ベトナム、外国投資誘致の新戦略を打ち出す
ベトナム共産党中央政治局はこのほど、外国投資経済の発展に関する第10号決議(10-NQ/TW)を公布した。トー・ラム書記長兼国家主席が署名した同決議では、外国直接投資(FDI)誘致の考え方を大きく転換し、単なる資本流入の拡大から「質の高い投資」の獲得へと舵を切る方針を示した。
「投資額重視」から「戦略的投資基盤構築」へ
決議では、外国投資経済を国家経済の重要な構成要素と位置付けている。資金供給のみならず、先進技術や現代的な経営手法、人材育成、市場拡大の面でも重要な役割を果たすと評価した。
また、従来の「資本を呼び込む」発想から脱却し、国家レベルの戦略的投資基盤を構築する方向へ転換する方針を打ち出した。
今後は行政区分ごとの誘致ではなく、産業クラスターやサプライチェーン、イノベーション・エコシステム単位で投資を呼び込む考えである。
さらに、国際金融センター、自由貿易区、工業団地、ハイテクパーク、イノベーションセンター、物流インフラ、データ・エネルギー基盤などと連携した外国投資エコシステムを整備し、多国籍企業による地域本部や研究開発(R&D)拠点の設置を促進する。
2030年までに最大3,000億USDのFDI誘致を目標
決議では2030年までの具体的な目標も示された。
ベトナムをASEAN有数の投資環境、競争力、イノベーション能力を備えた国へ押し上げることを目指し、登録ベースで2,000億~3,000億USDのFDI誘致を目標に掲げた。年間換算では400億~500億USDに相当する。
実行ベースの投資額についても1,500億~2,000億USDを目指す。
また、
- FDIの75%を先進国・先進経済圏から誘致
- フォーチュン500企業のベトナム進出数を30%増加
- 世界トップクラスのテクノロジー企業3社以上のR&D拠点誘致
- 地場企業約1万社を外資系企業のサプライチェーンへ参加
- 一次サプライヤーを500~1,000社育成
などの目標も盛り込まれた。
「次世代FDIモデル」を示した重要決議
元外国投資局長のファン・フー・タン氏は、今回の決議について「ベトナムの次世代FDIモデルを方向付ける戦略的文書」と評価する。
同氏は最大の特徴として、「より多くの投資を集めること」から「より質の高い投資を集めること」への転換を挙げた。
今後は投資額そのものではなく、技術移転、国内付加価値向上、イノベーション能力強化、産業高度化への貢献度が重視されるという。
FDI流入は引き続き過去最高水準
こうした政策転換のなかでも、ベトナムへのFDI流入は引き続き好調に推移している。
財政省外国投資局によると、2026年1~5月の登録FDI額は約250億USDとなり、前年同期比で約35%増加した。
実行額も97億5,000万USDと前年同期比9.6%増加し、過去5年間で最高水準を記録した。
投資資金はハイテク分野やグリーン経済分野へ向かう傾向が強まっている。
その代表例として、総投資額約22億USDとなるクインラップLNG火力発電所プロジェクトが5月に着工した。同施設は年間約115万トンの輸入LNGを使用し、国家電力システムへの供給拡大に寄与すると期待されている。
サムスンやイオンが示すベトナム市場の収益力
外国企業がベトナムを選ぶ理由の一つは高い収益性である。
韓国のサムスンはベトナムにおける最大級の成功事例として知られる。
2025年のベトナム事業売上高は約597億USDとなり前年比8%増加した。純利益は35億3,000万USDで前年比12%増加した。
タイグエン省のSamsung Electronics Vietnam Thai Nguyen(SEVT)だけでも約16億USDの利益を計上している。
現在、ベトナム国内工場はサムスングループ全世界売上高の約25.4%、連結利益の約10%を生み出している。
一方、日本の小売大手イオンもベトナム市場で安定した収益を確保している。ベトナムは日本国外において最も収益性の高い市場の一つとなっており、2024年度の利益は約730億~780億VNDとなった。
政治的安定が最大の強み
ホーチミン市経済大学ビジネス研究所のボー・スアン・ビン所長は、ベトナムが単なる投資先ではなく、高い利益を生み出せる市場であることをサムスンやイオンの事例が証明していると指摘する。
また、ベトナムの最大の強みとして政治・社会の安定性を挙げた。
FDI実行額が増加していることは、外国投資家がベトナム市場への長期的な信頼を維持している証拠であり、政治・社会リスクが低い投資先として認識されていることを示しているという。
グローバル供給網再編が追い風に
世界ではAI、半導体、バイオテクノロジー、グリーン経済、循環経済、エネルギー転換が急速に進展している。
これに伴い、多国籍企業はサプライチェーンを再編し、一国依存を避けるため投資先の分散を進めている。
政治的安定性と人材供給力を持つベトナムには大きなチャンスがある一方、各国との誘致競争も激化すると専門家は分析する。
イノベーションと資本市場整備が次の課題
専門家らは、今後の課題として既存FDI企業の高度化を挙げる。
単純組立型の事業から研究開発型へ移行させ、地域本部やグローバル本社機能をベトナムへ移転させるためには、イノベーション投資への優遇措置など新たな支援策が必要だと指摘する。
また、第10号決議では間接投資資金の規模が依然として小さいことも課題として認識されている。
国際金融センターの整備や株式市場の格上げなどを進めることで、FDIだけでなく投資ファンドやプライベートエクイティなどによる資金流入も拡大できるとの見方が示された。
ベトナムは「投資受入国」から「投資ハブ」へ
今回の第10号決議は、ベトナムが単なる製造拠点から、研究開発・イノベーション・金融機能を備えた投資ハブへ進化する方向性を明確に示した。
量的拡大から質的成長への転換が実現できれば、ベトナムはASEANにおける外国投資の中核拠点としての地位をさらに強化することになりそうだ。




















