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【特集記事Vol.183】ベトナム飲食第2ラウンド|個性派日系チェーン上陸!

ACCESS Vol.183 表紙

専門店化や高級志向など業態が広がるベトナム飲食の第2ラウンド。成功への道は険しいものの、近年では個性的な日系チェーン店の進出も目立つ。彼らはなぜ今進出し、ベトナム市場をどう感じ、何を強みととらえているのか。

株式会社カミチク
牛のエサ作りから外食までを目指す
和牛の6次化をパッケージ輸出

株式会社カミチク 海外事業部 部長 上村幸生氏
株式会社カミチク
海外事業部 部長
上村幸生氏

 2025年2月、ハノイに和牛焼肉店の「NIKUSHO」(肉昌)がオープンした。日系焼肉店の進出は珍しくないが、一般的なレストランとは経緯も目的も異なるため、そのきっかけから説明したい。発端は2016年に始めた和牛の輸出だ。

 鹿児島県を拠点とするカミチクグループは牛のエサ作りから飼育・酪農(1次産業)、食肉加工や製造(2次産業)、販売や外食(3次産業)まで一貫して行う事業の6次化が特徴だ。

 こうしてできた和牛の輸出をスタートして、最初のタイから現在は19ヶ国に広がった。年間の輸出量は約400tで、これは日本の和牛の年間輸出量の約4%に当たる。

「和牛の輸出としては後発ですので、何かの強みを出せないかと考えました。それが日本でも珍しい和牛の6次化をパッケージ輸出することでした」

 輸出を続けながら牛を生産できる1次産業国を探す中、3次産業である外食のパートナーが先に見つかった。場所は香港で、地場の大手食品会社と一緒に合弁会社を立ち上げ、2018年4月に「鹿児島焼肉Beefar’s」をオープンした。同社が日本で合計約30店舗持つレストランチェーンのひとつ、「黒毛和牛ビーファーズ」の姉妹店だ。

 しかし、香港は生産基地にはならず、その候補国として見つけたのがベトナムだ。日本と近い土壌、環境、牛の品種があり、北部には四季がある。しかも、視察をすると牛乳や乳製品を生産する酪農のレベルは高いが、牛を育てる畜産は弱く、ベトナム政府も畜産業のレベルアップを推進していた。

 地場パートナーにも出会えて、2017年12月にベトナム法人KAMICHIKU VIETNAMをハノイに設立した。

「その後も調査を継続し、ベトナムでも先に外食を始めることにしました。現法もパートナー企業もハノイ、農場の候補地もハノイ郊外なので、レストランの立地もハノイにしました」

NIKUSHO」(肉昌)の肉の盛り合わせ

 2020年9月に「特撰和牛焼肉店USHINOKURA HANOI」をオープン。2006年に東京の広尾でオープンした外食1号店の、「黒毛和牛焼肉 薩摩 牛の蔵」の姉妹店だ。ここは牛肉の最高等級であるA5等級の中でも霜降り度合を評価するBMSの最上位ランク12を提供する、フラッグシップチェーン店である。

 日本から輸出する極上の和牛肉が評価されて、同店の業績は絶好調という。顧客の約7割がベトナム人の富裕層で、平日はビジネス会食、週末はファミリー層が多い。約1割が日本人駐在員でこちらもビジネス会食が中心だ。

 日本とのメニューの違いは前菜から始まる懐石コースを作ったことで、こうしたコースが売上の6割近くを占めて、客単価は200万~250万VNDという。

「日本酒を好む方が多くて、かなり飲まれます。8名で一升瓶を頼むなどで、日本でもあまり見かけません(笑)」

USHINO KURA HANOIの外観

 ベトナム2号店が冒頭で紹介した今年開店のNIKUSHOで、日本にない海外初のブランドだ。上記の1号店は順調だが価格が顧客を選ぶので、100万VND程度の客単価で広く和牛を楽しんでもらおうと出店した。

 それでも使っているのは鹿児島和牛のA4やA5クラスで、オリジナルの創作料理も用意した。人気は前菜からデザートまでのコンボセットで、顧客の6~7割が選ぶ。4月末から追加した500gと600gの肉の盛合せも人気となっている。

「お客様はこちらもベトナム人を中心に、外国人は日本人や欧米人などです」

 カミチク海外店の強みはまさに6次産業化にある。エサ作りから加工までを一貫して担うため、不透明な工程がなく、コストパフォーマンスも良いため、低価格で安定供給できる。同社はベトナムでは「カミチク」をアピールせず、「Farm to Table」をセールスポイントとしている。

