日本の牛めしで1億人市場へ挑む
ベトナム1000店舗への第一歩
日本の牛めしを世界へ。松屋フーズがASEAN進出の足掛かりとして選んだのは、1億の胃袋を持つベトナムだ。中国事業で現法社長を務めた松屋フーズベトナムの荒川賢社長が、この国独自の戦略を語る。

三度目で実現したベトナム
―― 松屋フーズの海外進出について教えてください。
荒川 2005年頃の中国・青島、米国・ニューヨークでの展開から始まります。その根底にあるのは日本の人口減少への強い危機感です。国内だけで5~10年はやっていけても、20~30年先を見据えたとき、海外での売上確保は不可欠と考えました。
開店と閉店がありながらも、現在は中国、台湾、香港とアジアを中心に展開しており、ASEANで初めて出店したのがベトナムです。勢いのある経済成長も理由ですが、飲食店にとっての生命線はいかに人々の胃袋をつかむかであり、日本とほぼ同等の1億人という人口規模には大きな魅力を感じました。
実は、ベトナム進出は「三度目の正直」でした。2017年に最初の調査を行い、当時はインフラが整っていた台湾への進出を優先しました。その後、2020年に再び検討しましたがコロナ禍で中断。2023年にようやく再スタートを切り、2024年1月にMATSUYA FOODS VIETNAMを設立。同年11月にホーチミン市中心部の大規模複合施設に、待望の1号店をオープンしました。
その後、地場の若者が多い地域、日本人街、空港の近郊、ショッピングモール内など、同じホーチミン市内でも立地の特色を変えながら、合計5店舗を出店しました(取材時)。それぞれ客層などが異なりますから、今は各店舗の様子を見ていると同時に試行錯誤を続けています。

―― メニューや客層にはどのような特徴がありますか。
荒川 日本の松屋では多くのベトナム人が働いているので、彼らにアンケートを取りながら、最初のメニューを決めました。牛めし、焼肉定食、ラーメン、とんかつが柱だったのですが、出してみると豚生姜焼き定食やネギ塩豚焼肉丼などはあまり売れませんでした。逆に当初はメニューから省いたカレーを実験的に出すと大ヒットし、今では定番商品に成長しました。
看板メニューである牛めしもそうですが、基本的にはローカライズせず、日本の味そのもので勝負しています。ただ、米はメコンデルタ産を使うなど食材の現地調達を心掛けていますので、厳密にいえば多少日本と味が違います。

平均所得が高い香港や近々進出するシンガポールは、調味料等は日本から輸入のため日本と同じ味です。一方でベトナムでは価格をできるだけ抑えるようにしているため、現地調達を基本としております。
それは我々のお客様にも関係しています。少ない店舗で7割、多い店舗では9割がベトナム人の方ですが、日本人街の3号店ならビジネスパーソンが多いので日常的に使っていただく方もいます。
一方、旧ビンタン区の2号店は近くに学校があるため学生さんが中心で、月に一度などの「ちょっと特別な食事」になります。彼らに通っていただける価格帯は合計で6万~7万VND程度と考えており、企業努力で近づけることが課題です。

―― 人気メニューは何でしょうか?
荒川 1番出ているのがスタンダードな牛めしです。3位と4位が半熟玉子牛めし、キムチ牛めしで、5位がロースかつカレーです。2位がちょっと意外で牛焼ビビン丼です。豚焼もありますが、人気は牛焼ビビン丼ですね。
当初はさほど期待してなかったのです。実はビビン丼は焼肉、キムチ、半熟玉子などが材料なので、新しい食材を探さずにメニュー化できます。メニューのプラスアルファとして提供したらベトナム人の口に合ったようです。
一方、ベトナム料理のコムタムを日本の味付けで作ったことがあります。日本風が良くなかったのか、さほど出なかったですね(笑)。こうした特別メニューはおよそ1ヶ月に1回投入しています。海外向けの商品開発を担当する部署が日本本社にあり、各国と連携しながらメニューを開発しています。
ベトナムでは現在、100%独資による直営方式で運営しています。日本国内約1300店舗のうちフランチャイズはごく僅かであり、他国でも同様です。この直営での勝ちパターンを海外にも移植することで、品質とサービスを担保しています。

中国で見た成長が再現
―― 他国と比べたベトナムの外食市場をどう思いますか。
荒川 私は以前に上海に駐在し、日本の国際事業部に戻ってからも中国現法の社長として中国市場を見ていました。現在のベトナムは2010~2011年頃の中国と非常に似た雰囲気を感じます。従業員の給与水準や地下鉄の建設状況などで、経済成長のエネルギーがまさに爆発しようとしている段階です。
ただ、中国と違うのはそのスピード感と市場構造です。中国は一党独裁の下、強引なほどの速さで変化しましたが、ベトナムは程良いスピードで進んでいます。また、タイやインドネシアのように大財閥がショッピングモールを管理するなどもなく、外食のチェーン化という点では、ベトナム市場はまだ創世記にあります。成長の余地は無限にあると考えています。

―― 今後の計画や展望について教えてください。
荒川 2027年までに合計10店舗の出店を計画しており、概ね計画通りに進んでいます。まずはホーチミン市周辺の地盤を固めますが、将来的にはハノイやダナンといった全土への拡大も視野に入れています。最終的な目標はほぼ同じ人口を持つ日本と同じ規模、つまり1000店舗レベルの展開です。
そのための人材育成にも力を入れています。ベトナムの3つの大学とインターンシップ協定を締結し、日本の店舗でスキルを磨いた学生たちが、将来の幹部候補としてベトナムに戻って活躍する仕組みを作っています。それ以外にも日本の松屋で勤務経験があるベトナム人を積極的に採用しており、1号店開店時に呼んだ7人のうち、3人が店長に育っています。
ベトナムは、香港や台湾に比べれば芽が出るまで時間はかかるかもしれません。しかし、ひとたび花が咲くときには、どの地域よりも大きな実を付ける市場だと確信しています。





















MATSUYA FOODS VIETNAM
荒川 賢 Ken Arakawa
大学卒業後、別の業界を経て松屋フーズに入社。店長、教育研修部門、経営企画、北海道の責任者等を経て、2010年から5年間中国の上海に駐在。国際事業部を経て、2024年4月より現職。