健康意識が高いベトナム人。近年では肥満の増加や生活習慣病への関心、スポーツイベント等の普及もあって、先進国的な運動習慣を持つ人も増えてきた。フィットネスクラブ、スイミングスクール、パーソナルジムの三様から見てみよう。
総合型フィットネスの挑戦と転換
ベトナム10年を経て見えた市場
Renaissance Vietnam

日本最大級フィットネスが進出
1号店から学んだ成功と市場
大手フィットネスクラブ運営会社のルネサンス。日本国内にスポーツクラブとリハビリ施設で282を持ち、その会員数は43万を超える(2025年3月現在)。
初の海外進出先として東南アジアを選び、政治的安定、経済成長、親日、宗教リスクの少なさなどからベトナムが候補に。加えて、ベトナム政府が子どもの水難事故撲滅を掲げており、スイミング事業のノウハウを生かしたいと考えた。
「2013年に地場企業と合弁会社を設立してテストマーケティングを開始し、2014年6月に子会社のRenaissance Vietnamを設立しました」
その後、同年11月にビンズン省(当時)のイオンモール ビンズンキャナリーに日本のフィットネスクラブ初となる「Renaissance Fitness & Yoga」を出店した。既にハノイでの出店が決まっていたが、テナントに空きが出たことで入居を決め、ビンズン店が1号店となった。
「当初は見学には来ていただけても、入会までのハードルが高かった。価格設定と現地相場に大きなギャップがあり、当時の月会費は約5000円とローカル価格の2倍でした」
ただ、価格競争はせずに日本式の高品質を伝えていくと、地道に会員は増え始めた。最も有効だったのが会員による家族や友人の紹介で、料金割引や期間延長などの特典も効果的だった。その後、会員数は順調に伸びていくが、残念ながら2025年末に閉店した。
その理由と考えているのが、小規模のテナントのため、総合型ジムの強みであるプールと風呂が併設できなかったこと。また、周囲に工業団地が多いため若いワーカーは多く住むが、収入の面でターゲット層と違っていた。
2号店として2015年10月にハノイのイオンモール ロンビエンに出店したのが、「Renaissance Swimming & Fitness」だ。名称のようにトレーニングジム、スタジオ、温水プール、サウナが完備しており、施設の規模は1号店の約4倍と大きい。

想定外の主役は50代以上
シニアが作った居場所と収益
ハノイ店のおよその会員数はフィットネスジムが3000人、子どものスイミングスクールが夏場のピークで1000人。ジムのトレーナーとプールのコーチは各10人だ。当初は初心者ばかりなので一から教育していたが、最近は経験者採用も増えている。
ベトナムのジムは個室シャワーが一般的で、大きな風呂に皆で浸かる習慣はない。そのため下着や水着で入ろうとする人が多く、「パンツを脱いで入ってください」と常に呼びかけていたとか。
「日本の風呂文化の良さを感じてほしかったのです。今では皆さん、普通に裸になっています」

会員の男女比は半々、年代は50代以上が50%以上を占める。これは日本とほぼ同じ割合で、10年を掛けてこの構成になった。
最初は若者を中心に集客を考え、ワインレッドのマシンやコンクリート打ち放しの内装などにしたが、損益分岐点まで中々達しなかった。1年後にシニア会員をアピールすると急激に増え、しかも彼らはシニアの友人を紹介し、退会もしなかった。
一般的に12ヶ月の契約が多く、1年後の継続がカギになる。更新率はおよそ全年代で60%、シニアは突出して90%となっている。
「驚いたのは、シニアの皆さんが、『私たちが来ていい場所ですか?』と聞いてきたことです」
出店した10年前も小さなローカルジムは多くあったが、主に若者がマッチョな体を作る場所だった。ベトナムで流行っていた米国系のフィットネスクラブも同様で、ハードワークで筋肉を鍛えるイメージ。シニア世代は公園の無料の器具で運動するものと思われていたのだ。

