配達、動画制作、オンライン教師、ライブコマース――。副業大国ベトナムではZ世代を中心に、アプリ経由で短期・単発の仕事を請け負うギグワークが広がる。各種統計と調査データから、その実態と「光と影」を読み解いた。
アプリが変えた労働市場
副業を持つ人が珍しくない「副業大国」のベトナムにおいて、Z世代を中心とした「ギグワーク」(Gig Work)が急速に一般化している。経済構造としては「ギグエコノミー」(Gig Economy)とも呼ばれ、主にネット上のデジタルプラットフォームを通じて、短期や単発の仕事を個人で請け負う働き方を意味する。
具体的には輸送・配送、動画制作、Web開発、デザイン、オンライン教育、ライブコマースなどの仕事だ。
ベトナムの労働・社会科学研究所が2025年10月に発表した「ベトナム労働市場に与えるギグエコノミーの影響」では、ハノイ、ホーチミン市、ダナン、ハイフォンなど490人を対象に調査した。
その結果、70%がギグワークの経験があり、回答者の52%を占める15~25歳の若者が積極的に利用しているという。また、2つ以上の仕事を持つ人も73%と多く、単なる小遣い稼ぎを超えた副業の常態化が見えてくる。
ギグワークの獲得方法は65~70%がオンラインアプリで、ベトナムでは数十の主要なプラットフォームが稼働しているそうだ。
代表的なものは、交通・配送系ならGrab、Be、ShopeeFood、AhaMoveなど、プログラミングやグラフィックデザインなど専門フリーランス系なら国内向けはvLanceやfreelancerViet、国際向けではUpwork。ソーシャルコマース系ではTikTok ShopやShopeeなどだ。
2025年以降の顕著な傾向として、AIを駆使して1人で2~3の仕事を同時にこなす若者が現れており、彼らは従来よりも高い生産性と収入を得ている。
こうした働き方と無関係でないのは学歴だ。回答者の学歴は大卒が60%、大学院卒が23%で8割以上が高等教育を受けている。そして、ギグワーカーの70%以上が、プラットフォームを通じて報酬や仕事内容を自律的に選択できることに価値を感じている。


ギグワーカーの自由と不安定
ギグワーク拡大の背景には企業側の思惑もある。ベトナムの企業の98%を占める中小零細企業は、vLanceなどのプラットフォームを活用することで、従来の採用に比べてコストを20~30%削減している。
一方、ギグワーカーの90%以上が強制社会保険に、80%以上が医療保険に未加入。さらに正式契約は3割に満たず、7割以上が労働法の保護対象外だ。働き手側も30%が「仕事・収入が不安定」、65%以上が「1年後も現職を続けられるか不確実」と不安を訴えている。
最後に肝心な収入だ。ギグワーカーは大きく3つの層に分かれ、56.7%と最も多いのが月収500万~1500万VNDのグループ。その多くは、本業と副業の2つの仕事を持つか、配達や運送などの単一のフリーランス専業者だ。
2番目は27.9%で月収500万VND未満。学業とアルバイトを両立させている学生が中心だ。そして残りは月収1500万VND以上の層(15.4%)だが、2000万VND以上はごくわずかという。レポートではこの水準に達するには、時間や体力の面でかなりの代償が必要になると指摘している。
ベトナム統計局(NSO)が発表した2026年第1四半期の労働者平均月収は約900万VND、都市部の平均月収は約1070万。ギグワーカーの収入とさほど変わらないようだ。


Grabが生んだ成功モデル?
ギグワークの代表の1つが輸送や配送を担うGrabなどのドライバーだ。2024年8月に発行された「ギグエコノミーの成功モデルを探る:ベトナムにおけるGrab事例」では、2213人のGrabドライバーを対象に調査した。
ここではベトナムのギグエコノミーを成功モデルとし、新しい価値や新しい労働市場が所得を増加させるとした。「新しい価値」とは柔軟な労働時間、場所の選択、マルチタスク能力などで、「新しい労働市場」とは従来の硬直した雇用から柔軟なギグベースへの転換などだ。
具体的には、「自分で稼働時間を選ぶ」、「生産性を最大化する」、「コミュニティとのつながりを築く」の3要素が高収入と相関関係にあるという。
権利保護の欠如や雇用の不安定さといった課題はあるが、多様な人々に副収入や仕事の機会を提供しており、若年層がこの新しい経済モデルで重要な役割を果たしていると強調する。若く、教育水準が高く、デジタルスキルを持つ個人ほど、ギグワークに従事する可能性が高いという。
調査時期が2020年と少々古いが、18歳~65歳以上のGrabドライバーの中で、18~29歳が31.2%と約3分の1を占めた。学歴では高校卒業が37.6%と最多だが、大学卒が11.24%、大学院卒が0.90%と高学歴層もGrabでの働き方を選択している。


