ベトナム商工省は、電気自動車(EV)の充電器・充電ステーションに関する国家技術規格「QCVN 32:2026/BCT」を制定した。充電設備の安全性や品質、計量などに関する技術要件を全国で統一するほか、異なるメーカーのEVが充電ステーションを共用できる仕組みを求める。規格は2027年7月1日に施行される。
EV充電設備の安全基準を全国で統一
ベトナムでは近年、EV市場の拡大に伴って充電インフラへの投資が急速に進んでいる。
自動車メーカーが整備する充電網のほか、ディーラーや独立系事業者による公共充電ステーション、職場や駐車場、商業施設などに設置された充電器など、さまざまな形態の充電インフラが展開されている。
一方、充電器・充電ステーションに関する管理規定は、電力、建設、防火・消防、計量など複数の法令に分散しており、充電設備そのものを対象とした統一的な技術規格は整備されていなかった。
そのため、事業者が独自の基準や海外規格を用いて設備を導入するケースもあり、設置場所によって安全対策などに差が生じることが課題となっていた。
新たな国家技術規格では、充電器や充電ステーションの設計、投資、輸入、設置、運用、検査などについて、最低限満たすべき技術要件を定める。
電気・防火対策や充電料金の計量も対象
新規格では、充電器の接続端子や充電モードについて互換性に関する要件を定める。
交流(AC)普通充電ではMode 3、直流(DC)急速充電ではMode 4を対象とし、充電器と車両の接続に必要な技術要件を標準化する。
また、漏電や過電流、過電圧への保護、接地、絶縁などの電気安全対策に加え、充電器の防水・防じん性能を示すIP等級についても規定する。
充電器に組み込まれた電力量計については、ベトナムの計量法に基づく管理を求め、定期的な検定を受けることを義務付ける。充電料金の算定に関わる電力量を正確に計測することが目的である。
また、国内で生産された充電器は流通前に適合性を公表する必要があり、輸入品についても規定に基づく品質検査が必要となる。
一方、充電ステーション全体については、ステーションそのものに一律の適合証明を求めるのではなく、設計、設置、完成検査、運用条件などを管理する仕組みとする。
既存の充電器には移行期間を設定
新規格は2027年7月1日に施行される。
施行前に製造、輸入、流通していた充電器については、施行後12カ月間、引き続き流通・設置することが認められる。
また、すでに合法的に設置されている充電器については、製品の耐用年数が終了するまで使用できるとしている。
メーカーをまたいだ充電ステーションの共用を義務化
今回の規格で特に注目されるのが、充電インフラの「共用」に関する規定である。
新たに運用を開始する充電ステーションは、共通する充電方式と接続規格を満たす限り、異なるメーカーのEVにも対応できる技術要件を満たす必要がある。
これまでベトナムでは、自動車メーカーが自社ユーザー向けに独自の充電ネットワークを整備するケースが多かった。
なかでもビンファストは、全国各地に大規模なV-Greenの充電網を展開している。EV市場の立ち上がり段階では、自動車メーカーが自ら充電インフラを整備することが市場拡大を支える役割を果たしてきた。
一方、EVメーカーが増えれば、各社が独自に充電網を構築することで、土地や電力などの資源が重複して使われる可能性がある。また、海外メーカーがベトナム市場に参入する際、自社車両を利用できる充電ステーションが少ないことが販売上の障壁となる可能性もある。
充電網の共用、投資効率向上に期待
自動車専門家のグエン・ミン・ドン氏は、メーカーをまたいだ充電ステーションの共用を支持している。
同氏によると、欧州や米国でも公共充電ステーションについて、特定メーカーの車両に限定しない仕組みが導入されており、充電インフラの独占を抑える方向で制度整備が進められている。
一方、すでに事業者が投資した充電ステーションについては、既存設備への対応をどのように進めるかが課題となる。
同氏は、既存設備については事業者間で費用を分担する仕組みなどを検討する必要があると指摘する。また、充電ステーションの運営事業者が利用者や車種に応じて異なる料金体系を設定できる仕組みも提案している。
国内企業の投資意欲をどう維持するか
充電インフラの共用には、別の課題もある。
ホーチミン市経済・金融大学のチャン・アイン・トゥン氏は、充電ステーションの共用によって設備投資の重複を避け、インフラ全体の投資コストを抑えられると評価する。
その一方で、先行して大規模な設備投資を行った企業にとっては、競合企業が既存インフラを利用できるようになれば、先行投資によって得られる競争上の優位性が低下する可能性があると指摘する。
特に、海外企業や新規参入企業が大規模な初期投資を行わずに既存の充電網を利用できる仕組みになれば、先行して投資した国内企業の投資回収が難しくなる可能性もある。
そのため、同氏は税制や手数料面での優遇、投資資金への支援など、充電インフラの共用を促す政策を整備するとともに、企業間の契約に基づいて自主的に共用できる市場環境を整える必要があるとしている。
EV普及に向け、充電インフラの整備を本格化
ベトナム政府がEV普及を進める上で、充電インフラの整備は重要な課題となっている。
ホーチミン市開発研究院のレ・タイン・ハイ氏は、EVが市場に浸透し、国内の生産能力も形成され、多くの投資家が充電インフラへの投資を検討している現在、国家技術規格を導入するタイミングは適切だと指摘する。
充電器や充電ステーションについて安全性や運用上の基準を明確にすることで、消費者が抱える充電インフラへの不安を抑え、EV購入を後押しする効果も期待される。
今後は、単に充電ステーションの数を増やすだけでなく、メーカーをまたいで利用できる充電網をどのように構築し、既存事業者の投資回収と新規参入をどう両立させるかが課題となる。
今回の国家技術規格は、ベトナムのEV市場を「各社が個別に充電網を整備する段階」から、より共通性の高い充電インフラへ移行させるための制度的な基盤となる。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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