また、キャンペーンなどを含めた最終的な月額は約7000円で、地域の中では一番高額という。そのため会員は中高所得者層が中心で、職業はホワイトカラーの管理職が多く、年齢は中年以上になる。
男女別の傾向では、男性はジムで黙々とマシントレーニング、女性は圧倒的にスタジオへの参加が多い。そのためか、スタジオの人気プログラムは当初からヨガが王道、加えてダンス。ヨガやピラティスはしなやかなボディラインを作るし、気持ちも落ち着く。若い女性にはKポップダンスが人気だが、中高年の女性も負けずに踊るという。
「シニアが継続する理由にはコミュニティの存在もあります。一緒にヨガに参加し、お風呂で話す社交場なんです。日本と違うのはサウナでも皆でワイワイ喋っていること。日本だと自然と黙りますよね」
変わるフィットネスの主戦場
総合型から個人向けの流れも
日本では若い世代からフィットネス文化が起こり、シニアまで浸透していく。若者が作ったエアロビクスブームは、日本のルネサンスでは今、シニアの参加が大半を占めている。ベトナムでは10年前は若者が独占していたフィットネスクラブが、緩やかにシニアが健康のために通う場に変わりつつある。

別の変化も起きている。ベトナムのフィットネス市場は伸びているが、業界を牽引してきた総合型フィットネスクラブ2社が、新規出店を一時止めているそうだ。代わりに若者向けの小規模なパーソナルジムやピラティススタジオなどが増えている。
「日本も同じです。顧客のニーズが細分化すると、総合型でなく特定のカテゴリーに合わせたビジネスが増えるのでしょう」
総合型フィットネスクラブは投資の回収に10年、20年と掛かる場合もあるが、小さな業態なら初期投資が低く、回収も早く、小回りも効く。ただ、ターゲット層がある程度固定されること、必ずしも総合型より会費が安くないなどから、別の意味でリスクはある。

「地域の幼稚園や学校の水泳授業を受託しており、プールとお風呂があることで健康産業やコミュニティスペースとして伸びる余地もあります。路面店やサービスを絞った展開も考えています」
日本式スイミングを未来の力に
泳げる子どもを育て、命を守る
S&F VIETNAM

人材難が導いた海外進出
ダナンで続く日本式水泳教室
日本スイミングクラブ協会の最優秀クラブ賞を1998年度から連続受賞しているエスアンドエフは、スイミングクラブやパーソナルトレーニングジムを運営する。
ベトナム進出の発端は、日本で採用が難しくなったスイミングコーチの人材確保だった。東南アジアを考え、プールの環境、治安の良さ、物価の安さ、親日性などからベトナムに決めて、社長の小倉謙氏と鮎澤氏が2018年から視察に回った。
ハノイに2019年8月、ベトナム法人のS&F VIETNAMを設立。現地のプールの一部を借りてレッスンをしながら人材を育成し、2020年6月にハノイとホーチミン市でプール施設を借りてFuji Swimming Clubをスタートした。
事業の開始では、日本での水泳レッスンを元にした独自のプログラム開発と水泳コーチの育成などに約1年を掛けた。続いて2021年5月にはダナンにもFuji Swimming Clubをオープンする。

その後、同社に責任のない理由でハノイとホーチミン市の活動は2022年末で終了し、現在はダナンでスイミングコーチを育成しながら、子どもたちを中心に水泳を教えている。
2019年8月に赴任した鮎澤氏は、ベトナムでは指導者の約8割がフリーランスなので水泳の基準が統一されず、個人で教え方が異なり、子どもは夏休みだけ練習するので上達の差も大きいと知った。
「そのため、日本式のレッスン方法で教えながら、日本水泳連盟の泳力検定会を開催しています。現在までに300人以上が合格しています」
コースは18ヶ月~4才未満向け「親子水泳レッスン」と、4才以上の「水泳技術クラス」があり、前者のプログラムは20ステップあり、後者は44ステップで水の安全とクロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライの4泳法を学ぶ。
在籍数は夏のピーク時である4月末から新学期前の8月までが1ヶ月で約500人だが、冬は半分ほどになることもある。
「これ以外にも、日本のスイミングクラブでは考えられないことばかりが起きています(笑)」

日本と違う通い方、続け方
ベトナム流プロモーションも
父母や祖父母によるバイクの送迎が普通なので、雨の日や寒い日は来なくなる。また、何らかの都合で欠席が続き、1ヶ月後などに何事もなかったように訪れる人も多い。そのため、個人単位でのスケジュール管理が大変なのだ。
水泳技術クラスは小学生1~3年生が多い。ただ、ベトナムの子どもは習い事が多く、中間層以上なら英語、塾、音楽などもある。残念ながらクロールと平泳ぎを覚えると辞める場合も多い。
日本の習い事は1年単位で週1回などのサイクルだが、ベトナムの水泳教室は1クール12回が一般的。週1回なら3ヶ月、週2回なら1ヶ月半になる。
「週2回が多くて、夏休みは週3回が増えます。上達のためにはもう少し長く継続してほしいですが、年々通年で通う人が増えてきました」