「外食店は世界中に出したいです。ベトナムのホーチミン市やインドネシアのジャカルタはいいですね」

NIKUSHOの焼肉

 ベトナムでの畜産計画も着々と進む。2019年3月にはベトナム人獣医師9人がカミチクに入社。全員がベトナムの大学の獣医学部を卒業した獣医師資格を持つ20代男性で、獣医師として1~3年の勤務経験を持つ人材だ。

「日本で和牛を飼育するだけでなく、彼ら獣医師もベトナムのプロジェクトに参加しています」

 2023年1月には国立ハノイ農業大学とMOUと結んで連携し、そこから地場の畜産研究センターであるBavi畜産牧草研究所を紹介してもらった。上村氏は飲食店と同様に現地でのパートナー探しが最も大変であり、2016年の調査からようやく具現化したと振り返る。

 ハノイ郊外にあるこのセンターとの畜産事業は既に始まっており、交雑⽜を育てている。施設保有可能頭数は約400頭。所長が全面協力を約束しているそうだ。カミチクも取引先の飼料メーカーなどを農場に招待している。

Bavi畜産牧草研究所の牛

「センターの担当者は日本のカミチクファーム(グループ会社)でも研修を受けています。週単位でレポートが届き、1ヶ月単位で農場のビデオを見て、3ヶ月に1回はベトナムの現地を訪問しています」

 獣医師などのサポートもあって牛は順調に育っており、今年末にはベトナムで販売するための試験牛が生産される予定だ。A5クラスの牛は難しいため、大衆向けの2等級や3等級の生産を目指している。

「ベトナム国内での正式な販売は2026年末から始まる予定です。現状では1ヶ月で6~10頭が販売できると思っています」

ROYAL SOJITZ VIETNAM
ロイヤルHDがベトナムに1号店
今後様変わりするベトナム飲食業界

ROYAL SOJITZ VIETNAM
General Director
中西喜丈氏
ROYAL SOJITZ VIETNAM General Director 中西喜丈氏

 ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」や天丼・天ぷら専門店「天丼てんや」など、多くのブランドを展開するロイヤルホールディングス(ロイヤルHD)。日本に合計約640の店舗を持ち、海外では「天丼てんや」を中心に主に東南アジアに展開する。

 その中でベトナム1号店となったのが、2025年4月にホーチミン市にオープンした「THE ROYAL」だ。

 これまではフランチャイズ展開が多かったが、同社は双日と2021年2月に資本業務提携を締結。2024年7月に共同出資会社を通じて、シンガポールに「ロイヤルホスト」初の海外直営店を出店した。

「シンガポールはアジアのハブ的な位置付けから選び、その次が飲食市場のポテンシャルの高いベトナムになりました」

 ロイヤルHDは2024年8月にベトナム法人のROYAL SOJITZ VIETNAMを設立。ベトナムにおける強い事業基盤を持つ双日と合弁会社を設立し、事業展開に着手した。

「ホーチミン市の飲食店は良く見ているつもりです。市場は魅力的ですが競争も激しい。ただ、海外のチェーン店は思ったほど多くなく、まだまだ開拓の余地があります」

 「THE ROYAL」という店舗名は、1953年に日本国内で開店したレストラン第1号店に由来し、ベトナム1号店への思いの強さが伝わる。THE ROYALの由来となった店舗は、1972年にフレンチレストランの「花の木」に生まれ変わって現在に至る。

 当時のメニューを参考にしたものもあるが、完全に同じではない。また、将来的に現地向けのアレンジを行う可能性もあるが、現在は日本でロイヤルグループが培ってきた味付けを基本としており、ベトナム市場向けに特別な調整はしていない。

THE ROYALのシェフのおすすめ前菜

 ROYAL SOJITZ VIETNAMでは、ロイヤルグループにおいて長年培ったノウハウの中での各種業態、商品等を、現地の顧客に喜んでもらえるように提供していくことを重視している。

 THE ROYALはホーチミン市1区のビジネス街に近く、繁華街でもあって日系企業が入居するビルも多い。最初は日本人に利用してもらおうと、特にランチのターゲットを日本人と考えた。

