失業率2.2%と低いベトナムで青年失業率は9%以上、都市部では12%に迫る。背景には企業の即戦力志向と研修不足というミスマッチがあり、これを打破できるのは日系企業しかない。若者を採用するチャンスだ!
ベトナム経済を動かす人の力
ベトナム統計局が1月に発表した人口、労働、雇用に関するレポートによると、2025年第4四半期の15歳以上の労働力は5380万人、2025年全体では5350万人だった。
経済分野別の就業割合は直近の第4四半期で、農林水産業が1340万人(25.4%)、工業・建設が1780万人(33.8%)、サービス業が2150万人(40.8%)とサービス業が最も多い。
また、2025年第4四半期の15歳以上の労働力参加率は68.7%と約7割の人が仕事に従事しており、失業率は2.22%と低かった(都市2.04%、農村2.05%)。この数値は他の東南アジア諸国と比べてかなり良好で、労働力参加率64.2%、失業率2.6%(2025年10月)の日本も上回っている。この労働力が2025年のGDP成長率を8.02%に押し上げたのだ。

9%を超える青年失業率
好調な労働市場も15~24歳の若年層は様子が異なる。青年人口の10.2%を占める140万人が失業あるいは就学や訓練を受けていない状態にあり、2025年第4四半期の青年失業率は9.04%と突出して高かった。
特に都市部で11.7%と高く(農村部8.0%)、仕事が多いはずの都会ほど若者が雇用されていない。また、男女比では女性が12.1%(男性8.3%)と多かった。
加えて、全体的に就業者と雇用は増え続け、失業率は低下している中で、青年失業率は近年ずっと上昇を続けている。
もっと言えば、2025年第4四半期は第3四半期比で、15歳以上の労働力人口が48万8700人増、就業者数も47万7500人増と勢いを増す中で、青年失業率は0.06ポイントとわずかながら上昇している。
これは「一時的に仕事が見つからない」や「些細な理由で退職した」などの状態ではなく、雇用と教育のどちらからも取り残された若者たちが見えてくる。

数字が示す若者排除の図
なぜこのようなことが起きているのか。ベトナムの求人プラットフォームJobOKOによる「給与・労働市場・採用レポート 2025-2026」が興味深い。
これは2025年1~10月に公開された58万件以上の求人情報、1200人以上の人事担当者、約1600人の求職者への調査から作成されており、直近の労働市場がわかる。
まず、2025年の求人数は2024年と比較して2.05%増加し、2026年は緩やかで安定した成長が見込まれる。
しかし、2025年は経験1年未満の「フレッシャー」向け求人は前年比で約13%減少した。主に人事管理(53%減)、会計(36%減)、銀行・金融(35%減)に集中しており、これらの分野では若手人材の需要が2年連続で急激に減少している。
一方で実務経験3年以上の求人は40%以上増加しており、雇用側は1~5年の経験と即戦力となるスキルを持つ候補者を今後も優先すると答えている。
また、経験1年未満の若年層の解雇率は45%と非常に高く、他の年齢層より最も高い割合となった。JobOKOは、仕事に求められる要件はますます厳しくなり、マルチタスク、プレッシャーの下で働く能力、柔軟性、AIや新しいテクノロジーへの迅速な適応が必要になったと述べている。
ベトナムの多くの企業が即戦力かつ経験者の採用に舵を切っており、新卒や未経験者は採用されないだけでなく、リストラの対象にすらなっているようだ。

若者と企業のすれ違い
次に採用する企業と就職する若者の意識の差を挙げる。
ベトナムの最新の経済状況と将来展望をまとめたOECD(経済協力開発機構)による「OECD経済調査:ベトナム2025」では、企業と若者とのギャップが語られている。例えば以下のような指摘だ。
近年の大学卒業生の高い失業率は、カリキュラム開発でほとんど役割を果たしていない雇用主が、変化するニーズを満たす教育を確保すべく、市場主導かつ能力重視のアプローチをすべきである。
2021年にTVET(職業訓練・職業教育訓練)機関で職業訓練を受けたベトナムの労働者の割合は7%未満しかなく、若者の43%が訓練内容が仕事に合っていないと回答している。
実地訓練(OJT)を強化する余地もある。2023年に訓練を提供する企業は8.7%で、割合が40%を超えるシンガポールやフィリピンを大きく下回っている。
また、雇用主による研修と研究開発の増加はイノベーションを促進する可能性があるとしており、世界知的所有権機関(WIPO)が発表した2024年版の「グローバル・イノベーション・インデックス」において、ベトナムは133ヶ国・地域で44位に入ったことも記している。

