8月27日から29日の3日間、ホーチミン市のSECCでベトナム最大級の国際旅行博「ITE HCMC 2026」が開催された。「Asia’s Best Trade Show」を受賞した本イベントは20回目。500以上の出展企業が40ヶ国・地域から集まった。

ベトナム各地が観光を売込む
ITE HCMC(International Travel Expo Ho Chi Minh City) 2026は一般的な展示会とは来場者が異なる。初日と2日目は9:00~15:30が招待バイヤーや展示会パス保持者など観光・関連分野の関係者のみで、15:30~18:00が一般公開。最終日は終日が一般公開だった。
つまり、BtoB商談を軸にしながら、一般来場者にも観光地や旅行商品の魅力を伝える構成だ。私も初日午前中に一般ビジターとして行くと入場を断られ、プレス枠で参加できた。
展示のメインは自治体で、ハノイやハイフォンなどの大都市から、アンザン省、ザライ省、ラムドン省、ハイズン省、クアンガイ省、カマウ省、ランソン省、ドンタップ省、ゲアン省など、「お国柄」を前面に出した色とりどりのブースが並ぶ。一番大きいブースはもちろんホーチミン市、オレンジ色でデザインに凝っていたのはダナン、フエ、クアンチ省の中部連合だった。
海外は日本、韓国、台湾の東アジアと、ミャンマー、マレーシア、タイ、カンボジア、ブータンなど東南アジアのパビリオンが中心。他は航空会社、旅行会社、ホテル、クルーズなどで、変わったところでは電子決済サービスのMoMoやベトナム国鉄公社なども出展していた。
業界関係者に限られていたためか来場者にはスーツ姿の男女が珍しくなく、欧米系やアジア系の外国人も多かった。

日本旅行を仕掛けるJNTO
日本パビリオンの核は日本政府観光局(JNTO)ベトナム事務所。ITE HCMCに出展を続ける常連だ。今回は地方自治体やランドオペレーター、モビリティサービスなど6つの共同出展団体を取りまとめた。スタンプラリーなど来場者が回る仕掛けを施すそうだ。
ベトナムからの観光客は順調に増えているが、まだ訪日経験のない層も多いとのこと。まずは東京、富士山、京都、大阪を巡るゴールデンルートで初の訪日旅行をプロモーション。その上で、リピーターは地方に誘客する。ベトナム人に人気があるのは北海道や白川郷(岐阜県)という。
「今回の出展ではベトナムの旅行会社さんに地方の魅力をアピールし、新たな旅行商品に組み込んでいただきたいです」
ご存じのように、ベトナム人の日本旅行は個人ではなくツアー旅行が中心のためだ。2026年7月から、ベトナム人が日本のビザを申請する際の手数料が従来の約5倍となった。その影響が心配されるが、「日本へ行きたいというベトナム人は非常に多いため、心配していません」。
南部はホーチミン市のITE HCMC、北部はハノイでの国際旅行博覧会VITMに出展し、これからも日本の魅力を発信し続ける。

瀬戸内の魅力で直行便を
ジャパンパビリオンの自治体は香川県と東京都。香川県は高松空港と組んで、認知度アップと同時にベトナムからの直行便誘致を狙う。
「ベトナムからの観光客はまだ少ないですが、直行便が増えた韓国や台湾からの観光客は着実に増加しています」
香川には瀬戸内海の島々、自然、アート展示などもあり、都会とは違った「いい感じの田舎」の魅力が詰まっているという。この展示会のために香川県を紹介する約50ページの書籍を作り、写真とベトナム語で魅力を載せた。
「高松空港はターミナルを拡張工事中で2027年春に完成予定。国際線の受入れ能力が高まります」

東京が持つ多彩な戦略
抜群の認知度を誇る東京だが、今回の目的は都心だけのプロモーションではない。東京観光財団は東京の魅力を発信しつつも、東京に来た観光客が地方へ足を伸ばせるよう、各自治体と提携して周遊プログラムを企画している。
「東京でも島々や多摩エリアなど、都心から足を延ばせる場所もあり、高尾山なども人気です」
海外には東京観光財団の代理営業をする東京観光レップがあるが、ベトナムにはないため、直接プロモーションをしているそうだ。
観光情報だけでなくイベントカレンダーやチケット予約機能も揃った東京の観光公式サイト「GO TOKYO」もアピールしており、世界の大都市である東京はさすがに仕掛けが多い。

