ベトナム南部のフーコック島で、2027年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)開催に向けた大規模インフラ整備が進んでいる。国際会議・展示施設やホテル群、空港ターミナル、道路、軽量軌道交通(LRT)など複数のプロジェクトが同時に進行し、雨季の厳しい天候下でも工事が続けられている。
今回の整備で注目されるのは、施設の規模だけではない。ベトナム国内企業が空港や道路、鉄道関連の施工で中心的な役割を担い、技術力やプロジェクト管理能力を高めている点だ。APECを一時的な国際イベントで終わらせず、フーコック島の観光競争力やベトナムの国際的な認知度を長期的に高める機会にできるかが焦点となる。
雨季でも工事が続く、APEC関連施設とホテル群
アンザン省フーコック島では、雨季の激しい降雨が続くなか、APEC 2027に向けた建設工事が進められている。
ルビービーチ(Ruby Beach)のバイダットドー地区では、APECコンベンション&エキシビションセンターに隣接するホテル群の建設が進行中だ。海に面した17棟のホテルを整備する計画で、工事現場では数千人の技術者や作業員が交代制で作業に当たっている。各階の施工を3.5日で進めることを目標とし、年内に主要構造部分を完成させる計画だ。その後、電気・機械設備や給排水設備の工事を進め、内装などの仕上げ工程につなげる。
ホテル群は当初、約7,000室を供給する予定で、将来的には段階的な開発によって地区全体の客室数を約2万室まで拡大する構想もある。大規模な国際会議や団体客を受け入れる宿泊能力を確保し、フーコック島でMICE(会議・報奨旅行・国際会議・展示会)や高級リゾート観光を発展させる狙いである。
島の中心部では、APECコンベンション&エキシビションセンターと、4,030席を備える多目的公演施設の建設も進んでいる。公演施設は「龍の子と仙女の子」を象徴するデザインで、50本の大型鉄骨柱を採用する。
長雨の影響で工事用道路はぬかるみ、資材運搬車両の通行によって深い轍ができるなど、現場の環境は厳しい。それでも作業員は昼夜交代で作業を続け、建物外装の工事を進めている。内装工事の本格化を前に、外装を計画どおりに仕上げることが目標だ。
空港・道路・LRTを一体整備、島内交通の強化へ
APEC関連工事の重要な柱の一つが、フーコック国際空港の拡張である。
新設される第2ターミナルは、翼を広げる「火の鳳凰」をモチーフとした設計が特徴だ。7,600人を超える人員が工事に従事し、外装を覆う約9,500枚のガラスパネルの施工を進めている。また、全長3.3キロメートルの第2滑走路についても、短期間で工事が完了したとしている。
空港の拡張は、APEC参加者の受け入れに加え、国際線の拡充や将来的な観光需要の増加を支える基盤となる。
空港と南部地域を結ぶ幹線道路DT975でも、拡幅工事が進む。計画では道路幅を62メートルとし、10車線の自動車用車道を設ける。中央分離帯にはLRT専用の空間を確保する構想だ。施工業者は、2026年末から2027年初めにかけて道路両側のアスファルト舗装を進める計画で、重機やダンプトラックを大量に投入している。
道路に隣接する鉄道用地では、LRTのレール敷設や調整作業も進められており、2027年7月には最初の車両の試運転を行う予定だ。実現すれば、空港や観光施設を結ぶ島内交通の選択肢が広がり、環境負荷の低減にもつながる可能性がある。
APEC開催までに、宿泊施設だけでなく、空港、道路、公共交通を一体的に整備することで、大規模な国際イベントに対応できる交通・滞在環境を構築する考えである。
国内企業が施工の中核に、空港やLRTで技術力を発揮
今回の大規模工事で注目されるのは、ベトナム企業が重要な施工工程を担っている点である。
かつて高度な技術を要する空港ターミナルや滑走路、LRTなどの工事では、海外の大手請負企業への依存が大きかった。一方、フーコック島のAPEC関連プロジェクトでは、国内企業が総合請負や施工管理の役割を担い、主要工程を直接進めているという。
空港第2ターミナルでは、複雑な形状の鉄骨屋根や約9,500枚の外装ガラスパネルの施工に、ベトナム人技術者や作業員が携わっている。また、全長3.3キロメートルの第2滑走路についても約8カ月で工事を完了したとしている。海に囲まれた島の地形や天候への対応、機材や人員の確保、工程管理などが必要となる工事であり、国内企業の施工能力が試される案件となった。
