ベトナム料理の朝食、美味しいです。しかし、ベトナム人と外国人では好物や評価がずいぶんと違っているよう。その実際と背景について、国内外のランキングデータから探りました。あなたの好きな朝ごはんは?
世界を魅了するベトナム朝食
近年、ベトナムの朝食文化が世界的な注目を集めている。なぜなら、皆さんもご存じのように美味しくて、奥深いからだ。
国際的なグルメ情報サイトTasteAtlasは2025/2026年版でベトナム料理を世界16位に選定し、ミシュランガイドは2025年に過去最多となる181店舗のベトナム料理店を認定した。大手旅行雑誌コンデナスト・トラベラーでは、読者調査で、ベトナムが「世界で最も魅力的な食の旅行先」の4位に選ばれた。
しかし、世界の評価とベトナム人自身の朝食観は必ずしも一致しない。国内の代表的な調査とTasteAtlasを中心とした国際格付けのデータを整理したところ、国内外ギャップが明らかになった。

国内から見た「真の定番」
国内調査では大手企業のデータを探した。まず、ベトナム航空公式サイトの「ベトナム朝食トップ20」(2025年)。これによれば人気の朝食は1位フォー(Pho)、2位バインミー(Banh Mi)、3位ソイ(Xoi)、4位バンクオン(Banh Cuon)、5位ブンボーフエ(Bun Bo Hue)。価格帯も掲載されていて、2万~7万VNDが多い。
次はリゾートホテルチェーンのビンパール公式「伝統的なベトナム朝食ベスト11」(2024年)。北中南部に分かれて紹介され、北部の上位3はフォー、バンクオン、ソイ、中部はブンボーフエ、ミー・クアン(Mi Quang)、ブンチャーカー(Bun Cha Ca)、南部はフーティウ(Hu Tieu)、コムタム(Com Tam)、ボーネ(Bo Ne)だ。
同じビングループのテーマパークであるビンワンダーズ公式の「ベトナムの朝食13品」(2025年)。ここでは1位フォー、2位バインミー、3位ブンボーフエ、4位ボーコー(Bo kho)、5位バンバオ(Banh bao)。
実店舗調査としてホーチミン市の老舗レストラン、Mandarineからお勧めの朝食を聞いた。
「バンクオン、ブンボー、ブンタン(Bun thang)などで、ハノイの方はブンチャー(Bun cha)を食べることもありますね」
選定基準はそれぞれ異なるのだろうが、大雑把にまとめると、上位には「フォー」、「バインミー」、「ソイ」、「バンクオン」などが上がっているとわかる。


朝食兼昼食の支出額
別の国内調査から、ベトナム人の朝食の傾向を見たい。ベトナム政府広報サイトVietnam.vnが2024年4月に掲載した「ベトナム食トレンド調査2023」では、3000店舗と利用客4000人への大規模調査を実施した。
その結果、「朝食を抜く人」の割合が2022年の2倍に増加して17.5%となっており、多くの人が理由として「朝食を抜いて昼食をしっかり食べることで、日々の出費を少し節約する」と答えた。
同調査ではその昼食への支出額について、「回答者の約50%が3万1000~5万VND」としている。朝食兼昼食でこの金額だから、朝食への支出はかなり絞っていると想像できる。
この視点を踏まえて国内ランキングで着目されるのが、もち米を蒸して天然素材で着色した「ソイ」と、蒸した米粉をロール状にした「バンクオン」だ。

地味食が美味なのだ
フォーやバインミーが好きな読者は多いだろうが、この2つは食べているだろうか。共通点は、長年愛されている定番料理で、シンプルな味付け、そして価格が安いこと。ソイなど場所や店によっては5000VND程度から食べられる。
しかし、これから紹介するように国際ランキングで見かけることはほぼない。TasteAtlasの「世界朝食100選」(2025年)からも選外だ。
理由を考えると、誠に失礼なのだが、映えないビジュアル、地味な色彩、シンプルなフレーバーなどが浮かぶ。外国人には魅力的に思われないのだろう。また、日々の朝食で1万~2万VNDの差は大きいが、外国人観光客にとっては1USDにも満たない差額で、評価が上がる要因にはならない。

