ベトナムでは、都市鉄道や高速鉄道などの整備計画が相次いで進むなか、鉄道関連の製造業や技術サービスを国内で育成する動きが広がっている。ホアファット・グループはレールや特殊鋼の生産設備に投資し、THACOは韓国企業との協業を通じて鉄道車両の製造能力を高めようとしている。
鉄道整備は交通インフラの拡充にとどまらず、部品製造、設計、建設、技術検証、保守、人材育成など幅広い分野に需要を生み出す可能性がある。一方、国内生産を拡大するには、技術移転や人材育成に加え、事業の継続性や経済合理性を踏まえた政策設計が課題となる。
相次ぐ鉄道計画、南北高速鉄道も2027年12月の着工を目指す
ベトナム鉄道局はこのほど、ホーチミン市の鉄道ネットワークと主要駅に関する計画案を建設省に提出し、審査・承認を求めている。
計画では、既存路線1路線と新設7路線の計8路線を整備する方針である。新設路線は複線、軌間1,435ミリメートルを想定し、ホーチミン市内や周辺地域に加え、カントー市、カマウ省、タイニン省などとの接続を目指す。新設7路線の投資総額は544兆VND超(約208億USD)に上る見込みだ。
ハノイ市でも、都市鉄道(メトロ)5路線を一括して整備する計画が進んでいる。ターンキー方式の契約締結や前払いなどを通じて事業を進め、2030年までの完成を目指す。公共交通の輸送能力を高めるとともに、交通インフラを整備し、都市の発展余地を広げる狙いである。
地方でも鉄道計画が具体化しつつある。フーコック島では、2027年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)開催に向け、空港と国際会議場を結ぶ軽量軌道交通(LRT)の整備が進められている。投資額は約9兆VNDで、サングループがBOT方式で事業を担う。
ダナン市では、2026~2030年にキムリエン駅とリエンチウ港湾地区を結ぶ貨物輸送用の鉄道を整備する計画がある。また、ダナン国際空港からホイアン、タムキー、チューライを結ぶメトロ路線は、2027年2月の着工が予定されている。
さらに、総投資額670億USD超とされる南北高速鉄道についても、建設省は2027年12月の着工を目指して取り組む方針を示している。これらは計画や目標を含むものであり、今後の事業化や実際の進捗が重要となる。
鉄道産業コンプレックス構想、国内生産と技術基盤の確立へ
鉄道網の整備と並行して、政府は鉄道産業そのものを育成するための取り組みを進めている。
ファム・ザー・トゥック副首相は10月7日付の政府文書第1251/TTg-CN号に署名し、鉄道産業コンプレックスの事前実現可能性調査報告書の作成を指示した。
構想では、車両の製造・組み立て、修理、試験、人材育成などを担う約25の機能区画を設けることを想定している。国内で鉄道車両を組み立てる能力を段階的に形成し、国鉄や都市鉄道車両の国産化率を高めることが目的だ。将来的には、高速鉄道の運行・保守の一部を自国で担い、部品や交換用部材の生産能力も確立することを目指す。
鉄道分野の構造設計や交通インフラのコンサルティングを手掛けるポンテック社のレー・ダン・コア社長は、ベトナムには鉄道網を拡大するだけでなく、国内の産業・技術サービスのエコシステムを形成する機会があると指摘する。
重要なのは、個々のプロジェクトの規模だけではない。複数の事業が継続的に実施され、企業が蓄積した技術や経験を次の案件に引き継げるかどうかである。政府の支援策を具体的な計画や業務範囲に落とし込み、企業が人材、研究開発、専門技術に長期投資できる環境を整える必要があるという。
ベトナム企業が参入できる領域は、製造や建設に限らない。設計、コンサルティング、技術検証、運行、保守など、鉄道のバリューチェーン全体に広がる可能性がある。各社が既存の強みを生かし、プロジェクトごとに経験を蓄積することで、より高度で付加価値の高い業務を担えるようになることが期待される。
2050年までの市場規模は2,300兆VND超との試算
ベトナム商工省産業局の試算によると、鉄道産業の市場規模は今後、2050年までに累計2,300兆VNDを超える可能性がある。鉄道は将来の交通システムを支える基幹インフラであり、関連産業への波及も大きいとみられている。
実際、国内企業は将来の鉄道プロジェクトへの参入に向け、製造能力や海外企業との協業体制の整備を進めている。
鉄鋼大手のホアファット・グループは、ズンクアットにレール・特殊鋼工場を建設するため、1兆VNDを超える投資を行っている。設計生産能力は年間70万トンで、レール関連部品の生産にも事業を広げ、鉄道サプライチェーンへの参入を目指す。
車両分野では、THACOが韓国のヒュンダイ・ロテム(Hyundai Rotem)との協業を通じて、国内生産能力の構築を進めている。協力内容には機関車・鉄道車両162両の供給に加え、技術移転と国産化が含まれる。また、同社はホーチミン市で320ヘクタール規模の鉄道・汎用機械工業コンプレックスの開発も進めている。
