ベトナム政府がマンションの使用期限を建築物の耐用年数に合わせて明確化する方向で、住宅法改正案の検討を進めている。
注目されているのは、単に「何年使えるのか」という問題ではない。建物が使用期限を迎え、取り壊して建て替えることになった場合、マンションを所有する住民の土地に対する権利や、建て替え後の住宅、費用負担などをどう保障するのかが大きな焦点となっている。
政府がマンションの使用期限を明確化へ
ベトナム政府は2026年9月18日、9月の法整備専門会合に関する決議278号を公布した。
住宅法改正案について政府は、マンションの使用期限を建築物の耐用年数に基づいて定め、建設関連法令における建築物の使用期間との整合性を確保するよう建設省に求めている。
同時に、使用期限を迎えたマンションの処理方法についても明確化する方針である。具体的には、所有者がマンションを建て替える際に土地使用権を継続して利用する権利や、新しいマンションを建設するために必要な費用を負担する義務などを明確にすることが求められている。
ただし、これは現時点で新制度がすべて確定したことを意味するものではない。政府は住宅法改正案の内容をさらに整備するよう求めており、今後の法案審議によって具体的な制度設計が決まることになる。
「使用期限」と「所有権」は同じなのか
今回の議論で、多くのマンション所有者が気にしているのがこの点である。
マンションについて「建物としての使用期限」が定められた場合、それがそのまま「期限を迎えれば所有者の財産権が消滅する」という意味になるのかという問題である。
現在の議論では、この二つを明確に区別することが重要になっている。
2023年の住宅法でも、マンションの使用期限については設計書や実際の建物の状態を基に判断する仕組みが設けられている。使用期限を迎えた場合でも、建物の状態を検査し、安全性を確認する手続きが想定されている。
今回の改正議論では、これをさらに整理し、建物の耐用年数と、その後の建て替えなどの取り扱いを明確にする方向となっている。
老朽マンションの建て替えを阻む問題
背景には、ベトナム各地で進められてきた老朽マンションの建て替えが、必ずしも円滑に進んでこなかった事情がある。
専門家のボー・ニャット・リェウ氏は、過去に老朽マンションの改修・建て替えに関する事業に携わった経験から、建物が老朽化して安全上の問題を抱えていても、所有者間の合意形成などが大きな障害になってきたと指摘する。
特に、所有者の一部が「自分の住宅は永久に所有できる」と考え、建て替え時に従来の住宅より高い補償を求めるケースなどでは、少数の所有者の不同意によってプロジェクト全体が長期間停滞することもあったという。
マンションの使用期限と建て替えのルールを明確にすることは、こうした問題を解消し、老朽化した建物を安全な住宅へ更新するための制度的な基盤にもなり得る。
建物を取り壊しても土地の権利はどうなるのか
一方、所有者にとって最も重要なのが土地の扱いである。
ベトナム不動産協会のTran Quoc Dung副会長は、マンションの使用期限を建物の耐用年数に基づいて定めること自体は必要だとしながらも、期限を迎えた後に所有者の財産権をどのように保障するかが重要だと指摘する。
同氏が示す考え方では、建物の使用期限が終了したことだけを理由に、土地使用に関する権利まで自動的に消滅させるべきではない。
安全性が確保され、都市計画上も問題がなければ、建物を直ちに取り壊すのではなく、検査結果に基づいて継続使用する余地も必要となる。
一方、安全上の問題がある場合や都市計画によって建て替えが必要となる場合には、取り壊して新しいマンションを建設するという流れになる。
建て替え後の住宅は誰のものになるのか
マンションを建て替える場合、次に問題となるのが新しい建物の所有関係である。
専門家からは、既存所有者が建て替え後の住宅を取得する場合の基準を明確にする必要があるとの意見が出ている。
単純に各世帯へ同じ面積の住宅を割り当てるのではなく、現在所有している住戸の面積や位置、土地に対する権利などを考慮して、新しい住戸や金銭的な権利を算定する仕組みが必要になる。
また、建て替えによって階数や延床面積を増やし、商業施設などを新たに設けられる場合には、そこで生まれる追加的な資産価値を所有者と事業者の間でどのように配分するかも重要になる。
こうした追加価値は、民間企業が建て替え事業に参加するための経済的なインセンティブにもなる。
建て替え費用を誰が負担するのか
もう一つの大きな問題が建て替え費用である。
新しいマンションを建設するには当然ながら資金が必要となる。政府の今回の方針でも、所有者が新しいマンションを建設するために必要な財政的義務を負うことについて、明確なルールを設けることが求められている。
専門家からは、費用負担を住戸面積や土地使用権の価値、建設費などを基に算定する仕組みが提案されている。
同時に、資金を一括で負担できない所有者に対して、分割払い、適切な融資、一定の条件下での支援などを検討する必要があるとの意見も出ている。
建て替え期間中の仮住まいについても、誰が費用を負担するのか、工事が遅れた場合にどのような補償を行うのかなど、具体的なルールが必要となる。
全員の同意が必要なのか
マンション建て替えでは、所有者全員が同意しなければ進められないのかという問題もある。
チャム・クオック・ズン氏は、管理組合などの法的に認められた代表組織が、建て替え計画を選択し、事業者と交渉・契約できる権限を持つ必要があると指摘する。
その上で、建て替えのために100%の所有者の同意を必要とするのではなく、適切な議決割合を設定し、反対する所有者がいる場合の処理方法も制度として定める必要があるとしている。
これは、所有者の財産権を守りながら、少数の反対によって建て替え事業全体が長期間停止する事態を避けるための制度設計となる。
最終的な調整役としての政府
それでも所有者と事業者の間で合意できない場合はどうするのか。
専門家からは、最終的な調整メカニズムを政府が用意する必要があるとの意見も出ている。
例えば、交渉や入札、事業者選定などを行っても合意に至らず、事業が長期間停滞した場合には、独立した評価機関によって所有者の権利価値を算定し、法令に基づいて買い取りや土地の処理を行った上で、別の事業者を選定する仕組みなどが考えられる。
ただし、この場合も政府が建て替え費用を全面的に負担するという考え方ではない。政府の役割は、所有者の財産権を保護し、当事者間の交渉だけでは解決できない問題を処理し、必要な場合に事業者を選定できる制度を整えることにある。
「マンションの期限」が意味するもの
今回の住宅法改正をめぐる議論は、「ベトナムではマンションが何年でなくなるのか」という単純な話ではない。
重要なのは、建物の使用期限が到来した後に、所有者の財産権をどのように維持しながら建て替えを進めるのかという点である。
政府はマンションの使用期限を建築物の耐用年数に合わせて明確化するとともに、期限到来後の処理、土地使用権、建て替え費用などについて制度を整備する方向を示している。
一方、具体的な費用負担、所有者間の合意形成、建て替え後の住戸や土地の権利、仮住まい、事業者の利益配分など、実際の運用に直結する部分にはなお制度設計が必要である。
ベトナムでは都市部を中心にマンションが増加しているだけに、今回の住宅法改正は、「マンションを購入した後、数十年先に何が起きるのか」という住宅所有のあり方そのものに関わる問題となっている。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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