企業の期待は知っている
若者へのヒアリングからも上記のような声が聞こえてくる。2022年と少々古い調査だが、ASEAN財団による「ギャップを埋める:ASEANの未来のための若者のスキルマッピング」には、ASEANの10ヶ国から約1000人の回答者や320人のグループディスカッションなどが参加した。
そこでベトナムの若者は62%が「一度も研修活動に参加したことがない」とし、44%は「基本的なデジタルスキルの習熟度が全くないか低い」と回答している。
一方、彼らは就職に役立つスキルとして、「自己主導型のスキル」(76%)、リーダーシップやチームワークなどの「対人スキル」(73%)、「認知スキル」(70%)と答えている。多くの企業が求める人材をきちんと把握してるのだ。
また、キャリア志向としては43%が起業家を志望しており、メディア・通信(37%)、教育(22%)、テクノロジー(20%)と続く。こちらも若い熱意を感じられる。
このように企業が求める人材や求められる仕事と若者側の準備のミスマッチが、若者のスキル形成を阻んでいるようだ。その要因は教育機関が実務スキルを十分に提供できていないこと、もっと深刻なのは企業が入社後の人材育成をほとんどしていないことだろう。

JICA調査の人材育成モデル
ここで改めて日本企業が得意とする、社内教育や研修制度などの人材育成システムについて考えたい。
英文版が正本であるJICAの調査レポート「ベトナム国産業人材育成分野における情報収集・確認調査」(2022年)が、日系企業の実際を明らかにしている。ベトナム全国の1000以上の教育機関、企業、専門家、研究者、多くの組織、機関、団体を対象とした大規模調査だ。
いくつかを抜粋すれば以下になる。
日系企業の大多数(93%)は社内研修を実施しており、研修の提供元の90%は社内の人事部である。
日系企業の多くは、専門スキルや語学力とともに、ソフトスキルを向上させるための社内研修を実施しており、主にスタッフレベルの研修に重点を置いている。
企業側の認識ではソフトスキルが最優先要件(92%)であり、専門スキル(89%)、高度な認知スキル(80%)と続く。
研修活動を外部に委託している日系企業の割合は44%で他の企業の23%に比べて高くなっている。

社内研修の実施状況
希望の受け皿は日系企業
つまり、日系企業は自社内で体系的な教育制度を持つ一方、外部パートナーとも高い割合で連携して、多面的な研修を従業員に施している。そして、採用時にも重視されるチームワーク、コミュニケーション、リーダーシップなどのソフトスキルを高めている。
一方では、仕事への高い意識を持ちながら、主に企業で教育や研修の機会に恵まれず、高い確率で失業者にならざるを得ない、ベトナムの若者たちがいる。特に都会に住む彼らに希望を与えられるのは日系企業ではないだろうか。

売り手市場で若者採用を
失業率が低いということは、働き手にとって「仕事を選べる余地がある」という労働環境でもある。しかも、ベトナム人の労働力参加率は引き続き高く推移するだろうから、労働市場全体が活発になりそうだ。
しかし、多くの日系企業ではベトナム人スタッフの離職率の高さが悩みの種であり、この「売り手市場」が転職意向に拍車をかければ負の作用になりかねない。
その中で「静かに埋もれている若者」を雇用しない手はない。このまま青年失業率が高止まりすれば、中長期的には若手社員が育たず、中堅層が薄くなり、管理職候補が枯渇するというリスクさえ生じる。個々の企業だけでなくベトナムにとっても大きな問題だ。
今の企業に求められているのは、ベトナムの若者を「即戦力か否か」で判断することではなく、「どうすれば戦力になるか」を設計する視点だ。新入社員の世代から教育や訓練に投資を惜しまず、何年にもわたって人材育成システムを築いてきた日本企業こそ、その担い手になれるのではないか。






















取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。