ベトナムの労働市場で、大きな構造変化が進んでいる。
銀行や航空業界ではAI(人工知能)やデジタル化を背景に人員削減が進む一方、空港や高速道路などの大型インフラ事業や建設業では人材確保が急務となっている。
専門家は「仕事が減っているのではなく、求められる人材が変わっている」と指摘し、ベトナムの雇用市場は新たな局面に入ったとの見方を示している。
銀行業界で人員削減が加速
2026年第2四半期の決算では、多くの銀行で人員削減が確認された。
特にサコムバンクは半年間で3,738人を削減し、従業員数は約1万3,000人となった。同期間の人件費も約5%減少している。
このほか、
- VIB:約724人減
- BIDV:約406人減
- エクシムバンク:約516人減
など、複数の銀行が組織のスリム化を進めた。
一方で、VPBankやKienlongBank、Techcombank、MBBankなどでは新規採用も続いており、銀行業界全体が縮小しているわけではなく、人材配置の見直しが進んでいる状況だ。
AIとデジタル化が雇用構造を変える
専門家は、銀行業界での人員削減の背景として、AIやデジタル技術の普及を挙げる。
コールセンター業務や定型的な顧客対応、データ入力などは自動化が進み、従来より少ない人員で業務を遂行できるようになった。
その一方で、デジタル技術や高度な専門知識を持つ人材への需要は高まっており、企業は単純作業を減らし、高付加価値業務へ人材を振り向ける動きを強めている。
航空・建設業界では「人材争奪戦」
銀行業界とは対照的に、大規模インフラ事業では人材不足が深刻化している。
ロンタイン国際空港では現在約7,000人が建設工事に従事しているが、運営開始に向けて設備保守や空港運営、旅客サービスなど幅広い職種で採用を進めている。
給与は月額1,600万VND以上を提示するほか、職業訓練制度も整備し、再定住地域の住民を優先採用する方針を打ち出している。
民間企業も大規模採用を拡大
民間企業でも人材確保の動きが加速している。
ビングループはハノイで進める大規模都市開発などに向け、第1段階として2万人以上を採用する計画を発表した。
建設会社VinConsも約10万人規模の社員体制を構築したうえで、さらに建設・設備分野を中心に大量採用を継続している。
同社は未経験者も積極的に採用し、研修期間中も給与を支給するほか、無料の技能教育、社員寮、食事支給など手厚い福利厚生を打ち出している。
また、不動産大手ノバランドも法的手続きが整った開発案件の再開に合わせ、建設関連を中心に1,000人以上の採用を実施した。
「人を探す」から「人を育てる」時代へ
近年の特徴は、人材不足を背景に企業自らが人材育成へ投資し始めた点にある。
従来のように即戦力を奪い合うのではなく、
- 未経験者を採用
- 無料で技能教育を実施
- 研修期間中も給与を支給
といった制度を導入し、自社で必要な人材を育成するモデルが広がりつつある。
AIは仕事を奪うのではなく「仕事を変える」
専門家は、現在の状況を「雇用の縮小」ではなく、「雇用構造の転換」と分析する。
製造業や物流、電子商取引、観光、再生可能エネルギー、半導体などでは新たな雇用が生まれており、AIによって失われる仕事がある一方、新しい職種も次々と誕生している。
電子商取引を例にすると、店舗販売員が減少する一方で、EC運営、デジタルマーケティング、ライブコマース、動画制作、データ管理、物流など新たな職種が拡大している。
専門家は、「AIが人の仕事を奪うのではなく、AIを使いこなす人材が、使いこなせない人材に取って代わる」と指摘し、今後5~10年のベトナムでは仕事不足ではなく、新しいスキルを持つ人材不足が課題になるとの見方を示している。
雇用市場は「縮小」ではなく「車線変更」
今回の動きは、景気後退による雇用減少ではない。
AIやデジタル化によって定型業務は減少する一方、インフラ整備や先端産業、デジタル分野では新たな雇用が拡大している。
ベトナムの労働市場は量的に縮小しているのではなく、「どのような人材が求められるか」が大きく変化する「車線変更(構造転換)」の段階に入ったと言えそうだ。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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