4年前、ホーチミン市に住むトゥー・タオさん(24歳)は、母親からタトゥーを入れに行こうと誘われて愕然とした。
「私の両親は伝統文化を大事にする人たちなので、自分の耳を疑いました。しかも母親は学校の先生でした」とタオさんは話す。当時、タオさんは入れたいタトゥーの絵を集めていたが、両親に反対されるのを恐れてそのままにしていた。いつか安定した仕事が見つかったら両親にタトゥーを入れたいと相談しようと思っていたのだ。
その後、母娘でカウンセリングを受けた時に笑顔マークのステッカーを渡されたタオさんの母親のトゥー・フーンさん(44歳)は、その絵柄が気に入って「面白からこのタトゥーにしようか」と娘に言った。
母娘がタトゥーを入れて家に帰ってきたとき、タオさんの父親は「痛かったか?」と尋ね、「2人が嬉しいのならそれでいい」と話した。
両親からタトゥーの許可が出たのち、タオさんはタトゥーを入れるのが趣味になった。あれから4年、タオさんの腕には手のひらサイズのタトゥーが5つ入っている。
12月末のある日、13歳の少年がレ・ズーン・タインさん(30歳)が経営するメコンデルタで最大のタトゥースタジオにやってきた。タインさんは、タトゥーは18歳以上か親が同伴している人にしか入れないと断った。翌日、少年は父親だという男性を伴って再び店に来た。「タトゥーは芸術です。うちの子はタトゥーが大好きなので、是非入れてやってください」と父親を名乗る男性は話した。
少年が父親の身代わりになる人を雇ったのではないかと疑ったタインさんは、少年の母親にも電話して確認した。すると母親は「あなたがやらないなら別の店に行くだけよ。だって子供と約束したんだもの」と電話口で答えた。
少年の両親が同意していると確信したタインさんは、少年の希望通り、脚全体にドラゴンのタトゥーを入れた。
心理学者のホン・フーン氏(子供の権利保護委員会)は、最近では親が子供のタトゥーを容認することは珍しくないと話す。中には、タオさん母娘のように二人で一緒にタトゥーを入れることもある。
フーン氏は、外見はその人の性格、スタイル、そして場合によっては感情を示すものではあるが、それだけでその人の人格を評価することはできないと指摘する。一部の保護者はそのことを理解しており、タトゥーを差別したり、子供にタトゥーを禁止したりしないのだ。
「社会規範は時代と共に変化し、流行はうつろいます。柔軟な親というのは、ある世代の規範をそのまま他の世代に押し付けないのです」とフーン氏は話す。
タトゥーアーティストとして10年以上活動してきたレ・ズーン・タインさんは、ベトナム人のタトゥーに対する考え方は2017~2018年ごろから大きく変化したと話す。自分のタトゥーをSNSに投稿することをためらわない人が増え、周りの人もそれほど厳しい目で見ることが無くなってきた。
「私の若いころは、小さな星のタトゥーを入れただけで母親に叩かれました。今では、子供たちがタトゥーを入れるのに付き添ってくるだけでなく、子供にタトゥーアートを学ばせようと連れてくる両親や祖父母も少なくありません」とタインさんは話す。
ブリティッシュ・カウンシルが2020年に発表したベトナムの若者世代意識調査によれば、回答者の75%が親が自分の人生を生きるための基礎を作り、独立心と自立心を与えてくれたと感じている。「調査に参加した若者たちは、親が以前より自分たちに干渉しなくなったと感じている。また、親たちも以前よりも子供の自主性を尊重するようになっている」と報告書には記載されている。
ホン・フーン氏は、親が子供のタトゥーをサポートすることは、親子の絆を深めるだけでなく、親が子供にタトゥーの絵柄や安全なインクの選び方を指導したり、子ども自身の人生にタトゥーがどのような影響を与えるかを考えさせることにもつながると話す。
ニュージーランド在住の作家であるチェリー・ブー氏は、長男は18歳の時にタトゥーを入れ、次男は16歳でタトゥーを入れたと話す。
長男はロックが大好きで、両腕にびっしりタトゥーが入っているそうだ。次男は、未成年のときに母親同伴でタトゥーを入れた。次男が初めて入れたタトゥーは子供の頃に大好きだったアニメのトムとジェリーのキャラクターだった。その後、次男は母親の名前(チェリー)にちなんで桜の絵柄とお気に入りのアニメキャラクターであるひつじのショーンのキャラクターのタトゥーを入れた。
「私は子供たちに後で後悔しないようによく考えてタトゥーの絵柄を選ぶように伝えました」とチェリー・ブー氏は話す。
これまでのところ子供達は二人とも自分で選んだタトゥーの絵柄を後悔したことはないそうだ。
チェリー・ブー氏によれば、ニュージーランドでは誰もが自分を表現する自由があり、社会がタトゥーの良し悪しを判断することはない。実際、チェリー・ブー氏の長男は、体中にタトゥーが入っているが政府機関の上級顧問を務めている。彼のタトゥーを見るたびに、人々はその意味やなぜそのタトゥーを選んだのかを尋ねてくる。
ベトナムでは、ここまでオープンな人はまだ少ない。「ベトナムでは、子供にタトゥーを禁じている親も少なくないと思います。ただ、それは子供をサポートしていないのではなく、子供が社会から偏見を持たれたり、将来に悪影響が出ることを恐れているからです」とチェリー・ブー氏は話す。
VnExpressが2000人近くの読者を対象に実施した調査では、50%近くの人が体にタトゥーを入れている人と一緒に働きたくないと回答している。仕事や人生に悪影響があるとして、後からタトゥーを消そうとする人も多く存在する。
ホーチミン市のタム・アン総合病院では、2024年に毎月平均130~150人のタトゥー除去の相談を受けており、これは2023年から30%増だという。タトゥーを除去したいと病院に来る人の年齢は15~35歳が殆どで、大部分が男性だ。
「彼らは、タトゥーが自分の仕事や学業、人間関係に悪影響を及ぼしたり、今の自分には合っていないときに、後悔や不安を感じるのです」とタム・アン病院美容皮膚科のクアック・ティ・ビック・バン医師は話す。
一方でチェリー・ブー氏は、親たちに対してタトゥーを道徳的な問題ととらえず、子供が充分に成長したら個人の意見を尊重してあげるようにアドバイスする。美の概念は徐々に変わっている。タトゥーも芸術の1つである。 「むやみに禁止しても誰も幸せにならず、子供との絆も失われてしまいます。結局のところ、子供の身体は子ども自身のものなのです」とチェリー・ブー氏は述べた。
心理学者のホン・フーン氏は、若者たちに対して自分の個性を表現することは大切だが、自分自身を成長させ社会の発展に貢献するために、自分の置かれた状況や仕事の内容などに応じて、適切なタトゥーを入れるように考える必要があるとアドバイスしている。
親には、子供達が35歳になったときのビジョンを”友人や人間関係はどうなっている?”や”健康状態はどうなっている?”、”財産の状況は?”、”行きたい場所はどこなの?”、”築きたい家庭はどのようなものでどんな役割を果たしたい?”といった質問を子供にすることで浮き彫りにさせることを勧める。
自分が35歳になったときをイメージできれば、今タトゥーを入れるべきかどうか、若者は自分で判断できるはずだ。
出典:2025/01/16 VNEXPRESS提供
上記記事を許可を得て翻訳・編集して掲載