アジア10年の蓄積をベトナムへ
ナンバーワン緑茶カンパニーを目指す
世界販売を強化する伊藤園は2024年4月に伊藤園ベトナムを設立。無糖緑茶がまだ一般的でないベトナムで新しい市場を開拓中だ。主力商品はもちろん「お~いお茶」。その苦心と戦略を村上裕昭社長が語る。

無糖茶で新市場を拓く
―― ベトナムへの進出の経緯を教えてください。
村上 伊藤園は「世界のティーカンパニー」となることを目標に、海外での販売強化を進めています。現在は米国、オーストラリア、中国、東南アジア、欧州など世界約40の国と地域で商品を販売しています。
シンガポール、タイ、インドネシアの支社の設立が2012~2013年で、10年を経てどこも安定的に黒字化を達成し、利益を生み出せる体質になってきました。この成功体験から、より早い事業化ができる国として選ばれたのがベトナムです。
ベトナムは2012年にハノイに駐在員事務所を設立して茶葉等の調査を行っており、2016年頃からはシンガポール経由で商品を輸出・販売していました。販売に本腰を入れるために2024年4月に設立したのが、ITO EN Vietnamです。

私はベトナムの前にシンガポールに駐在しており、現地市場だけでなくマレーシア、カンボジア、ベトナム向けの輸出営業も担当していました。こうした経緯もあってベトナム支社の立上げに携わりました。
販売しているのは伊藤園の主力ブランドである「お~いお茶」やジャスミンティーのペットボトル、お茶のティーバッグ、抹茶パウダーなどで、主にペットボトルはタイの工場から、ティーバッグなどは日本から輸入しています。
弊社の事業は販売やマーケティングで、販路としてはスーパーやコンビニなどのモダントレードが圧倒的に大きいです。営業チームが新規開拓をし、ラウンダー(店舗巡回員)が陳列や店舗交渉をしています。

―― ベトナム市場をどう感じますか?
村上 ボトルのティーマーケットは非常に大きいのですが、その中で「無糖」だけを切り取ると市場が小さすぎて、正しい情報や数字がない状態です。ローカル商品は甘味、香料、保存料を加えた嗜好性の高い飲料が主流です。
ただ、どの国でも生活が豊かになると健康志向が高まり、飲料も無糖で体に良いものが売れ始めます。日本も昔は砂糖を使った飲料が主流でしたが、その後は無糖系への逆転現象が起きました。ベトナムはまさに過渡期にあると言えます。
特に北部で急須で飲む緑茶文化がありますし、緑茶を始めて飲んだ欧米人のような抵抗感はないです。ただ、お湯で淹れた緑茶とペットボトルの緑茶は違いますし、そこにローカル商品の約2倍の価格を支払っていただくのはハードルが高いと感じます。
流通も独特ですね。店舗などの新規開拓も、売場で露出を高める棚やスペースの確保も競争が激しいのですが、担当者とのネットワーク、パイプ作り、コミュニケーションなどの関係性が重要になります。正面突破だけでは入りにくいのも特徴でしょう。
ベトナムで無糖の価値を理解してもらうまでには時間とコストがかかります。数年で状況がガラッと変わるとは思えませんから、スモールスタートで成功事例を積んで面として広げる、短期での成功ではなく地道にファンを増やすことに注力しています。
若手層に感じる手応え
―― 海外工場で日本の味を出すのは難しいのでしょうか?
村上 緑茶は同じ原料、同じ生産ラインを使用しても全く同じ物は作れません。その中で特に「お~いお茶」ブランドの品質は譲れませんので、海外の生産工場でも味覚や香りを担保できるよう、開発や品質管理の部門がしっかりと取り組んでいます。
こうして作られた商品のベトナムでの評判は上々です。急須で飲む緑茶と比較されるのか、「香りが良い」や「リフレッシュ」といった感想が多いです。
マーケティングでは認知を上げるためのFacebookやTikTokのSNSはもちろん、店頭でのサンプリングによる体験提供を重視しています。ただ並べるだけでは売れず、知っていただく、飲んでいただく、体験していただくのセットで進めないと市場で広がりません。
「伊藤園」と「お~いお茶」が結びつかないお客様もまだまだいますから、両方の知名度を上げる必要があります。
実は「お~いお茶」の次に売れているのが抹茶パウダーです。抹茶を通じても伊藤園ブランドの認知向上に取り組み、最終的には「伊藤園=本物の日本茶カンパニー」と認識されるようになりたいですね。

―― ターゲット層をどう考えていますか?
村上 サンプリングなどを通して手応えを感じるのは、20代後半~30代の、自立していて比較的所得があり、新商品や海外商品への抵抗が少ない方たちです。SNSへの反応からもそれを感じます。
一方で40代以上の世代はこれまでの嗜好や経験に固執する傾向があり、我々はスイッチングコストと呼ぶのですが、マインドをスイッチさせるにはお金も時間もかかります。
若い方はまだ親の影響を強く受けているので、ターゲットはより絞られます。それでも中長期で見ると、彼らが親の世代になり、子どもに飲ませたい物として伊藤園の存在が確立されていれば、下の世代にも引き続きファンが増えると思います。
まだ1年経っていないので正確な数字は出ていませんが、売行きも販売店舗数も伸びています。

――今後の計画や展望を教えてください。
村上 今年中の黒字化と販売基盤の安定が当面の目標です。その先はベトナム市場で無糖緑茶のカテゴリーの半分以上のシェアの獲得し、ナンバーワンの緑茶カンパニーを目指します。
現在はモダントレードが中心で、その意味では全国に販売していますが、販売活動のメインはホーチミン市です。今後は小規模小売店などのジェネラルトレード、地方都市、ホテルやレストランの商業施設も考えられますが、基本にあるのは「無糖緑茶の販売」です。これを伸ばすために必要な顧客層の調査や有効なアクションを続けます。
伊藤園の2029年4月期の目標は「お~いお茶の海外販売数量1000万ケース」です。有望市場であるベトナムからも貢献したいと思っています。






























取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。