国際評価の朝食トップ3
それでは、TasteAtlas「世界朝食100選」に選ばれたベトナム料理は何だろうか? ボーコー(28位)、ブンボーフエ(53位)、コムタム・スオン(75位)の3品だ。前年の2024年版でもほぼ同順位なので、評価が定着しているようだ。
また、2026年4月に更新されたばかりのTasteAtlas「ベトナムの朝食トップ8」でも、1位ボーコー、2位ブンボーフエ、3位バンバオ、4位コムタム・スオン、5位ボーネと、類似の結果となっている。

欧米人バイアスはないか
ボーコー、ブンボーフエ、コムタム・スオンは国内ランキングでも上位だが、国際評価においては「欧米人バイアス」を感じてしまう。まず、TasteAtlasの表示言語が英語であり、旅行や食に関心の高い欧米諸国のユーザーが多いとされている。
各料理を見ても、ボーコーは「ビーフシチュー」、ブンボーフエは「スパイシービーフヌードル」、コムタム・スオンは「ポークチョップBBQライス」と言い換えられ、ボーネも「鉄板ステーキプレート」だ。エキゾチックなビジュアル、濃厚な味付け、肉料理な点も、欧米人好みと言える。
一方、これらは中部や南部で特に好まれるような地域色が強い料理でもあり、「ベトナム全土で人気の朝食」と言えるかどうかわからない。「日常食」と「観光体験」の差が出ているようだ。


みんな大好きバインミー!
一方、国内外で高評価が一致する朝食もある。TasteAtlas「世界のベストストリートフード100」(2024年)では、6位バインミー、40位コムタム・スオン、54位フォーと、中でもバインミーの人気が圧巻だ。
バインミーはTasteAtlas「世界のベストサンドイッチ」(2024年)でも世界1位を獲得しており、米国CNNが発表した「世界のベストサンドイッチ25」でも2位にランクインした。
バインミーの国際的評価がここまで高いのは、料理としての完成度はもちろん、「宗主国の素材を独自の食文化で昇華させた」という歴史や物語に惹かれる人が多いから。フランス産バゲットを、米粉混合の薄くパリパリの生地に作り替え、パテ、なます、パクチーなど東洋と西洋の食材を融合させた。しかも、地域や都市単位で独自の発展を遂げていく。
ベトナム人には1万5000~3万VNDで買える毎日の朝食で、外国人にとってはなぜか東南アジアで生まれた世界最高のサンドイッチ。安い、早い、旨い、持ち歩き可能、どこでも買える、という普遍の強みも後押しする。

フォーに向かう内外の視線
国内外の評価の一致は、ベトナムの国民食であるフォーも同様だ。上記3つの国内ランキングで堂々の1位となり、国際的な評価も高い。
TasteAtlas「世界の料理ベスト100」でフォーボー(Pho Bo)は83位。同「世界の麺料理ベスト100」でもフォーボーが6位となっている。
ただ、欧米目線には「シンプルな見た目の裏にある複雑な味覚」や、香草、ライム、各種調味料でカスタマイズできる「参加感」などがありそうだ。だからこそ特別な一杯が生まれるという話にもなるのだが、ベトナム人にとっては毎朝の定食だ。
これは世界共通で、地元の人たちは自国料理の対外価値に気づかないという食文化の一般事例と言える。

ミシュランに見る朝食文化
ミシュランガイドのベトナム版2025には、過去最多となる181軒のレストランが掲載された。内訳は1つ星が9軒、緑星が2軒、ビブグルマンが63軒、ミシュランセレクトが109軒で、ここでもベトナムの朝食文化が色濃く反映されている。
以前はフォーの専門店が多数評価されていたが、今回は同じフォーでも牛かかと肉を使った料理や、ウナギの春雨(Mien Luon)」といったニッチで隠れた朝食が高評価となった。
また、ブンボーフエ、フーティウ、コムタム、バンクオンなどこれまで紹介してきた料理も取り上げられ、発表開催地でもあるダナンが対象地域に加わったことで、同地の名物料理であるミークアンやタピオカ麺のバンカン(Banh Canh)も評価された。
注目したいのは、価格以上の満足が得られる店に贈られるビブグルマン(Bib Gourmand)だ。料理の価格は数万~十数万VNDと安くて、旨くて、毎日食べられる店。ミシュランが評価したのは、富裕層向け高級店ではなく庶民の朝食店だ。美味しい店が、たくさんある。
少しだけ早起きをして、まだ行ったことのない近所を散策して、お気に入りの朝ごはんを探してみてはいかが?


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取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。