変化するベトナムを見極める
選球眼で挑む都市開発戦略
ベトナムで15年以上の実績を持つ三菱地所ベトナム。現在は自社ブランドによる物流施設開発と事業シェアの多寡にこだわらないマンション開発を二大柱に据え、事業拡大を目指す。戦略と今後の構想を加賀本崇至社長が語る。

物流と住宅で加速する投資
―― ベトナム進出について教えてください。
加賀本 三菱地所がアジア進出を本格化させたのは2008年、シンガポールにMitsubishi Estate Asiaを設立したことが起点となります。東南アジア諸国を調査する中で、投資先として有力な候補となったのがベトナムでした。
2010年からシンガポール系大手デベロッパーのキャピタランドと共同で、ホーチミン市とハノイでマンション開発に着手しました。その後、2019年4月に現地法人の三菱地所ベトナムをホーチミン市に設立。翌2020年にはハノイにも支店を開設し、ベトナムの2大都市とその周辺をカバーする体制を整えています。
これまでの約15年間で、私たちは累計1000億円におよぶ投資を実行してきました。南北併せて平均7~8件のプロジェクトが同時進行しています。

―― 御社の事業内容を教えてください。
加賀本 現在は大きく分けて、分譲マンション開発と新たに加わった物流施設開発に注力しています。住宅事業ではキャピタランドなどの有力なパートナーと共同で、大規模なプロジェクトを推進しています。
直近ではハノイにおいて、同市西部で総戸数3950戸の「Lumi Hanoi」(ルミ・ハノイ)、東部で総戸数2152戸の「The Senique Hanoi」(ザ・セニーク・ハノイ)という2つの大型分譲マンション開発に参画しました。
どちらも投資家向けというより実需向けのアッパーミドルクラスで、Lumi Hanoiは2026年、The Senique Hanoiは2027年に竣工予定です。弊社の住宅プロジェクトとして過去最大級の規模で、両物件共に既に全戸完売しています。
もう一つの大きな成長エンジンとなっているのが物流施設事業です。三菱地所グループの物流施設ブランド「ロジクロス」(Logicross)を、ベトナムで初めて海外展開しました。ベトナムはサプライチェーンの重要拠点であり、貿易量の増加が見込まれる上、内需の拡大も期待できると考えています。
2025年6月にホーチミン市近郊のタイニン省(旧ロンアン省)で「Logicross Nam Thuan」が竣工し、同年10月には北部ハイフォンで「Logicross Hai Phong」が竣工しました。
前者はeコマース事業者や小売事業者によるホーチミン市の消費者向け配送センター需要が多く、後者は港湾が近いことから輸出入に関連した製造業が主なターゲットです。
他の共同事業とは異なり、物流施設に関しては三菱地所が100%単独で開発・運営を行っているのが大きな特徴です。その上で「Logicross Hai Phong」については一部シェアアウトして共同事業化することにより、フィービジネスにもつなげています。

―― ベトナム事業の課題とは何でしょうか。
加賀本 住宅やオフィスなどの新規開発における、許認可手続きの難しさでしょうか。進出当初、私たちは大規模開発において過半数のシェアを握るメジャーでの参画を志向していました。
しかし、弊社だけに限りませんが、諸所の事情から不動産開発の許認可が思うように進まず、さらにコロナ禍による中断も重なり、多くのプロジェクトが前に進まない経験をしました。
そこで戦略の転換を図り、単に規模やシェアにこだわるのではなく、確実に動くプロジェクトを見極めるようにしました。そのための「選球眼」を養うようにも努力しました。
具体的には、住宅事業では信頼できるパートナーとの協業を重視し、仮にマイナー参画であっても、確実に進捗する案件を選びます。一方、物流施設開発においては、政府から開発が奨励されている工業団地内に作ることで、許認可のリスクを低減させました。加えて100%自社主導でスピード感を持って進めるという、アセットに応じた柔軟な体制を構築しました。

次の10年、「もっと行ける」
―― ベトナムの直近の不動産事情を教えてください。
加賀本 先のように不動産開発の遅延が続いていましたが、トー・ラム書記長の就任以降、風向きが大きく変わりました。
書記長はこれまでの「反汚職」に加え、非効率な行政手続きや法整備の遅れを国家的な損失とみなす「反浪費」を掲げており、不動産分野においても許認可がスムーズに進むようになりました。実際、マンションの供給量も増えています。
国を挙げたインフラ開発も急ピッチで進んでいます。道路や鉄道が整備されれば、その周辺に新たな居住地域や商業需要が生まれます。我々にとっても大きなメリットになります。

―― 今後の計画を教えてください。
加賀本 ハノイとホーチミン市を中心に、毎年1~2件の新規案件を安定的に供給できる体制を確立します。
新しいプロジェクトでは、ハノイ中心部の高級タウンシップエリアの高級分譲マンション「Maison Privée」(メゾン・プリヴェ)の開発に参画しました。総戸数が490戸で、2026年第3四半期に着工し、2029年第1四半期に竣工する予定です。
こうした住宅や物流施設の開発を続けながら、新規のオフィス開発、将来的にはショッピングセンター、オフィス、マンションを組み合わせた大規模な複合開発にも挑戦していきたいです。
不動産開発には、土地の取得から利益が出るまで通常5~6年を要します。そのため、私たちは既にある2030年までの現行の経営計画の先、2030以降どのように事業展開していくかの構想を練り始めています。
そこで目下、日本本社にも伝えているのは、「ベトナムはこれからもっと行ける!」という強い実感です。

確かに、中所得国の罠、高齢化、産業構造、輸出依存など不安材料はありますが、新興国の中でベトナムの成長は特筆すべきものです。これまでの弊社の実績も比較的順調であり、累積の計上利益も多額に上ります。
不動産開発にはタイミング、ロケーション、進捗状況などにおいて「目利き」が必要になりますが、実績から来る市場の信頼感も手伝って、選球眼が養われてきたと自負しています。サステナブルな開発を含めて、ベトナムのさらなる都市発展に貢献していきたいです。
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Mitsubishi Estate Vietnam
加賀本崇至 Takashi Kagamoto
大学卒業後に三菱地所に入社。経理部門などを経て2006年にニューヨーク支社に赴任。2009年にロックフェラーグループに出向。帰国後はビルアセット業務や広報部IR室長などを経て、2022年4月より現職。