ベトナムの電気自動車(EV)市場で、海外メーカーの参入が相次いでいる。米テスラ(Tesla)がベトナム法人を正式に設立したほか、中国のBYD、Chery、Geelyなども販売網の拡大や現地生産に乗り出している。
背景にあるのは、ベトナム国内で急速に拡大するEV需要である。国内メーカービンファスト(VinFast)が販売を大きく伸ばす一方、充電インフラの整備も進み、ベトナムは東南アジアにおけるEV市場の成長拠点の一つとなりつつある。
テスラがベトナム法人を設立
ベトナム国家企業登録ポータルの情報によると、Teslaは9月11日、ホーチミン市のメーリンポイントタワーに本社をおく「Tesla Motors VN」を設立した。
資本金は776億6,700万VND(約300万USD)で、事業内容として自動車の卸売・小売、輸入・販売のほか、自動車部品や関連サービスを登録している。
業界関係者によると、今回の法人設立はベトナムでの正規販売網やアフターサービス体制を構築するための法的・市場調査上の基盤づくりとみられる。今後はテスラの急速充電網「Supercharger」の展開に向けたインフラ調査も進む可能性がある。
テスラの正式参入によって、ベトナムのEV市場では世界的メーカーを巻き込んだ競争が一段と激しくなることが予想される。
中国EV大手も相次いでベトナムへ
テスラに先行して、ベトナムでは中国メーカーによるEV市場への参入が進んできた。
SAIC Motorは2023年半ばからMGブランドを通じて電動化車両を投入。その後、TMT Motorsが小型EV「Wuling HongGuang Mini EV」の販売を開始し、低価格帯を開拓した。
2024年半ばには、中国EV大手BYDがベトナム市場に正式参入。その後、販売店を相次いで開設し、ハッチバック、セダン、SUVなど幅広い車種を展開している。
さらにCheryはOmoda、Jaecooの2ブランドを投入し、Geleximcoと組んでベトナムでの車両組立工場を建設している。
GeelyもTascoと合弁で北部のニンビン省における車両組立事業を進めているほか、GAC GroupやHavalを展開するGreat Wall Motorも、ハイブリッド車やEVのラインアップ拡充を進めている。
海外メーカーの動きは、単純な完成車輸入から、現地組立や販売・サービス網の構築へと広がりつつある。
ビンファスト(VinFast)が国内EV市場を牽引
海外メーカーを引き寄せている最大の理由は、ベトナム国内のEV需要そのものが急速に拡大していることだ。
国内メーカービンファスト(VinFast)は、2026年8月までにEVの累計引き渡し台数が15万4,073台に達した。8月単月でも2万161台を引き渡し、24カ月連続でベトナム国内の乗用車販売首位を維持したという。
8月の販売上位には、VinFastの「VF 3」「VF 5」「Limo Green」「VF 6」が入り、EVが市場全体の販売上位10車種のうち4車種を占める結果となった。
ハイブリッド車も前年同期比65%増となり、販売台数は約1万4,000台に達している。
市場調査会社などからは、ベトナムのEVへの移行速度は東南アジアでも速い部類に入るとの見方が出ている。若い人口、高い都市化率、中間所得層の拡大に加え、充電インフラの整備が進んでいることが背景にある。
政府が温室効果ガス排出削減を掲げていることも、自動車メーカーにとってベトナム市場の魅力を高める要因となっている。
EV購入を後押しする政策も継続
EV市場の拡大を支えているのが、政府による購入支援策である。
ベトナム政府は、バッテリー式EVの初回登録料を0%とする措置を2030年末まで延長することを決定した。
例えば車両価格が10億VNDの場合、通常の10~12%の登録料と比較すると、購入時の負担を1億~1億2,000万VND程度抑えられる計算となる。
ホーチミン市経済財政大学のチャン・アイン・トゥン氏は、現在のベトナムには、EV市場が新興市場として成長するための条件が同時にそろっていると指摘する。
需要の急拡大、継続性のある政策、そして一定規模に達し始めたEV関連のエコシステムである。
「車が増えれば充電網も増える」好循環
同氏が注目するのが、EVの普及と充電インフラの間に生まれる「ネットワーク効果」である。
EVの台数が増えれば充電ステーションへの需要が増える。充電網が広がれば、消費者がEVを購入する際の不安が小さくなる。EVの販売が増えれば、メーカーによる生産・組立や輸入も拡大するという循環である。
ベトナムでは、この循環がすでに一定程度形成され始めている。
一方、海外メーカーにとっては、ここに大きな課題もある。
車両そのものの性能だけでなく、価格、充電インフラ、アフターサービスを同時に整備する必要があるためだ。
車両が優れていても充電場所が少なければ販売は伸びにくい。販売台数を増やしても、交換部品の供給に時間がかかれば顧客満足度や中古車価格に影響する。
また、完成車をすべて輸入する方式では、ベトナム国内で大規模な生産・販売網を構築する企業との価格競争が難しくなる可能性もある。
1000万人ではなく「1億人市場」の先を見据える
ベトナム市場の魅力は、すでにEV市場が大きいことだけではない。今後の自動車需要そのものに大きな成長余地があることも重要である。
人口1億人を超える一方、ベトナムの自動車保有率は域内の先進市場と比較してまだ低い。
今後10~15年間で所得水準が上昇し、自動車需要が拡大すると同時に、交通政策が環境対応車へと移行すれば、新たに増える自動車需要がガソリン車ではなくEVへ直接向かう可能性がある。
海外メーカーにとっては、この将来需要をどの段階で取り込めるかが重要になる。
国内企業をどう育てるかが次の課題
ただし、海外メーカーの参入が増えるほど、ベトナムにとって新たな課題も浮かび上がる。
トゥン氏は、外国メーカーの参入を制限すれば消費者にとって車両価格の上昇や選択肢の減少につながる一方、産業形成期に完全な中立政策を取れば、ベトナムが大きな消費市場であるだけにとどまり、自動車産業から生まれる付加価値の多くが海外に流れる可能性があると指摘する。
そのため、国内企業の技術力や生産能力を高める政策が必要だとの考えを示している。
例えば、現地調達率30%を達成した企業に一定の支援を行い、40~50%を超えれば支援を拡大する仕組みや、ベトナム国内での研究開発、エンジニア育成、バッテリー・モーター・インバーターの生産、国内部品メーカーからの調達などを税制面で支援する方法が考えられるという。
EV競争は「販売台数」から産業競争へ
ベトナムのEV市場では、これまでビンファストが国内市場を急速に開拓してきた。そこへテスラやBYDなど世界的メーカーが加わり、競争の舞台は販売だけではなくなりつつある。
価格、車種、販売網、充電インフラ、アフターサービスに加え、現地生産、部品調達、研究開発、人材育成まで含めた産業全体の競争へと移行しつつある。
EV市場の拡大を、単に「海外メーカーが車を売る市場」とするのか、それとも国内の製造業や技術基盤を育てる機会につなげられるのか。テスラの参入は、ベトナムの自動車市場にとってだけでなく、今後の電動化産業の形成という意味でも一つの転換点となりそうである。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
ベトナム進出支援LAI VIEN





