道路DT975や島内初のLRTについても、基礎工事、舗装、地下の技術インフラ整備、レールの敷設・調整などを国内の技術者や作業員が担っている。現場では天候の変化に応じて施工方法を調整しながら、工程の維持を図っている。
こうした経験は、個々の工事の完成にとどまらず、ベトナム企業が今後の空港、鉄道、交通インフラ事業に参加するうえでの技術的な蓄積につながる可能性がある。ただし、特定のプロジェクトで施工を担ったことと、関連技術をすべて自国で開発・保有していることは別であり、長期的な技術力の評価には、設計能力や設備調達、保守運用まで含めて見る必要がある。
工期・資材価格・人材確保、同時進行の大型事業が直面する課題
複数の大型プロジェクトを同時に進める背景には、中央政府と地方政府、事業者、施工企業の連携がある。
2025年初めの着工以降、アンザン省や中央省庁は用地取得、建設資材の採掘許可、海上交通の調整などに関する課題への対応を進めてきた。現場で関係者が協議し、行政手続きや資材供給の問題を解決することで、工事の停滞を避けることを目指している。
一方、事業を取り巻く環境は厳しさを増している。ベトナム経済研究所の元所長であるチャン・ディン・ティエン准教授は、フーコック島で進む工事の規模と施工速度に驚きを示すとともに、地政学的な変動による燃料・資材価格の上昇や、労働力の確保が事業の進捗とコストに影響していると指摘した。
こうした状況で、事業者はフーコック島の工事に資源を集中させるため、ほかの一部プロジェクトの進捗を調整しているという。すでに契約を締結した事業で投入コストが上昇すれば、採算や工程の管理はさらに難しくなる。
ティエン准教授は、困難が増すなかでも工事のペースが維持されている背景には、関係者が共通の目標に向けて協力していることがあると評価する。また、今回の施設整備はAPEC開催時だけに使うものではなく、イベント後の地域発展を支える基盤として設計・活用されるべきだとの考えを示している。
APEC 2027を観光ブランド再構築の機会に
ベトナムがAPEC 2027の議長国を務める時期は、同国が生産性、品質、効率性、競争力を重視した成長モデルへの転換を進め、2045年までの高所得先進国入りを目指す局面に重なる。
ティエン准教授は、フーコック島が国際的な指導者を迎えることには、単に一つの島を紹介する以上の意味があると指摘する。フーコック島がベトナムの自然、社会、産業発展への意欲を世界に伝える場となり得るためだ。
ただし、大規模な国際イベントを開催し、華やかな施設を整備するだけでは、その効果は限られる。イベント終了後に施設が十分に活用されなければ、投資に見合う成果を得られないおそれもある。そのため、APEC 2027をフーコック島の位置付けを見直し、ベトナム全体の国際的なイメージを高めるための出発点として捉える必要があるという。
ベトナム観光経済研究所のグエン・アイン・トゥアン所長も、APEC 2027はフーコック島が国際観光市場でブランドを再構築する貴重な機会になると述べる。
APECには各国の首脳や政府高官、企業経営者、専門家、報道関係者などが集まる。短期間に大規模な需要が発生するため、会議施設や高級宿泊施設に加え、物流、安全管理、医療、情報通信など幅広いサービスの対応力が求められる。国際メディアの注目を集めることで、開催後の観光需要につながる可能性もある。
トゥアン所長は、APECを一過性のイベントではなく、観光地の総合的な開発プロジェクトとして設計することが重要だと指摘する。フーコック島が持つ自然資源、観光インフラ、関連事業者の集積を生かし、国際的な観光、MICE、ナイトタイムエコノミー、環境に配慮した観光の拠点を目指す考えである。
APEC 2027に向けた大規模投資が、国際会議の開催能力や交通の利便性を高めるだけでなく、観光客の滞在期間や消費、民間投資の拡大につながるかどうかは、イベント後の施設運営や観光サービスの質にも左右される。
フーコック島で進む一連のプロジェクトは、ベトナム企業の施工能力を示す機会であると同時に、インフラ投資を地域の長期的な成長へ結び付ける試金石でもある。工事の完成に加え、施設を継続的に活用し、国際観光市場での競争力を高められるかが、APEC 2027後の成果を左右することになる。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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