X・Y・Z世代で異なる本音
ホーチミン市オープン大学が2024年3月に発表した「ベトナム・ギグエコノミーの世代間差」は少々ユニークで、「まだギグワークに参加していない労働者」を対象に、その参加意向を分析した。
回答者は374人で、X世代(26.2%)、Y世代(44.1%)、Z世代(29.7%)の世代別傾向が明らかになった。各世代はX世代が1965~1975年生まれ(2025年時点で50~60歳)、Y世代が1980~1994年生まれ(同31~45歳)、Z世代は1995~2010年生まれ(同15~30歳)としている。
ここでは参加意欲に影響する要因をS=Skills(スキル)、T=Platform(デジタルプラットフォーム)、F=Flexible working time(柔軟な勤務時間)、R=Perceived risk(リスク認識)、I=Current income(現在所得)として数値化している。
詳細な数字を省いて説明すると、X世代が最も重視するのは「安定」で、収入や契約を不安に感じると参加意欲が下がる。また、デジタルプラットフォームへの親和性は低めで、会社経由の仕事を好む。
Y世代は全世代の中で最もリスクを嫌い、安定収入志向が強い。柔軟な時間は評価するが、重視するのは家族、住宅、安定だ。
Z世代は全要素の中でスキルが最も大きく、プラットフォームへの依存が高い。また柔軟な働き方志向が強く、リスク耐性がかなり高い。
ざっくりまとめると、X世代は年齢が高くて職業歴が長いせいか、安定志向で無理はしない。Y世代は住宅ローンや教育費などが必要なためか、副業に興味はあるが本業第一。Z世代は個人スキル重視で、プラットフォームを活用し、自由時間を求める。
レポートは「まだ副業していない人ですら、Z世代はギグ志向が強い」と示唆。また、総じてベトナムはギグエコノミーの適性が高い一方で、潜在的な機会と課題の両方を抱える新興市場としている。

若者を副業へ走らせる背景
ベトナム統計局によると2025年第4四半期の「インフォーマル就業者」は3270万人。これは非公式な雇用形態で働く人で、就業率は61.9%。つまり、労働者の約6割が正式雇用の外側にいる。
日本の場合、2025年10~12月期平均で役員を除く雇用者は5866万人、そのうち非正規の職員・従業員数は2126万人で、非正規雇用の割合は36%となっている。
このようにベトナムでは非公式で働く人が多いことに加えて、若者の失業率が高い。ベトナム統計局によれば、2026年第1四半期の15~24歳の若年層の失業率は8.86%、都市部では10.7%に達した。
全国で約160万人の若者が教育や訓練にも参加していない失業状態にあり、若年層人口全体の11.4%にもなる。
こうして見ると、ギグワークで働く若者が増加している背景には、「正社員だけでは食えない」、「仕事が見つからない」などの現実があるのかもしれない。

ギグワークの職種と値段
最後にいくつかのギグワークを見てみたい。ベトナムの経済・金融情報サイトであるCafeFの記事「2026年:信頼できる7つのパートタイムの仕事」(2026年3月)から抜粋した。
まず、「ショート動画の作成と配信」。KOLである必要はなく、家庭用品のレビュー、消費習慣、旅行体験、書籍や物語の要約などの動画を配信して、Shopee、TikTok Shop、LazadaなどのECサイトから手数料を得る。1日10~30万VND、優秀な人なら1ヶ月500~700万VND。
ECの「オンライン販売担当」は1ヶ月200万~500万VND。SNSで注文を受けた顧客にアドバイスをして、在庫管理や配送は販売者が担当する。売れ筋は手頃な価格の化粧品、小型の家庭用品、包装食品、子供向け商品など。
「コンテンツライティング」は執筆業。一般的にSEO記事が1記事12万~20万VND、シンプルなPR記事で25万~40万VND。継続的に働けば1ヶ月300万~600万VNDになる。
「時間制代行サービス」は安定収入が魅力。1時間当たり一般的に、家事代行サービスは6万~8万VND、ベビーシッターは8万~12万VND、イベントアシスタントは20万~40万VND。
外国語、IT、音楽などの専門知識があれば「オンライン個別指導」も候補となる。1回で家庭教師なら15万~25万VND、オンライン授業で12万~20万VND。週10コマの授業を担当すれば1ヶ月500万~800万VND程度となる。
これらはあくまで一部の目安だが、何となくギグワーカーの仕事がわかっていただけただろうか。我々の生活そして仕事にも、既に欠かせない存在となっている。























取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。