地方の魅力を冊子に託して
自治体国際化協会(J.CLAIR)シンガポール事務所は、日本とASEANやインドなどの自治体間の交流を推進する海外事務所。こうした展示会に直接出展できない日本の多くの自治体から観光パンフレットを預かり、それぞれの魅力を丁寧に説明していた。
「ブースを訪れるバイヤーさんや一般来場者の方に、福引(抽選器)でノベルティを渡します」
ブースには多種多様な自治体の資料が並ぶが、数が多くて展示できていないパンフレットもあるそうだ。ベトナムだけでなく各国で同様の試みを続けている。

ANAのCA発、新サービス
ANAホールディングスは、インバウンド向けの新規事業プロモーションで出展。訪日旅行中に車椅子、ベビーカー、電動カートをレンタルし、到着空港で受け取って使用した後は、異なる空港で返却(乗り捨て)できるサービスだ。
「現在1年目の実証実験中ですが、ベトナムのお客様の利用率が東南アジアで最も高いのです」
日本で働くベトナム人が母国の親を呼び、ファミリーで旅行するケースも多いそうだ。不慣れな日本旅行で、「歩くのに疲れた」や「荷物が増えた」時に喜んで使ってもらっていると語る。
この「MoVA」はCA(客室乗務員)の女性が提案した新規事業で、実証実験でニーズや将来性が見込めれば事業化が決定するとのこと。海外初プロモーションがベトナムとなった。

北アルプスを周遊でアピール
パビリオン以外の単独では長野県と富山県が共同で出展。その理由は、両県の間にある「中部山岳エリア」を山岳観光として紹介するためだ。東京と関西を結ぶ観光ルートの中間に位置するこのエリアは、北陸新幹線などでのアクセスも良く、周遊に最適だという。
「例えば、立山黒部アルペンルートはベトナムでも認知が高いです。長野から入って富山へ降りるなど、一歩踏み込んだ地方観光を提案しています」
長野県では上高地がSNSで人気急上昇中であり、富山県では世界遺産の五箇山が注目されているそうだ。
「在住者は多くても観光客はまだこれから。ベトナムの旅行会社と直接つながり、周遊ルートを定番化させたいです」

雪のない国からスキー客を
群馬県のスキーリゾート、パルコール嬬恋リゾートは初の出展。タイ、シンガポール、台湾などからの訪日客が5割を占めるが、新たにベトナムの開拓に乗り出した。
「現地の旅行会社にツアーを組んでもらうためのBtoB商談が主な目的です」
強みは、ホテルとスキー場が直結した「スキーイン・スキーアウト」が可能な施設。また、東京駅から新幹線で軽井沢駅まで約1時間で、そこから無料送迎バスを利用できる。このアクセスの良さも強調していた。
米国やオーストラリアなどからの観光客はスキー板などを持参する場合も多いが、東南アジア客はフルレンタルが基本なのでお得意さんになるそうだ。
「外国人は若い方の他はファミリー層が多いです。子どもに良い体験をさせてあげたいという30~40代の親御さんですね」

急成長中のホテルが初出展
全国約30ヶ所に展開するリオ・ホテルズも、ベトナムでの知名度向上を狙い、今回初めて出展した。コロナ期の2020年に参入し、わずか6年で急成長、来年には兵庫県尼崎市にオープンを控える。
「現在、ベトナムのツアー利用が増えており、現地旅行会社との新たなネットワーク構築のために出展を決めました」
昨年初めて中国・広州の展示会に出展して、現地旅行会社と連携でき、日本への送客がかなり増えた。そこで今年は、台湾、香港、シンガポールで出展し、ベトナムへと続いたそうだ。
「中国や韓国などアジアのお客様は多いのですが、ベトナムの方をもっと増やしたいです」

空港周辺店舗でショッピング
日本のイオンリテールも直接出展した。訪日ベトナム人に日本のイオン、特に免税対応のある店舗で買い物をしてもらうことが目的だ。イオンは日本に380店舗ほどあるが、同社の管轄はその中の約60店舗という。
「ベトナムでイオンは非常に有名ですが、日本では成田や常滑など空港近くの店舗の存在も知ってほしいです」
BtoBでは旅行会社に対して、ツアー行程にイオンでのショッピングを組み込んでもらうよう働きかける。BtoCでは個人旅行の観光客に、「旅行先の近くにあるイオン」を紹介したい。
マレーシアやインドネシアは訪日客が少なく、近年は航空便数が増えているベトナム市場を重視しているそうだ。































取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。