トー・ラム書記長、シャングリラ会合で基調演説 世界秩序の危機とアジア太平洋の役割を提起
5月29日夜、シンガポールで開催された第23回シャングリラ会合において、ベトナムのトー・ラム国家主席兼書記長が基調演説を行った。
演説のテーマは「変動する世界における平和・安定・発展の主体的な構築」であり、世界が直面する構造的な危機を分析するとともに、アジア太平洋地域が果たすべき役割についてベトナムの考えを示した。
世界は3つの構造的危機に直面
トー・ラム国家主席は、現在の国際社会が以下の3つの危機に直面しているとの認識を示した。
- 国際秩序の危機
- 発展モデルの危機
- 戦略的信頼の危機
トー・ラム国家主席は、国際法や国家間の約束が依然として語られている一方で、その拘束力は低下しつつあり、「力による支配」や「大国が小国を飲み込む発想」が広がる危険性があると警告した。
また、経済成長の鈍化や気候変動、債務問題、技術格差の拡大などにより、多くの発展途上国が成長機会を失うリスクに直面していると指摘した。
技術革新が新たな安全保障課題に
演説では、人工知能(AI)、量子技術、サイバー空間、ビッグデータなどの新技術にも言及した。
トー・ラム国家主席は、新技術は発展を促進する一方で、情報操作や誤情報の拡散、誤認による危機の拡大を招く可能性があると警鐘を鳴らした。
その上で、軍事・安全保障分野におけるAI利用については、人間が最終的な責任を負う原則を維持すべきだと主張した。
アジア太平洋こそ解決策を生み出す地域
同氏は、アジア太平洋地域が世界経済の成長センターである一方、戦略的競争や海洋問題、サプライチェーン再編など多くの課題が集中する地域でもあると述べた。
しかし同時に、こうした課題が集中するからこそ、解決策もアジア太平洋から生み出されるべきだと強調した。
また、地域の平和と安定のためには、対立ではなく対話を重視し、地域の連結性を維持する必要があるとの考えを示した。
ASEAN中心性の維持を訴え
トー・ラム国家主席は、地域秩序の構築においてASEANの中心的役割が不可欠であると強調した。
新たな地域協力枠組みや構想については歓迎するとしながらも、
- 国際法を尊重すること
- ASEANの中心性を損なわないこと
- 東南アジアを大国間対立の舞台にしないこと
が重要だと指摘した。
さらに、2026年のASEAN議長国を務めるフィリピンへの支持を表明し、加盟国とともに平和や経済連結性の強化を進める考えを示した。
南シナ海問題で国際法重視を改めて表明
演説では南シナ海問題にも触れた。
トー・ラム書記長は、すべての紛争や意見の相違は平和的手段によって解決されるべきだと強調し、その根拠として1982年国連海洋法条約(UNCLOS)を挙げた。
また、ベトナムは他国の正当な権利と利益を尊重する一方、自国の独立、主権、主権的権利および管轄権については、国際法に基づき断固として守る方針を改めて示した。
「責任ある共存」を呼びかけ
演説の終盤でトー・ラム国家主席は、アジア太平洋が選ぶべき道は「競争するか否か」ではなく、「無秩序な競争」か「責任ある共存」かの選択であると訴えた。
また、平和と安定、発展はすべての国家に共通する利益であり、その実現には対話、相互信頼、リスク低減のための実効的な仕組みが必要だと強調した。
その上でベトナムは、地域および国際社会と協力しながら、法の支配の強化、信頼醸成、対話促進、リスク削減に積極的に取り組んでいく方針を示した。



















