初のベトナム人社長が挑む
物流のリアルと次の一手
1997年の進出以来、ベトナムの経済成長とともに歩んできた佐川急便(SGホールディングス)。物流やサービスの幅を広げながら、自社アセットを武器に事業を展開してきた。同社初のベトナム人社長が語る。

進出30年、物流の進化
―― ベトナム進出から現在までの経緯を教えてください。
フン 1997年に現地企業との合弁でSAGAWA EXPRESS VIETNAMを設立しました。これはSGホールディングスグループにとって、本格的な初の海外進出となります。
進出当初は海上、航空フォワーディング事業と通関事業が主でしたが、自社保有資産による倉庫事業や国内宅配事業の強化に取り組んできました。
これにより専門性の高い物流サービスを提供できるようになり、2016年に当地の流通・配送分野の大手企業を買収したことで、小口配送を含む国内配送ネットワークを劇的に強化できました。
以来、ホーチミン市、ハノイ、ダナンといった主要都市から、バクニン省やドンナイ省などの工業地帯まで拠点を拡大し、現在は全国に100ヶ所以上の配送拠点を持つようになりました。

―― 改めて事業内容を教えてください。
フン 弊社の事業は、航空・海上・鉄道を含む国際輸送、国際・国内エクスプレスサービス、倉庫サービス、輸出入通関、、検品や検針、プロジェクト物流(3PL)など、多岐にわたります。
規模としては海上、航空輸送および通関も含む国際物流が大きく、その次に国内輸送や倉庫事業が続きます。お客様は約70%が日系企業、残りは欧米系の外資系企業やベトナム企業が多いです。
強みと感じるのは車両や倉庫といったアセット(資産)を自社で保有している点です。現在、多様な車格のトラックが300台以上あり、北部から南部までの倉庫群の総床面積は約17万5000㎡以上です。
ベトナムの日系の物流企業で、自社でこれほど大規模な輸送網と、一般、保税、CFS、低温といった多機能な倉庫を運営している企業は稀だと思います。また、親会社であるSGホールディングスは世界各国に拠点を持っていることも強みです。
―― 近年の事業の課題を教えてください。
フン 人材の確保と人材育成、特にドライバー採用が年々難しくなっていることは、大きな課題の一つです。近年では、Grabのようなプラットフォームを通じて、自由で柔軟な働き方を選ぶ若者が増えています。一方、弊社ではドライバーを正式な雇用形態で採用し、安全運転、顧客対応、社内ルールの遵守に関する教育・訓練を継続的に実施しています。
しかし、研修への参加や規律に沿った働き方を、負担あるいはハードルと感じる人も少なくありません。そのため、安定したサービス品質を維持できる人材を確保することは、常に非常に重要な経営課題となっています。
加えて、環境対応も今後ますます重要となる課題です。ベトナムでは環境規制の強化が進んでおり、ガソリン車の通行を抑制し、電気自動車(EV)への転換を促進する流れにあります。弊社ではバイク便サービスの一部をすでに電動化していますが、トラックについては、積載効率や充電インフラの整備状況に対する懸念があるため、現時点ではまだ大規模な導入には至っていません。ただし、中長期的には、EVへの転換は不可避になると考えています。
さらに、ローカル企業に加え、中国系・韓国系の物流会社との価格競争も年々激しさを増しています。しかしながら、弊社には、安定したサービス品質、体系的に教育された人材、厳格な品質管理能力、そして顧客対応における高い責任感と信頼性という独自の強みがあります。
加えて、デジタル化を推進することで、業務運営プロセスの可視化を図り、進捗の把握・管理や、問題発生時の迅速な対応力を高めています。こうした取り組みによって付加価値を生み出し、お客様との長期的かつ信頼に基づく関係を構築しています。

次戦場はコールドチェーン
―― 最近着目していることは何でしょうか?
フン ベトナムの消費市場は大きく変化しています。以前のベトナム人は、住宅やバイクのような大きな資産を購入するために、支出に慎重で、貯蓄を優先する傾向がありました。しかし、現在の若い世代は、ライフスタイル、美容、健康、そして食の体験に対して、より積極的にお金をかけるようになっています。これに伴い、FMCG(消費財)、特に食品、化粧品、日常生活用品に対する需要が大きく伸びています。
さらに、電子商取引の発展により、小口配送、即配、宅配の需要も一段と高まっています。とりわけ、消費者が品質、安全性、健康をより重視するようになったことで、食品、医薬品、そして温度管理が必要な商品の、適切な条件かつ時間厳守での輸送ニーズも明らかに増加しています。
こうした状況を受けて、当社ではFMCG向け配送サービスの品質向上に加え、市場の需要により的確に応えるため、コールドチェーン分野の強化を進めています。ベトナムではコールドチェーンが輸送過程の様々な段階で途切れる可能性が依然としてあるため、当社は最新の冷凍車両、リアルタイム温度センサーおよびGPSを搭載した保冷ボックス、高品質の保冷資材を導入するとともに、輸送全体を通じて温度を厳格に管理できるよう、標準作業手順および緊急時対応策も整備しています。
―― 今後の計画を教えてください。
フン ベトナム法人の、さらなる成長を目指します。短期的には、既存の国際・国内輸送、倉庫、通関などの中核事業を強化しつつ、コールドチェーンのネットワークを全国へ広げていく計画です。

2025年からコールドチェーンを新たな重点分野に据え、冷凍・冷蔵貨物の輸送および保管サービスを本格化させてきました。2026年4月以降は、既存の冷蔵倉庫に加え、南部・中部・北部の各ハブに新たな冷蔵倉庫を継続的に設置していく予定であり、全国でのサービス提供能力の向上を図っていきます。
中長期的には、AIや自動化技術の導入を加速させます。近い将来には倉庫内でのロボット活用や、輸送管理システムによるルートの最適化などを通じて、省人化と生産性向上、オペレーションの安定化を図ります。これは深刻化する労働力不足への対策であると同時に、走行距離の短縮によるCO2排出削減にもつながります。
このような環境負荷の低減や持続可能な物流という観点も避けて通れません。EV車両の活用やエコドライブなどによる物流を徐々に構築していきます。
私は当社で働きながら、この国の経済や物流が大きく変わる姿を目の当たりにしてきました。これからも単なる物流サービスの提供にとどまらず、お客様のビジネス拡大を支える提案型パートナーとして、その役割をより強化していきたいと考えております。
SG SAGAWA VIETNAM/SAGAWA EXPRESS VIETNAM
Vo Thi Ngoc Phung ヴォ・ティ・ゴック・フン
早稲田大学への留学を挟んでベトナムの大学を卒業後、2006年に佐川急便ベトナムに入社。人事・総務課長として管理部門の礎を築き、2020年に人事・総務部長、2023年1月に取締役副社長、同年10月より現職。
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取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。