「その次は日系企業で働く外国人やベトナム人に来ていただき、その先は一般的なベトナム人のミドルアッパー層に広げたいと思っています」

 ランチのセットは約20~30万VND、グリル料理は約50万VNDから。食材は地産地消を目指して野菜ならダラット産、牛肉はパートナーである双日が、ビナミルクとビンフック省で稼働させた国内最大級の食肉加工工場から出荷しているものを使用している。

 双日はベトナムでの事業経験が豊富で、物流など多様な面でのシナジーが生まれているようだ。

「一貫生産体制で作るベトナムの良質の牛肉を食べてほしいですし、水産物もできるだけベトナム産としています」

 店舗ではスタッフ約15人が働く。日本の飲食店やベトナムの日系飲食店などに勤務した経験者で、日本に好意を持つ人、日本語の学習者などを中心に採用した。幹部候補として採用した7人は日本に約3週間滞在し、ロイヤルグループの経営基本理念の理解や飲食店業務の研修を受けた。

THE ROYALの内観

「ロイヤルの経営基本理念をこの機会に全従業員に伝えています。何年か必要かもしれませんが続けようと思います」

 ベトナムでは日本からスーパーバイザーが来てトレーニングをし、ベトナム人のリーダーがメンバーに教えていく体制だ。中西氏から見て、サービスは日本より感じの良い部分もあるが、「サービスまで届かないレベルに留まることもあるため訓練中」と少々厳しい(取材時)。今後の教育については現場と共に考えている最中だ。

「言葉の壁もありますが、結果として料理やサービスを確認するしかありません。ただ、スタッフは皆元気があります」

 THE ROYALの顧客の満足度は及第点と感じており、リピーターも増えているという。そんな中、ベトナム2号店となる居酒屋「博多いねや」が、2025年5月にホーチミン市にオープンした。

博多いねやの外観

 この場所は日本人街のヘムにあり、多くの日本人在住者や各国の観光客も立ち寄ると考えて、和食の中でも居酒屋として出店した。日本料理を大切にしながらモダンでカジュアルな店内を持つ。

「4月、5月と出店が続いたのは偶然です。1号店は昨年、2号店は今年早々の出店予定でしたが、許認可関連で遅れました。逆にトレーニングの良い機会になりました」

 ベトナムは「高度成長期の日本マーケットと類似する点」を感じているが、当時の日本以上に急速に発展しており、この5~10年で大きく様変わりすると見ている。

 飲食業界であれば今乗り遅れると付いていけなくなる。3号店以降の物件を探している現段階は、勉強させてもらっている要素が強いという。

「将来的には50~60店舗を出店したいです。ホーチミン市だけでなくハノイやダナンなどの主要都市も候補になります」

博多いねやの天ぷら盛合せ

 今後も業態開発を行っていくので、どのブランドを出店するかは未定。ただ、出店を続けながら2~3年すれば、およその傾向が見えてくるかもしれない。ロイヤルグループの長い経験の中には多種多様な業態があり、レシピやメニューも揃っている。

「ロイヤルグループにはメニューの企画や業態を開発する部隊もあり、色々な可能性があります。ベトナムに提供したいものばかりです」

Crafty Vietnam
「日本のおむすび」を丸ごと再現
今後は本業や別事業の展開も

Crafty Vietnam
Founder
風間哲也氏
Crafty Vietnam Founder 風間哲也氏

 映像・音響機器やOA機器のレンタル、リースを主事業として、クラウドサービス、撮影・配信スタジオや飲食店の運営もするクラフティ。2023年8月におむすび店の「結亭」を東京にオープンした。

「弊社の役員の約半分が新潟県の出身で、新潟の美味しいお米を日本に広げたい思いがありました。そのための、おむすび店です」

 この開店の前後から日本でおむすび店が流行り出して、結亭もテレビの情報番組での紹介が増えた。売上も順調で、2024年7月には同じ東京に2号店を出店した。

 一方、クラフティは新潟県のサッカーチーム、野球チーム、バスケットボールチームなどのオフィシャルスポンサーであり、こうしたチームの試合や音楽フェスなどのイベントに出店して、おむすびの販売もしていた。

「量が多いので仕込みなどに手間や時間がかかります。そこで今年7月に新潟に結亭をオープンする予定です」

結亭のおむすび鮭

 海外進出は以前から考えていた。候補国には勢いのあるベトナム、インドネシア、アフリカ諸国などが上がり、今後の成長を含めてベトナムと決定。当初は本業の機器レンタル事業を検討したが、ベトナムではレンタル費が安価で、倉庫、物流、テクニカルスタッフ等も必要となるため一旦保留となる。

