ベトナムでは2027年以降、電力需要の拡大に対して発電所や送電網の整備が追いつかず、電力不足が具体化する可能性が高まっている。商工省はこのほど、2026~2030年の電力供給確保に向けた緊急報告書を政府に提出し、第8次国家電力計画(電力計画VIII)の見直しを含む対策を提案した。
電源開発、計画の5%しか稼働せず
商工省の報告書によると、ベトナムでは電力の需要と供給の不均衡が大きな課題となっている。
特に発電事業の進捗は遅れており、電力計画VIIIの策定・実施から3年以上が経過した時点でも、大規模な電源開発案件のうち実際に稼働したのは約5%にとどまる。
約9%は着工済みだが、まだ運転開始に至っていない。約28%は投資家が決まっているものの着工しておらず、約12%は投資方針が承認されているものの投資家が決まっていない。さらに、約45%は投資方針そのものが決まっていない。
発電所の建設が計画通り進まなければ、今後の電力需要の増加に対応できない可能性がある。
2027年に4,256MW、2030年には1万3,964MW不足の見通し
2026年については、発電量が3,544億kWhとなり、2025年比で約9.7%増える見込みであることから、当面の電力供給に大きな圧力は生じないとみられている。
しかし、2027年以降は状況が変わる。
商工省の試算では、電源開発の進捗が改善しない場合、2027年には全国の電力供給能力が約4,256MW不足し、発電電力量では約29億kWhの不足が生じる可能性がある。
さらに2028年には供給能力の不足が約8,309MW、電力量では約207億kWhに拡大する。特に北部の不足が深刻で、2028年には約9,678MW、電力量で約173億kWhの不足が見込まれている。
2030年には全国で約1万3,964MW、電力量で約611億8,000万kWhの不足が予測される。北部だけでも約1万3,026MW、約446億5,000万kWhが不足する可能性がある。
つまり、電力不足は単なる将来的なリスクではなく、2027年から具体的な供給制約として表面化する可能性がある。
送電網の整備も遅れ
問題は発電所だけではない。送電網の整備も計画に対して遅れている。
ベトナム電力公社(EVN)などは数百件の送電網整備事業を進めているものの、電力計画VIIIに盛り込まれた送電網事業全体の約28.6%に相当する事業量しか実施できていない。
また、2025~2030年に国の投資によって完成させる予定の送電網についても、現時点で実施可能なのは4割強にとどまる。残りについては社会化投資、すなわち民間などによる投資が想定されている。
発電能力を確保しても、需要地まで電力を送る送電網が整備されなければ、実際の供給にはつながらない。特に北部では、今後の産業集積による電力需要の増加と送電能力の確保が重要な課題となる。
太陽光発電と蓄電池を緊急対策に
商工省は、2027~2028年の電力供給を確保するため、複数の緊急対策を提案している。
その一つが、自家消費型の太陽光発電の拡大である。
特に北部を中心に、地方政府ごとに導入目標を設定し、当面は政府予算を活用して行政庁舎、学校、病院などに合計約2,800MWの太陽光発電設備を導入し、2027年6月までに完成させる案が示された。
また、工業団地や工場、企業に対しても、自家消費型太陽光発電と蓄電システム(BESS)の導入を促し、乾季までに各地域で合計3,000~5,000MWの導入を目指す。
さらに、電力需要が集中する時間帯に対応するため、BESSを2,000~3,000MW程度追加することも提案している。
このほか、ラオスや中国からの電力輸入事業を予定通り進めるとともに、すでに投資方針が承認されている約4,000MWの大規模太陽光発電事業を稼働させることも短期的な対策として挙げられている。
2029~2030年は石炭火力の追加も検討
2029~2030年については、商工省は一部の石炭火力発電所を電力計画に追加することも検討している。
一方で、石炭火力については二酸化炭素回収・貯留(CCS)設備の導入を段階的に進める方針も示している。
同時に、再生可能エネルギーの導入も拡大する。日照条件や風況に恵まれた地域を中心に、2029~2030年の2年間で太陽光発電を約8,500MW、陸上・近海の風力発電を約7,000MW追加する案が示されている。
電力計画VIIIを2段階で見直し
商工省は、こうした個別の対策に加え、電力計画VIIIそのものを見直す必要があるとしている。
見直しは2段階で実施する案である。
第1段階では、国会決議253号に基づいて計画を更新し、進捗が遅れているLNG火力発電事業を補うため、新たな石炭火力発電事業を追加するほか、短期間で実施可能な再生可能エネルギー事業を追加する。
第2段階では、計画法に基づいて電力計画VIIIを全面的に見直す。第1段階で追加・更新した事業についても、全体的な電源・送電網計画との整合性を確保する考えである。
「必要な電力量」だけでなく「どこで必要か」が重要に
エネルギー専門家でベトナム・エネルギー科学評議会のメンバーを務めるグエン・フイ・ホアック博士は、電力需要の構造そのものが急速に変化していると指摘する。
従来、電力需要はGDP、工業化、都市化、生活水準などを基に予測されてきた。しかし現在は、AI、データセンター、半導体産業、高度技術型工業団地、交通の電動化など、新たな大規模電力需要が生まれている。
これらの施設は特定地域に集中し、高い電力供給信頼性を必要とする。
そのため、電力計画で問われるのは単純に「経済がどれだけの電力を必要とするか」ではない。どこで、いつ、どれだけの電力が必要となり、どの程度の供給信頼性が求められるのかまで見極める必要があるという。
例えば、データセンターや高度技術型工業団地は、発電所や変電所、送電線の建設よりも速いペースで整備される可能性がある。
その結果、国全体の発電能力が不足していなくても、特定地域では送電能力が不足し、必要な電力を供給できない事態が生じる可能性がある。
一つの予測ではなく複数のシナリオを
ホアック博士は、電力計画VIIIの見直しでは、一つの需要予測を前提とするのではなく、複数のシナリオを設定する必要があると指摘している。
見直し後の電力計画VIIIでは、2030年までに国内需要向けの発電設備容量を約18万3,291~23万6,363MW、最大電力需要を約8万9,655~9万9,934MWとする目標が設定されている。
しかし、計画上の発電能力がすべて予定通り稼働するとは限らない。
そのため、各発電事業について実際の完成可能性を継続的に検証し、遅延する可能性のある電源を特定したうえで、代替電源をあらかじめ準備する必要があるという。
具体的には、電力需要が想定以上に増加するケースと、複数の発電事業が予定より遅れるケースなどを想定し、それぞれについて代替電源、送電能力、予備電源を投入する時期まで設定することが求められる。
さらに、2030年だけを見据えるのではなく、2035年までの電力需要を地域別に把握し、データセンター、高度技術型工業団地、半導体産業、高速鉄道などの新たな需要拠点と、発電所・送電網の整備計画を連動させることが重要となる。
ベトナムの電力問題は、単純な「発電量不足」から、急速に変化する産業立地と電力需要に対して、発電・送電インフラをどこまで先回りして整備できるかという問題へ移りつつある。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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