子どもたちも日本と違う。ベトナムでは列に並んだり、何かを始めるときに時間がかかりもするが、逆に深いプールでも怖がらずに飛び込む。深さが2mあってもだ。日本では禁止されるような光景だが、ベトナムの子どもたちの元気を日本に伝えて、日本のコーチたちを鼓舞しているそうだ。
他のクラブのスイミングコーチを相手に水泳の講習をすることもある。日本で水泳を学ぶ手段は書籍、講習会、動画、ネットと豊富だが、ベトナムでは限られ、ネットは英語中心になるため、対応できるコーチはあまり多くない。
「ハノイで講演をしたら会場の集中力がすごくて、終了後には次々と質問が飛んできました」
集客方法もベトナムならではだ。鮎澤氏はベトナム語字幕を付けた動画でFuji Swimming Clubを発信すると共に、地元の水泳大会にも出場。大会での「珍しい日本人」との注目を動画につなげている。
「ニャッタン橋の下のホン川をバタフライで10㎞、西のホアビン湖でも朝4時から10㎞泳ぎました。どちらの大会も外国人は出てなかったので目立ったと思いますね」

泳げる人を一人でも増やす
水難事故防止にも取り組む
現在のベトナム人コーチは4人(取材時)。3人は日本でコーチの研修を2週間受け、1人は日本語能力試験N2を持ち通訳としても活躍している。水泳には専門用語が多いため、一般的な日本語話者では通訳が難しいのだ。
ただ、当初の目的だったコーチの日本への派遣はできていない。ベトナム事業の基盤作りを優先させているのと、子どもの水難事故の防止活動を広げたいと思ったからだ。その一環として溺水防止イベントや、児童養護施設の子どもたち向けの水泳教室を開催している。
「海外での水難事故防止に取り組む筑波大学の椿本名誉教授と協力して、今後はスイミングクラブのコーチや水泳を学ぶ大学生に講習会を開きたいと思っています」

また、進級テストをクリアして上のクラスに進む、日本の水泳プログラムを普及させたい。細かいステップの中で基準を明確にしているので、今の練習内容、今の課題がわかる。日本のように統一基準のあるベトナム版の水泳資格制度を作りたいとも考えている。
「一人でも泳げる人を増やしたいです。ベトナムでは水泳への興味が高まっていますから」
赴任した2019年は一般の人が出られる水泳の大会はほとんどなかったが、2025年は海や川などで泳ぐオープンウォータースイミングの大会が3~4回、トライアスロンの大会が6~7回行われたそうだ。タイムを競うよりチャレンジとして参加する人が多く、そのために練習する人も増えた。
「私も大会に出ているので、よく声を掛けられます。水泳の楽しさを多くの人に知ってほしいです」
パーソナルジムが描く成長戦略
進化するフィットネスの先を読む
IKI GROUP

駐在員から24歳で起業
個人指導のニーズはあるか
高校まではバスケットボールに夢中でプロを目指したが、その後自動車関係の部品メーカーに就職。先輩が通っていたジムでトレーニングを始めて、ボディビルのコンテストにも出場した。2018年にベトナムに赴任した後も、当地のジムでトレーニングを続けていた。
「以前から社長になりたいと思っていました。日本でもベトナムでも場所は問いませんでした」
ベトナムでジムに通う中で、パーソナルトレーナーを非難する声が聞こえてきた。「そんなことはない」。日本でコーチからパーソナルトレーニングの指導を受け、自らも週末にはジムで実施していた福田氏は、きちんとしたパーソナルトレーニングを伝えたいと思った。これが起業の動機となる。

