す工程を国内企業が担うことや、国内調達率を高めることが必要だとの指摘が出ている。
そのためには、企業が安定して長期的に利用できる資金、人材、国内サプライチェーンの整備が欠かせない。
国内消費とサプライチェーンの強化も必要
ベトナムの人口は1億人を超えており、輸出だけでなく国内消費も経済成長を支える重要な要素である。
専門家は、国内消費を刺激することで企業の生産活動を拡大させ、その結果として輸出競争力を高める好循環を構築する必要があると指摘する。
特に個人、世帯事業者、中小企業に対する税制や金融政策を改善し、国内需要を喚起することが重要となる。
また、現在のベトナム企業は生産能力を持っていても、原材料を海外から調達しているケースが少なくない。国内サプライチェーンを各産業で育成し、より多くの工程を国内で完結できる体制を構築することが、長期的な競争力向上につながる。
ベトナムは貿易総額1兆ドルという新たな水準に近づいている。今後問われるのは「どれだけ輸出したか」だけではなく、その輸出によってベトナム国内にどれだけ付加価値と利益を蓄積できるかである。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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