 浮上したのがおむすび店だ。2024年初から視察を始めて当地の和食を食べまくり、多くの人からの紹介も得た。その中で感じたのは日本と遜色ないベトナムの和食店の美味しさ。そして、ラーメン店や寿司店は多いがおむすび専門店は少なく、現地のおむすびに魅力を感じなかったことだ。

 検討の結果、「米で勝負」のハードルは高くないと、現地法人Crafty Vietnamを2024年8月にホーチミン市に設立。トゥドゥック市のタオディエンに2024年10月、日本の姉妹店となる「MUSUBITEI」(結亭)オープンした。

 主力商品のおむすびには日本と同じ新潟米を使い、レシピや味付け、注文を受けてから作るスタイルも日本と同じで、卵焼きなどの総菜も同様だ。ただ、日本の店舗はカウンターのみでテイクアウトが主流だが、ベトナムでは広いカウンターにテーブル席を用意した。大人が楽しめるバーのような内装が特徴だ。

「想定外だったのはお客さんの約6割が日本人だったこと、デリバリーが売上の6割以上を占めたことです」

結亭のスタッフが握るおむすび

 おむすびの大きさも日本と同じ100g。最初は小さくしてたくさん食べてもらいたいとも思ったが、ここも日本に合わせた。メニューも同様で、鮭、梅、イクラなど日本で過去に販売した具材を選び、ベトナムオリジナルは作っていない。

「1番売れてるのは鮭で、冷凍の半身で輸入して、店で焼いて身をほぐしています。日本よりも売れているのがちりめん山椒、ツナマヨは日越で人気ですね」

 価格も日本とほぼ同じで、鮭なら280円と4万2000VND、昆布は240円と3万8000VND(取材時)。2つ頼むとランチとしては多少高めとなるためか、顧客で多いのは日本人を中心に欧米人や韓国人。ベトナム人は増えてきているが少数派ではある。

 また、日本の2店舗は渋谷にあって平日は男女のビジネスパーソン、週末は観光地なのでインバウンドの外国人が増える。この訪日外国人の多さも結亭が海外進出するきっかけとなっている。

 一方のベトナムは周囲にスクールや幼稚園が多いからか、母子の家族連れがテイクアウトなどで買っていくことも多い。

 デリバリーの多さは筆者が体感した。平日10:00から店舗で取材を始めたが、多くの注文がオンラインで届いて、Grabなどのライダーがひっきりなしにやってくる。タオディエンからのデリバリーだと冷めてしまうため、近くに出店ほしいという声も多いそうだ。

 おむすびの作り方も日本と同じ。ご飯と具材を型に入れて軽く三角形を作ってから、海苔を巻いて握る。1個作るのに早くて30秒、遅い人でも1分。ベトナム人スタッフが小気味良く握っていた。

「ベトナム人の意見を聞いてオリジナルメニューを作るのも1つの手ですが、今後もやらないです。味付けが好みじゃないというベトナム人の方もいますが、日本流でお客さんが増えていますから」

 夜の人気惣菜はそうめんと餃子。そうめんは薬味だけのシンプルなメニューだが、日本人だけでなく外国人からの注文も多いそうだ。

バーのような結亭の店内

 オープンから半年以上が経ち、売上は順調に伸びている。ただ、現在は品質の安定と従業員のレベル均一化に重点を置いており、売上金額を追っていない。

「安定供給ができなくなると品質が落ち、数量を無理に増やすとクレームも増えるからです」

 メニューは増やすつもりでいるが具材の味が変わったり、輸入のタイミングで欠損が出るなどの可能性もある。仕入れ先の商社などと相談しながら進めており、並行して2号店を早めに出店したいと物件探しをしている。

 加えて、本業である映像機器や音響機器のレンタル事業、日本の別事業であるスポーツジムの展開も視野に入れている。経済成長しているこの国で、様々なことを色んな人と始めたい。ベトナムの成長に乗ってしまえばある程度の成功は期待できると感じるからだ。

 その中で飲食店は店舗数を増やさないと大きな儲けは望めないが、半面ローリスクでもあり、特に日本食はある程度のターゲット層が存在している。

「それでも、他の飲食業だったら難しかったと思います。うちはおむすびだからうまくいったのでしょう。とはいえ、初めての海外進出でかなりの失敗はしていますが(笑)」

店内のモニターに映るおむすびのメニュー表

取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。

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