ホーチミン市では、旧ホーチミン市、旧ビンズン省、旧バリア・ブンタウ省を一体化した新たな都市圏を対象に、100年先を見据えた総合都市計画の策定が進められている。
今回の計画では、3地域の既存計画を単純につなぎ合わせるのではなく、広域的な都市構造そのものを再設計する考え方が示されている。
その中で、コンサルティングコンソーシアムに参加する日建設計ベトナムは、将来の都市構造を転換する「5つの動力プロジェクト」を提案した。鉄道、河川、港湾、物流、産業、新たな都市開発を相互に結び付け、巨大都市圏を一つの都市システムとして機能させる構想である。
「地域ごとの開発」から「都市圏全体の構造」へ
新たなホーチミン市は、旧ホーチミン市、旧ビンズン省、旧バリア・ブンタウ省を合わせることで、従来よりはるかに広い都市圏となった。
そのため、地域ごと、産業ごと、あるいは個別のインフラごとに整備を進めるだけでは、都市圏全体の成長を十分に引き出せないとの考え方がある。
日建設計ベトナムが示した「5つの動力プロジェクト」は、個別の投資案件ではなく、長期的な都市転換のための戦略的な枠組みである。
インフラ、土地利用、公共空間、事業実施の仕組みを一体的に考え、最初の公共投資を呼び水として、公共交通指向型開発(TOD)、都市再生、産業転換、民間投資へとつなげる。
100年という長期的な目標を掲げながら、実際の開発は需要や財源に応じて段階的に進めるという発想である。
5つの「動力プロジェクト」
今回示された5つのプロジェクトは以下の通りである。
- ビンズン-ホーチミン市-バリア・ブンタウを結ぶ広域鉄道軸
- サイゴン川・ドンナイ川の戦略的河川回廊
- ガンライ湾の統合的開発
- バウバン・スマート工業都市
- 西部の新都市開発
このうち、広域鉄道軸と河川回廊が都市圏を結ぶ「2つの戦略的回廊」となり、ガンライ湾、バウバン、西部都市が新たな経済・都市開発の「3つの動力拠点」と位置付けられている。
つまり、都市の中心部だけを拡張するのではなく、複数の成長拠点をつくり、それらを交通・物流インフラで結ぶ構造である。
「一極集中」から多極型都市へ
今回の都市計画では、「多極型」「つながる都市」「持続可能で暮らしやすい都市」の3つが重要な方向性となっている。
多極型都市とは、現在の中心市街地だけに雇用や産業、サービスを集中させるのではなく、各地域に異なる役割を持つ成長拠点を形成する考え方である。
新たな拠点には、雇用、工業、物流、住宅などを配置し、中心部への過度な人口・交通集中を抑える。
さらに、各拠点を鉄道や道路などで直接結ぶことで、中心部を経由しなくても拠点間を移動できる都市構造を目指す。
もう一つの柱が、河川、湿地、農地、緑地などを都市構造の一部として組み込むことである。
経済成長だけでなく、自然環境や生活環境を含めて都市の価値を考えることが、100年という長期計画では重要になる。
鉄道が巨大都市圏の「背骨」に
5つのプロジェクトの中でも、広域鉄道軸は特に重要な位置を占める。
これは単に移動時間を短縮するための交通インフラではない。雇用拠点、工業団地、新都市、TODなどを鉄道で結ぶことで、多極型の都市構造を実際に機能させる役割が期待されている。
現在の構想では、主に2つの都市鉄道回廊が想定されている。
一つはタンウエン-ホーチミン市中心部-ブンタウを結ぶルート。もう一つはバウバン-ホーチミン市中心部-カンザーを結ぶルートである。
さらに、ブンタウとバウバンを結ぶ国鉄の貨客両用路線も組み合わせる構想となっている。
現段階では、どの区間から建設するかについて固定された優先順位は示されていない。ただし、輸送需要が大きく、主要な雇用拠点や都市を結ぶ区間は優先的に検討する必要があるとされる。
重要なのは、先に建設する区間だけで完結させないことである。
将来的な相互接続を可能にするため、線路幅、電力供給、信号・列車制御、車両サイズ、ドア位置、ホーム長などを計画段階から統一的に検討する必要がある。
ガンライ湾を「港湾都市」へ
もう一つ注目されるのが、ガンライ湾を新たな成長拠点として位置付ける構想である。
同地域には、カイメップ港、物流網、フーミー周辺の工業・エネルギー産業、バリア、ブンタウ、カンザーなど、すでに多くの経済資産が存在する。
さらに、ロンタイン空港や広域鉄道網との接続も期待されている。
ここで特徴的なのは、単純に工業団地や港湾を拡大するのではなく、「雇用が都市化を先導する」という考え方である。
まず自由貿易地域(FTZ)、港湾、物流、工業などの経済基盤を形成し、その上で公共交通、TOD、住宅、教育、医療、商業、公共サービス、公園などを整備する。
つまり、「住宅を先につくって人を呼ぶ」のではなく、「仕事が生まれ、その周辺に都市が形成される」という順序である。
横浜・みなとみらいが参考事例に
この構想を説明する際、日建設計ベトナムが参考事例として挙げているのが、日本の横浜市である。
横浜では、港湾・工業地域の一部を再開発し、みなとみらい地区という大規模な都市拠点を形成した。
ガンライ湾についても、港湾、物流、工業という既存の経済力を維持しながら、それを都市開発の原動力へ転換することを目指す。
フーミー-カイメップ周辺は海洋経済、FTZ、物流の拠点、ロンソンは工業・エネルギー関連、ゴーガンは新たな交流拠点、ブンタウは都市・サービス機能、カンザーは観光・生態系機能というように、それぞれ異なる役割を持たせる考え方である。
目指しているのは、港湾、工業団地、都市がそれぞれ独立して存在する状態から、相互に機能する一つの成長拠点へ転換することである。
100年計画の焦点は「何をつくるか」だけではない
ホーチミン市の100年都市計画で注目すべきなのは、単に新しい道路や鉄道、工業団地をどこにつくるかという話ではない。
複数の都市拠点を形成し、それを鉄道や河川などのネットワークで結び、港湾・物流・産業と都市生活を一体化させることで、拡大した都市圏全体を一つのシステムとして機能させようとしている点にある。
100年という期間は非常に長い。しかし、その中で鉄道、港湾、産業、住宅、自然環境を別々に整備するのではなく、相互に関連付けながら都市圏の構造を変えていくという考え方は、今後のホーチミン市を理解する上で重要なポイントとなりそうである。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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