ホーチミン市工科大学の産業経営学部長、ズーン・ニュー・フン博士は、鉄道産業が経済全体に波及効果をもたらす可能性を指摘する。交通の利便性が高まれば、人の移動や企業活動が円滑になり、経済成長を後押しする。また、大規模プロジェクトへの参加は、国内企業が設備投資や技術開発、経営管理、生産体制の改善を進める契機にもなる。
鉄道事業で蓄積した技術や経験は、他の産業やプロジェクトにも活用できる。国内企業が技術力と競争力を高め、海外企業との競争や国際サプライチェーンへの参入に備えるうえでも、鉄道産業の育成には意味がある。
建設後も続く需要、保守・部品供給が長期市場に
鉄道関連の事業機会は、路線の建設や車両の納入で終わるわけではない。運行開始後も、設備の点検、保守、修理、部品交換、機器の更新が継続的に必要となるため、国内企業にとって長期的な市場となる可能性がある。
大学や職業訓練機関、研究機関にとっても、実際の産業需要に沿った教育プログラムや研究テーマを発展させる機会となる。
フン博士は、鉄道産業政策では単純な国産化率だけを目標にするのではなく、サプライチェーン全体でベトナム企業が生み出す付加価値を段階的に高めることが重要だと指摘する。
ベトナムが長期的な競争力を確立できる分野を見極め、そこに投資や技術開発を集中させる必要がある。十分な生産能力がない製品について一律に国産化を求めれば、コストが膨らみ、プロジェクト全体の効率を損なうだけでなく、政府予算への負担も増えるおそれがある。
国内企業の参入を促す分野を選び、技術力や経営能力の向上を支援しながら、鉄道システム全体の経済性、品質、安全性を確保することが求められる。重要なのは、何でも国内生産に切り替えることではなく、鉄道投資を実質的な産業能力の形成につなげることである。
技術移転を実務に結び付け、人材と企業の能力を蓄積
鉄道産業を持続的に発展させるには、技術移転を契約上の形式にとどめず、国内企業が実際に何を習得し、どの業務を自力で担えるようになるのかを明確にする必要がある。
ポンテック社のコア社長は、ベトナム企業には国際プロジェクトへの参加を通じて培った基盤があるものの、設計、インフラ建設、車両、設備、各種技術システムでは必要な能力が異なると説明する。
まず、輸送需要に応じて技術や方式を選定し、安全性と効率性が検証されたソリューションを優先することが重要である。建設費だけでなく、運行、保守、設備交換、将来の拡張まで含め、ライフサイクル全体で評価する必要がある。
次に、複数の企業や技術分野を統合して管理できる体制が欠かせない。プロジェクト全体を統括する能力を持つ主体に加え、専門分野を担う企業、技術標準、試験・品質検証の基盤が必要となる。設計段階から技術上の接続部分や責任範囲を調整することが、品質と事業全体の効率を確保するうえで重要だ。
さらに、技術移転や人材育成は、実際の業務と検証可能な成果に結び付けなければならない。ベトナム企業がどの技術を習得し、どの作業を担当し、協業終了後にどこまで自立して実施できるのかを具体化する必要がある。研究開発を優先分野に集中させ、プロジェクトの発注計画や実施制度にも能力形成の目標を組み込むことが求められる。
プロジェクト管理、財源、技術依存への対応も課題
フン博士は、鉄道産業を育成するためには、複雑なプロジェクトを調整・推進できる経験豊富な中核組織が必要だと指摘する。関係者間の調整や管理が不十分であれば、工期の遅延や建設費の増加を招き、投資効果が低下するおそれがある。
財源の確保も課題の一つである。鉄道の整備によって駅周辺や沿線の土地価値が上昇する可能性があるため、都市計画と一体的に開発を進め、土地価値の上昇によって生じる利益の一部をインフラに再投資する仕組みも検討すべきだという。公共投資による利益が土地所有者などに偏ることを避け、インフラ整備に還元する考え方である。
また、高速鉄道では、運行開始後も保守・修理・設備交換に多額の費用が必要となる。海外の供給企業に技術面で全面的に依存すれば、国内での対応力が限られ、将来の費用管理も難しくなりかねない。そのため、契約段階から技術移転、人材育成、国内企業による部品生産や保守・修理への参加条件を具体的に定める必要がある。
大学や研究機関と企業を結び付け、実際のプロジェクトに必要な専門人材を育てる体制も不可欠である。フン博士は、高速鉄道の技術にはベトナムが実務経験を十分に蓄積していない分野も多いとし、教育機関にはプロジェクトの需要や技術移転の過程に対応したカリキュラムの整備が求められると述べる。あわせて、技術、資金、プロジェクト管理の経験を持つ民間企業や海外投資家の参加も重要になる。
ベトナムの鉄道整備は、交通インフラの拡充と国内産業の育成を同時に進める機会となり得る。ただし、その成果は投資額や国産化率だけでは測れない。国内企業が技術を身に付け、保守や部品供給を含む長期的な事業に参加し、次のプロジェクトへ経験を引き継げる仕組みを構築できるかどうかが、今後の重要な焦点となる。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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