世界的に外国直接投資(FDI)の伸びが鈍化する中でも、ベトナムでは半導体や人工知能(AI)、データセンター、電子産業など高付加価値分野への投資が拡大している。政府が「量から質」へと投資誘致政策を転換したことを背景に、ベトナムは世界のハイテクサプライチェーンにおける存在感を高めつつある。
半導体・AI分野へ大型投資が相次ぐ
2026年上半期は、ハイテク分野を中心に大型投資案件が相次いだ。
台湾のウィストロン(Wistron)は、ニンビン省キムバン工業団地で工場や倉庫などの建設を進めるため、2,450万USDの追加投資を決定。ベトナムでの総投資額は約1億7,827万USDへ拡大する。
また、サムスン電子はタイグエン省で約15億USDを投じる半導体チップ検査工場の建設計画を発表した。ベトナムで半導体検査工程を手掛けるのは初めてであり、従来の電子機器組立拠点から一歩進んだ投資として注目される。
さらに、
- 韓国のアムコー・テクノロジー(Amkor Technology)が半導体パッケージング・検査工場を拡張
- ハナ・マイクロン(Hana Micron)が生産能力を増強
- 中国のビクトリー・ジャイアント・テクノロジー(Victory Giant Technology)が5億2,000万USDを投じ、高性能プリント基板(PCB)工場を建設
- インテル・プロダクツ・ベトナムがホーチミン市ハイテクパークでチップ組立・検査事業を拡大
するなど、世界の主要半導体企業による投資が続いている。
データセンター・AI拠点の整備も進展
既存企業の増資だけでなく、新たなAI・データセンター関連プロジェクトも各地で進んでいる。
ホーチミン市、ダナン市、バクニン省、ハイフォン市では、海外テクノロジー企業との連携による大規模データセンターや半導体設計拠点、AI研究施設の整備が進行中である。
ホーチミン市では総額12億USDを超えるデータセンター事業が認可されたほか、約21億USD規模のAIデータセンター建設も計画されている。
これらの案件は、単に投資額を競うのではなく、高い技術力やイノベーション効果を持つプロジェクトを優先するベトナム政府の方針を象徴している。
FDIは「量」から「質」の時代へ
ホーチミン市経済・金融大学(UEF)のチャン・アイン・トゥン氏は、2026年上半期のFDI認可額が346億5,000万USDと前年同期比61%増となったことについて、「ベトナムは投資先としての魅力を維持するだけでなく、新たな資本移転の波を取り込んでいる」と分析する。
内訳は、
- 新規投資:173億9,000万USD(87.2%増)
- 追加投資:110億4,000万USD
- 出資・株式取得:62億2,000万USD
となった。
実際の投資実行額も約130億USDに達し、過去5年間で上半期として最高を記録した。
同氏は、「現在の投資は単なる組立工場ではなく、半導体やAI、データセンターなど、高度な人材や研究開発、安定した電力供給、サイバーセキュリティなどを必要とする高付加価値型へ変化している」と指摘する。
高度人材育成や産業全体への波及効果も期待
半導体やAI分野への投資は、雇用数では労働集約型産業ほど多くないものの、付加価値や給与水準は高い。
また、
- 通信
- 電力
- 建設
- ソフトウェア開発
- 教育・人材育成
など幅広い産業への波及効果も期待されている。
サムスン、インテル、アムコーなどの企業群と研究開発(R&D)拠点、地場サプライヤーが集積することで、ベトナムは単なる組立拠点から、半導体の検査・パッケージング・設計・応用開発まで担う産業構造への転換を目指している。
「決議10」が次世代FDI誘致の柱に
専門家は、近年の投資拡大は政府による政策転換の成果でもあると評価している。
政治局が新たに発表した「決議10」は、外国投資の誘致方針を大きく見直し、
- 半導体
- AI
- IoT
- ビッグデータ
- クラウド
- ブロックチェーン
- バイオテクノロジー
- 新素材
- グリーンエネルギー
など次世代産業を重点分野に位置付けた。
さらに、2030年までに
- FDIの75%を先進国・地域から誘致
- Fortune500企業による投資拡大
- 世界トップクラスのテクノロジー企業3社以上のR&Dセンター誘致
といった具体的な目標も掲げている。
また、従来の「どれだけ投資を集めるか」から、「どのような技術をもたらし、ベトナム企業がどこまでサプライチェーンへ参加し、国内にどれだけ付加価値を残せるか」を重視する政策へ転換した点も特徴とされる。
世界的なサプライチェーン再編が進む中、ベトナムは製造拠点としてだけでなく、半導体やAIなど先端技術分野の拠点としての地位確立を目指している。今後は、高度人材の育成やインフラ整備、国内企業との連携をどこまで進められるかが、持続的な成長の鍵となりそうだ。



















