ベトナムで外国企業による投資拡大が相次いでいる。既に進出している大手企業が生産能力を増強する一方、新たな外資企業による大型投資も続いている。
2026年1~8月のベトナムの外国直接投資(FDI)登録額は406億3,000万USDに達し、前年同期比55.4%増加した。実行済みFDIも172億5,000万USDと過去5年間で最高水準となっている。
背景には、米中対立や世界的なサプライチェーン再編を受けた生産拠点の多様化がある。ベトナムは輸出拠点としてだけでなく、拡大する国内市場を持つ生産・消費の両面で重要な投資先となっている。
LG、ベトナムで半導体関連に10億USD投資
北部ハイフォン市では7月、韓国のLG Innotekが半導体パッケージ基板・基板材料の生産複合施設を建設するため、総額10億USDの投資登録証明書を取得した。
同施設はLG Innotekにとって韓国外で初めて建設する半導体基板の生産拠点となる。
LG Innotekは6月、ハイフォン市との間で工場拡張に関する覚書を締結しており、今回の投資は同社が進める生産拠点の多様化戦略の一環である。
半導体関連産業の誘致を進めるベトナムにとっても、大型のハイテク投資が実際の生産拠点建設につながることは重要な意味を持つ。
Samsungもタイグエン省で半導体設備を拡張
ベトナム最大級の外資企業であるサムスンも、投資拡大を進めている。
サムスン・エレクトロニクス(Samsung Electronics)は北部タイグエン省で、約15億USDを投じて半導体のテスト施設を建設する計画を進めている。施設はハノイから約60キロ北に位置する工業団地に建設され、2027年11月の稼働開始を予定している。
同施設はサムスンにとってベトナム初の専用チップテスト拠点となり、DRAMやNANDなどのメモリー製品を扱う計画である。
さらに、サムスン・エレクトロ・メカニクス(Samsung Electro-Mechanics)もベトナムで高性能半導体基板の生産を拡大しているほか、サムスン・ディスプレイ(Samsung Display)も高付加価値分野への事業拡大を進めている。
サムスン・エレクトロニクスのロ・テムン最高経営責任者は8月27日、ベトナムのレ・ミン・フン首相とハノイで会談した。
ロ・テムン氏によると、2026年6月末時点で、北部バクニン省とタイグエン省にあるサムスンの携帯電話関連工場からの累計輸出額は5,000億USDを超えた。2009年4月の生産開始から17年間で達成した数字である。
イオンもベトナムへの投資を加速
製造業だけでなく、小売業でも外資企業による積極的な投資が続いている。
日本のイオン傘下のイオンベトナム(Aeon Vietnam)は7月、中部地域では初となる「イオンモール・ダナン」を開業した。
さらに2026年中に、ハイフォン市、タインホア省、クアンニン省のハロン市で3つの新たなショッピングモールを開業する計画である。
イオンベトナムによると、同社がベトナムに最初の法人を設立してから15年が経過し、現在では11社からなる事業体制を構築している。2025年末時点の売上高は1,000億円を超え、15年間で2.5倍に拡大した。
全国の店舗網も300店を超えている。
同社は今後、ASEAN地域全体の投資予算の約60%をベトナム市場に優先配分する方針を示している。
これはベトナムを単なる出店先ではなく、ASEANにおける重要市場の一つとして位置付けていることを示している。
新規投資に加え、既存企業の増資が目立つ
外資企業の投資拡大は大手企業だけに限られない。
クアンニン省では、中国系医療用品大手ウイナーメディカル(Winner Medical)傘下の企業が約6,050万USDを投じる医療用品工場の建設を開始した。
また、ドンナイ省ではシンガポール系のジャビテクノロジーベトナム(Jabil Technology Vietnam)が8,000万USDを投じる工場プロジェクトを進めている。
こうした新規案件や既存企業による拡張投資の積み重ねにより、2026年1~8月のFDI登録額は406億3,000万USDとなった。
注目されるのは、新規プロジェクト数の増加率が9.4%にとどまる一方、登録資本は前年同期比でほぼ倍増していることである。
つまり、投資案件の数が増えただけではなく、1件当たりの投資規模が明確に大型化している。