駐在1年半後に退職し、ベトナム人のパートナーと共同でIKI GROUPを設立。当時24歳、あまり不安は感じなかったという。
ハノイに2021年5月、パーソナルジム「Masa One Fitness」の1号店をオープン。しかし、開業3日後にコロナで街がロックダウン。いきなり休業状態となったが、半年後にロックダウンが解除されると続々と入会希望者がやってきた。巣ごもり生活で肥満になったり、健康管理を気にする人が増えていたのだ。
「ベトナムにフィットネス文化はあってもパーソナルトレーナーによる個人指導は一般的でなく、潜在ニーズがあったのだと思います」
会員はパーソナルトレーニングの初心者が多く、好印象を持たれたと振り返る。最初はホテルの部屋を間借りし、その後はビルのワンフロアを使うようになり、2025年からは一棟借りへと発展した。現在は1フロアが100㎡ほどで、パーソナルジムとしては結構広い。
ジムの会員はおよそ日本人が80%、ベトナム人と外国人が20%。現在の人数は50~70人で、開店以来の累計人数は660人を超えた。男女比は男性が約6割で、年齢は20代後半から50代までと様々だ。
「トレーナーはベトナム人が中心で、カリキュラムに沿って約3ヶ月教えます。1人前になるまでは3ヶ月でも早い方で、その後もOJTで続けています」

競争激化の先の次の一手
パーソナルストレッチ市場
もう一つの柱へと成長中なのがパーソナルストレッチだ。毎回トレーナーが指導するのは同じだが、マシンや自重による筋力トレーニングとは異なる。直接的な負荷をかけずに筋肉を伸ばすことで、柔軟性を高めて体をリラックスさせ、怪我の防止にもつながるウェルネスだ。ジムは1回50分、ストレッチは40分と1時間があり、時間的にはさほど変わらない。
パーソナルストレッチのコースは2025年6月から追加して、11月にホーチミン市でもスタートさせた。ハノイの会員はおよそベトナム人が90%、日本人と外国人が10%。ホーチミン市は外国人が80%、ベトナム人が10%、日本人が10%で、外国人は欧米人、韓国人、中国人が多い。
ハノイのパーソナルトレーニングとの比較でも顕著なのだが、国籍の構成が全く異なっている。ハノイのパーソナルトレーニングは日本人が80%、パーソナルストレッチはベトナム人が90%、ホーチミン市のパーソナルストレッチは外国人が80%だ。
「それぞれ周囲に住む人をターゲットに絞ってマーケティングをした結果、このような割合になりました」
日本でもそうだが、近所や生活圏でないジムを選ぶと、足が徐々に遠のいて、結果的に辞めてしまうことも多い。会員には地域性と住民の興味や志向が色濃く出る。
パーソナルストレッチを始めたのは事業戦略でもある。オープン当初はパーソナルトレーニングを求める人が多かったが、現在では競合が増えて、サービスの差別化が難しくなった。特にベトナム人がベトナム人を相手するジムが多く、ベトナム人対象のパーソナルトレーニングは苦戦しているそうだ。
「私たちは対象を日本人に絞っていたのでさほど影響は受けていませんが、パーソナルストレッチはベトナム人にも外国人にも新しくて関心が高いです。手ごたえを感じています」
パーソナルトレーニングのトレーナーをストレッチに異動させたり、日本から日本人スタッフを採用するなど、新たな組織作りも進めている。

専門への特化と原点回帰
女性用ジムとキッズスポーツ
2025年9月には「SPICE UP FITNESS」という、エクササイズを中心とした女性向けのパーソナルトレーニングを始めた。ヒップに特化した女性専用が特徴でベトナムではほとんど見ない。パーソナルストレッチを含めて「専門性」がこれから不可欠になると語る。

女性専用の市場があるのか伸びるのか、それは福田氏にもわからない。そのため、今はパーソナルストレッチに注力し、SPICE UP FITNESSはイベントなどを1年かけて続けていく予定だ。
「日本人と比べてベトナム人の方が健康意識が高い気がしますし、ジムで頑張っている人が多いです。専門性がマッチすれば市場は広がると思います」
同社は幼稚園から中学生を中心としたキッズスポーツ教室も開催している。具体的にはバスケット教室で、ハノイでは週に8~9回を7~15歳の約80人に、ホーチミン市は週に3~4回を8~13歳の約40人に教えている。
教室の時間は1回に1時間半から2時間。外部のコートを使ってスタッフが子どもたちと駆け回っている。冒頭で紹介したように、バスケットボールは福田氏のスポーツの原点だ。
「事業とは別に、将来は子どもたちのためにバスケットコートを作りたいです。バスケをやりたくなったらすぐできるコートをハノイとホーチミン市、その他の都市にも広げたいですね」





















取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。