世界的なサプライチェーン再編が追い風に
経済専門家のグエン・トゥーン・ラン氏は、現在のベトナムへのFDI流入について、世界的な資本再配分の流れの中で捉える必要があると指摘する。
世界経済の変化や主要国間の戦略的競争を背景に、多国籍企業は一つの国や生産拠点への過度な依存を避け、生産能力やサプライチェーンを分散させている。
その結果、アジアの新興国へ資本を移す動きが中長期的に続いており、ベトナムもその恩恵を受けている。
ベトナムには既に電子機器、コンピューター、機械、繊維・衣料、皮革・履物、加工・製造などの分野で外資企業による生産エコシステムが形成されている。
一度大手企業が生産拠点を構築すれば、その後の増産や関連サプライヤーの進出も容易になる。新規投資企業にとっても、ゼロから生産環境を構築する必要がないことがベトナムの強みとなる。
また、工場を長期間安定して稼働させるには、土地や人件費だけでなく、電力、物流、インフラ、政策の安定性などを総合的に判断する必要がある。
「生産拠点」と「消費市場」の両方が強み
ベトナムの政治・社会の安定性も、外資企業が投資を続ける理由の一つである。
さらに、国内市場の拡大も重要だ。
ベトナムは海外市場向けの生産拠点であると同時に、人口約1億人を抱える消費市場でもある。そのため、企業はベトナム国内で生産し、グローバルサプライチェーンに組み込むと同時に、国内市場の需要も取り込むことができる。
加えて、行政手続きの改革、法制度の整備、インフラ整備の進展、自由貿易協定(FTA)のネットワークなども投資先としての競争力を支えている。
特に近年は道路や港湾などのインフラ整備が進み、物流の利便性が向上していることも評価されている。
課題は外資企業とベトナム企業の連携
一方、FDIの拡大がそのままベトナム経済全体の発展につながるわけではない。
専門家が課題として挙げるのが、外資企業と国内企業との連携である。
外資企業が部品、原材料、サービスなどの多くを海外から調達し続ければ、ベトナム国内への経済波及効果は限定的になる。
そのため、今後は外資企業を誘致するだけでなく、ベトナム企業が外資企業のサプライヤーとして参入できる環境を整える必要がある。
具体的には、企業の技術力向上、設備投資、経営人材の育成、研究開発(R&D)への支援などに加え、外資企業の調達部門とベトナム企業を直接つなぐ仕組みが求められている。
企業が「何を生産できるのか」「どの程度の生産能力があるのか」「どの規格に対応できるのか」といった情報をデータベース化し、外資企業とのマッチングにつなげることも有効とされる。
半導体・AIなどでは人材不足が課題
ベトナム政府が今後の重点分野として掲げる半導体やAIでも課題は残る。
特に高度な技術分野では、外資企業が必要とする人材を十分に確保できるかが重要になる。
知的財産権の保護やR&Dセンター、研究施設に対する投資支援制度などについても、企業側からはさらなる明確化を求める声が出ている。
再生可能エネルギー分野でも、制度面の課題が残る。
ベトナムは太陽光や洋上風力などの潜在力が高い一方、固定価格買取制度(FiT)から入札制度への移行後、売電価格などをめぐる制度上の不透明感から、海外大手企業が撤退を表明した例もある。
外資企業から見れば、投資先としての魅力だけでなく、10年、20年単位で安定して事業を継続できる制度環境が整っているかが重要となる。
「外資を呼ぶ」から「外資を根付かせる」段階へ
2026年のベトナムでは、FDIの増加だけでなく、その中身にも変化が表れている。
新規投資に加えてSamsungやLG、Aeonなど既存の外資企業が投資を拡大し、さらにその周辺にサプライヤーや関連企業が集まる構図が形成されつつある。
世界的なサプライチェーン再編が続く中、ベトナムは生産拠点の分散先として選ばれるだけでなく、企業が長期的に「根を張る」投資先へと変わりつつある。
今後の焦点は、こうして流入したFDIをいかにベトナム国内企業の成長や技術移転につなげ、国内産業全体へ波及させられるかにある。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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